スペイン発 スターシェフの豪華ストリートフード 前編

スペインのスターシェフたちがストリートフードをアレンジした店をオープン。一流シェフたちの料理が気軽に食べられると話題に。そんなスターシェフが提案するストリートフードを紹介する。

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Vol.95

モダンスパニッシュ料理を世界に広めたレストラン「エル・ブリ」(El Bulli)のシェフ、フェラン・アドリア氏らの活躍により、スペインのミシュラン星付きレストランのシェフたちはスターのような存在だ。しかし、スターシェフたちのレストランはスペイン人にとって高値の花。そんななか、バルセロナでは手頃なピザやハンバーガーが流行している背景もあり、スターシェフたちが2店目、3店目として、ストリートフードをアレンジした店をオープン。一流シェフたちの料理が気軽に食べられると話題になっている。そんなスターシェフたちが提案するストリートフードを紹介する。

スターシェフがエキゾチックな高級ハンバーガーを開発し、手軽に楽しめる店が人気
ミシュランガイドで3つ星を獲得した店もバーを出店し、スペシャルサンドウィッチを提供
ストリートフードを提供するが、店内は高級感を残しつつ、隣り合った人が会話を楽しめるよう大テーブルを配置して、気軽な雰囲気を演出

ジントニックと一緒に高級ハンバーガーをお洒落に楽しむ

高品質なハンバーガーの火付け役となった「ラ・ロヤレ」(La Royale)は、バルセロナ市内の高級住宅地サン・ヘルバシに2011年6月オープン。豪華なハンバーガーと、街中で流行しているカクテル「ジントニック」を組み合わせて提案し、オープン当初からメディアを賑わせている。

ヨーロッパ産ワギュウ(WAGYU)を使ったパティに世界3大青かびチーズの1つスティルトン、玉ねぎの甘煮などがのった「ラ・ロヤレ・プレミウム」(17.5ユーロ=約2,400円)

オーナーの1人としてメニューを開発したのは、バルセロナのホテルアーツ(Hotel Arts)内にある「エノテカ」(Enoteca)の2つ星をはじめ、計5つものミシュランガイドの星を獲得した経験を持つシェフ、パコ・ペレス氏。同店では、アメリカ産のアンガス、和牛品種を輸入して他の品種と交配させたヨーロッパ産のワギュウ、地元カタルーニャ州産のアルベラなど4種の牛肉を厳選して使用。高品質の牛肉を最適な方法で調理することにこだわっており、肉は冷却システムが内蔵された機械で毎日ミンチにする。肉の繊維を壊さずミンチにでき、水分を保つことができるため、焼いたときに硬くならないという。

また同店のハンバーガーは、ペレス氏が開発するエキゾチックな風味のソースが特徴。わかめやゴマ、しいたけ、コチュジャンなどを加えた「韓国」、ディルなどのハーブをたっぷり使ったクリームソース「北欧」、ジャポニカ米を使ってピリ辛ソースに仕上げた「サイゴン」など、個性豊かなフレーバーが並ぶ。各ハンバーガーのパティは150g、160g、180g、220gと選べ、12.90ユーロ~(約1,770円~)提供している。

そのこだわりはドリンクにも。ハンバーガーに合わせるドリンクというと、通常はソフトドリンクかビールをイメージするが、同店はジントニック(1杯10ユーロ~=約1,370円~)とともに優雅に楽しむことを提案。バルセロナでは約6、7年前から現在もなおジントニックが流行っており、あらゆる酒場でオーダーできるが、カクテルバー以外で同店のようにジンを31種もそろえ、本格的なジントニックを提供する店は珍しい。店周辺は高級住宅地であるため、流行に敏感で味にうるさい地元の富裕層たちも、ハンバーガーや気の利いた前菜とともに、気軽に食べて飲んで楽しんでいる。

ペレス氏がシェフを務めるミシュラン2つ星レストランでは、前菜・メイン・デザートなどのコースで約80ユーロ~(約10,960円~)。しかもドリンクは別料金。同店ならボリュームあるバーガーとジントニック1杯、みんなでシェアするサラダや温菜などを注文しても約35ユーロ(約4,800円)程度。地元で評判の店の客単価は30~35ユーロ(約4,110円~4,800円)であるため、他店と変わらない価格帯でスターシェフの味が堪能できると好評だ。店は共同経営で、最初に企画を考えた数名のうちの1人が、知り合いであったペレス氏にメニュー考案などを持ちかけたという。有名シェフとハンバーガーという組み合わせはバルセロナでは同店が初めてで、他のハンバーガーショップやカクテルバーと一線を画している。

