Vol.93
タイのフードコートは、これまでは屋台の延長であり、ローカルのB級グルメが食べられる場所として、地元客や観光客から親しまれてきた。しかし、バンコクでは年々激化するフードコート競争により差別化や高級化が進み、人気店の出店や本格的な料理を提供するグルメスポットに生まれ変わりつつある。前編では、タイの地方やバンコク郊外などに本店がある老舗や有名店を集め、遠方まで足を運ばなくとも名店の味が一挙に楽しめるフードコートを紹介する。
タイ各地の有名店の味をバンコクにいながらにして堪能
バンコクでフードコートといえば「モールの顔」。モール全体のイメージづくりと集客を左右する重要な要素として位置付けられ、2014年5月に完成したショッピングモール「セントラル・エンバシー」(Central Embassy)は、まさにその成功例といえるだろう。
各国大使館が集中するプルンチット地区にある「セントラル・エンバシー」は、大型ショッピングモールが建ち並ぶこの界隈でも、ひときわ高級志向に特化したプレミアムクラスのモールで、ターゲットはタイの富裕層と海外からの旅行客。半地下階にある「イートタイ」(Eathai)は、5,000平方メートルの敷地に、ストリートフード屋台、フードマーケット、料理スタジオなどを収容した食のアミューズメントパークだ。食事も物販も価格は全体的に高めの設定ではあるものの、おいしいものには金を惜しまないタイの富裕層の心をつかんでいる。
フロア全体がタイの伝統的な農村のイメージで統一されており、調理で使う昔ながらの素焼きの器や、木製の屋台カーなどをディスプレイし、レトロでおしゃれなタイの雰囲気を演出している。英語を流暢に話せるスタッフがナイフとフォークがセットされたテーブルに案内してくれるので、我先に席を争うことなく、スマートに食事ができる点も魅力だ。
ほかのフードコートでは通常、タイだけでなく各国の料理が主流だが、「イートタイ」ではタイ料理だけに特化し、国内の中部、東北部(イサーン)、北部といった具合に各地の有名店が多数出店。例えば、中部ラヨーン県に本店を持つ「レムチャロン・シーフード」(Laem Cha-Roen Seafood)は、大きなスズキをまるごと揚げてナンプラーをかけた「プラーカポン・トート・ラート・ナンプラー」(420バーツ=約1,550円)が看板メニューで、バンコクに住むタイ人ファミリーがわざわざ車で片道3時間かけて食べにいくほどの人気店だ。それをここでは、1人前のセットメニューとして190バーツ(約700円)で提供。名店の味を手軽に味わえると、観光客や地元の1人客を中心に支持されている。
ストリートフード屋台のエリアにも話題の20店が軒を連ねる。2014年に日本上陸したバンコクのカオマンガイ(蒸し鶏のせご飯)専門店「ラーン・ガイトーン・プラトゥナーム」(Raan Kaithong Pratunam)も出店。利用者からは「オープンエアで暑い本店で食べるよりも、冷房の効いた清潔な空間でいろいろな料理を食べられる」と好評だ。
「イートタイ」の価格帯は、通常のフードコートよりも1.5~2倍と割高だが、ワンランク上の味・雰囲気・サービスを求める人には申し分がないようだ。
セントラル・エンバシー内 イートタイ(Eathai/Central Embassy LGF)
1031 Ploenchit road, Pathumwan, Bangkok
http://www.centralembassy.com/eathai/
有名店の味と手頃な価格が若者を引き付ける
一方、味は本格的ながらも低価格で勝負してヒットしているのが、「ターミナル21」(Tarminal 21)内のフードコート「ピア21」(Pier21)。「ターミナル21」は、オフィスビルが林立するBTSアソーク駅に直結しており、トルコのイスタンブール、東京、ロンドンなど世界の空港をコンセプトにした若者向けファッションモールだ。
「ピア21」は約1,000席と、他モールのフードコートの倍近い広さでランチ時は近隣で働くビジネス層、夕方には大学生であふれる。人気の理由は、テレビや雑誌で話題の味を食べられるからだ。29店のテナントには、バンコクの中華街に本店を構える老舗や、タイ西部、北部など地方都市のレストランが並ぶ。例えば、タイの屋台料理のガイド本『Thailand’s Best Street Food』(Tuttle刊)で紹介され、テレビの取材も多い「ジェーウォン」(Je Aun)。中華街にある本店は夜しか営業しない小さな屋台だが、「ピア21」ではいつでも並ばずに食べられるため、「本店にわざわざ行くより楽」との声も上がる。
さらなる強みは低価格だ。モール全体の集客力をアップさせるため、「ピア21」では他モールに比べて食事の価格は3分の2~半分の値段で提供している。例えば、「ラーン・ナムプリック・スントリー」(Raan Nam-Prik Suntharee)の「プラートゥ」という魚を揚げたものに「カオ・クルック・カピ」(エビ味噌ごはん)を添えた魚プレートは28バーツ(約100円)、「シンサーブ」(Sinsaab)のソムタム(青パパイヤサラダ)は30バーツ(約110円)、創業76年の本店は行列必至の人気店「ウンペンチュン」(Ung Peng Chung)のタイラーメン「バミー」は40バーツ(約150円)と、すべて食べても100バーツ以内という驚きの価格。そのため、単品で頼むよりも1人で2~3品、もしくは何品もテーブルに並べてシェアするグループが見られるのも、ここならではの光景だ。週に2~3回利用するという大学生たちは「学食やファストフードよりも経済的だし、バラエティがある」と話す。
フードコートで味を覚えた客を遠方にある本店に呼び込むという点でも、テナント側にとってのメリットは十分。「ピア21」は、タイ名店のショーケースとしての役割も担っているようだ。
ターミナル21内 ピア21(Pier21/Terminal21, 5F)
2,88 Sukhumvit Soi 19, Klongtoei Nua, Wattana, Bangkok
http://www.terminal21.co.th
取材・文/さとう葉
※通貨レート 1タイバーツ=約3.7円
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