脂身の多いワギュウ(WAGYU)のハンバーガーにぴったりな地元カタルーニャ州産のジン「ジン・ロー」を使ったジン・トニック(10ユーロ=約1,370円)。辛口で酸味も効いている
1階は70名収容可能で、10名用の個室と3テーブルほどのテラス席もある。また、地下1階には「ブラック」(Black)という名のバーがある
SHOP DATA
ラ・ロヤレ(La Royale)
Plaça Camp 5 08022 Barcelona
http://www.laroyale.es/

「世界のベストレストラン」覇者が提供するサンドウィッチ

「エル・セリェール・デ・カン・ロカ」(El celler de Can Roca)は、バルセロナの隣のジローナ県にあり、ミシュランガイドで3つ星を獲得したレストラン。イタリアのミネラルウォーターの会社、サン・ペレグリノが主催する「世界のベストレストラン50」で、2013年と2015年に1位を獲得し、バルセロナを州都とするカタルーニャ州でもっとも名声のある店の1つだ。長兄ジョアン氏(料理人)、次兄ジョセップ氏(ソムリエ)、末弟ジョルディ氏(パティシエ)のロカ3兄弟がオーナーを務める。バルセロナにはそんな彼らがプロデュースするレストランとバルがある。「ホテル・オム」(Hotel OMM)内にある「ロカ・モー」(Roca MOO)と「ロカ・バル」(Roca Bar)だ。

「ロカ・バル」の人気メニュー「ロカディーリョ」。具材は、左から「鶏肉と北京ダックソース」「うなぎの照り焼きソース」「牛テールの赤ワイン煮込み」。すべて10ユーロ(約1,350円)

モダンな高級レストラン「ロカ・モー」(Roca MOO)に対し、「ロカ・バル」(Roca Bar)は、ロカ兄弟の料理をタパス(おつまみ風の小皿料理)で、しかも手頃な価格で試せるとあり、2012年2月のオープン当時から話題を呼んでいる。観光名所の多いエシャンプラ地区という立地もあり、外国人観光客の利用も多い。

その「ロカ・バル」(Roca Bar)の目玉商品が「ロカディーリョ」というスペシャルサンドウィッチ(各10ユーロ=約1,350円)。特製のホットサンド機を使用して作られ、UFOのようなユニークな形状となっている。コンセプトは、煮込み料理とサンドウィッチの融合。具材には、牛テールの赤ワイン煮込みや子豚のオーブン焼きなど、スペインの伝統料理が使われているものもあれば、鶏肉のカレー、うなぎの照り焼きなど、他国の料理をアレンジしたものもある。そのどれもが「さすが3つ星レストランの味!」と人々を唸らせる。

客層は地元客と外国人観光客の半々で、客の大半は「エル・セリェール・デ・カン・ロカ」がプロデュースする料理を目当てにやってくる。本店は10カ月先まで予約が埋まっており、しかもバルセロナから車で約2時間半かかる。一方、「ロカ・バル」は予約なしで気が向いたときに入店でき、世界一の味が気軽に食べられるため、人気になるのも当然といえる。

「ロカ・バル」は、オープン直後に「エル・セリェール・デ・カン・ロカ」が世界一の名声を受けたことで幸先のよいスタートをきれた。「ホテル・オム」は「ロカ・バル」「ロカ・モー」も含め「トラガルス」(Tragaluz)という地元のレストラングループが経営しており、ホテル全体としての収支でとらえているため、同店では比較的リーズナブルな価格設定になっている。したがって高級レストランとしての位置付けの「ロカ・モー」とまとめて採算がとれればいいという考えだ。「ロカディーリョ」一品のみではなく、ラインナップが豊富なタパスとともに注文する客が多いのも、リーズナブルに高級サンドウィッチを提供できる理由だ。

5つ星ホテル「ホテル・オム」(Hotel OMM)の1階にある「ロカ・バル」の店内。奥には系列の高級レストラン「ロカ・モー」がある。週末は夜中まで盛り上がる人気のスポット
2012年のオープン以来チーフシェフを務めるアルベルト・ガルシア氏。以前は、「エル・セリェール・デ・カン・ロカ」で勤務していた
SHOP DATA
ロカ・バル(Roca Bar)
Roselló 265 Barcelona
http://www.hotelomm.com/roca-barcelona/roca-bar/

取材・文/MAKIKO HATA

※通貨レート 1ユーロ=約137円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。