フランス発 おいしさを追求したグルテンフリー 後編

パリでは、小麦などを使わない「グルテンフリー」で勝負する店が注目されている。後編ではグルテンフリーを「代替食」ではなく、逆手に取った新しいメニューを展開するレストランを紹介。

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Vol.98

美食の都パリでは、日々、新しいレストランが誕生している一方、競争の激しさから目新しいだけではすぐに淘汰されていく。そんなパリでは今、小麦などを使わない「グルテンフリー」で勝負する店が注目されている。前編では小麦粉の代わりに米粉やそば粉を使い、グルテンフリーのおいしさを伝えるベーカリーやパティスリーを取り上げたが、後編ではグルテンフリーを「代替食」ではなく、むしろ逆手に取った新しいメニューを展開するレストランを取り上げる。グルテンフリーという制約があるからこそ、食材を吟味して常に新しい食材を取り入れ、小麦とは違うアレンジを前面に出している。味にうるさいフランス人をも納得させる、グルテンフリーのメニューの秘密に迫る。

グルテンフリーと乳製品抜きという制約を設けたレストランが話題。その人気を受け、その店が手がけるレシピ本も出版されており、4カ国語で翻訳もされている
グルテンフリーと乳製品抜きでサンドイッチやデザートが楽しめるテイクアウト専門店も登場。より気軽にグルテンフリーを楽しむことができる
米粉ベースのもっちりした食感がくせになる、焼き菓子3種(コーヒー付きで8ユーロ=約1,080円)。小麦の香りが素材の味の邪魔をしないので、ナッツや蜂蜜の味が引き立つ

素材にこだわった、新感覚のフランス料理をグルテンフリーで

オペラ座に近い、話題のレストランやアンティークショップが集まるアーケード街、パッサージュ・デ・パノラマ。ここでひときわ賑わいを見せるのがグルテンフリーのレストラン「ノグル」(NOGLU)。オーナーのフレデリック・ジュル氏自身、グルテンが原因の免疫疾患を患っていたのがきっかけで、アレルギーの有無に関わらず、グルテンフリーの料理をおいしく楽しめるレストランをコンセプトに、2012年9月にオープンした。

前菜のフォアグラ、あんずのロティ添え(12ユーロ=約1,620円)は、あんずの甘酸っぱさがこってりしたフォアグラを引き締め、絶妙なバランスだ

シェフは日本人の柳瀬充氏。2006年に渡仏して以来、有名ホテルや星付きのレストランで腕を振るった経験を活かし、開店当時から同店を任されている。

グルテンフリーに加え、乳製品に含まれる「ラクトース(乳糖)」アレルギーにも対応し、乳製品も一切使わないメニューもそろえている。文章で書くのは簡単だが、フランス料理では主食であるパンはもちろん、つなぎやソース作りにも小麦は欠かせない。さらに、バターやクリームといった乳製品をたっぷり使うのが基本のフランス料理で、初めは試行錯誤の連続だったという。

「その制約の中で、いかにおいしい料理を作るかを常に考えて工夫しています。新しいことに挑戦するのは、いつもわくわくしますから」と柳瀬氏は語る。フレンチだからといってつなぎやソースにこだわる必要はない。いい素材があれば凝ったソースがなくても、香辛料やハーブを組み合わせれば今までにはない新しいフレンチができるはずだと考えているという。素材にこだわり、野菜や果物は農薬を使用しない農家から直接仕入れ、魚はその日水揚げされたものを柳瀬氏自ら厳選している。

コースは日替わりのメインに前菜、またはデザート、どちらか好きな方をつけて24ユーロ(約3,240円)。また、単品メニューもそれぞれ常時4~5種類そろえている。この日のメインはメグルという白身魚のソテーに黒米とアーティチョーク添え(20ユーロ=約2,700円)。数種のハーブを使ったソースにパッションフルーツのさわやかな酸味が、ふっくらと焼き上げられた白身魚に絶妙にマッチし、仕上げのライムがほのかに香る。添えられた野菜も彩りよく、見た目にも楽しませてくれる。

フランス料理然としたソースがなくとも、味にうるさいフランス人を唸らせるだけのおいしさが評判を呼び、リピーターが絶えない。今までにない斬新な料理を手頃な値段で楽しめるとあって、グルテンフリーを目当てにした人だけでなく、グルメなフランス人や噂を聞きつけた観光客なども来店し、幅広い層に人気だ。グルテンフリーと乳製品抜きという制約を作ったからこそできた、伝統を打破したメニュー。まさに「逆転の発想」の勝利と言える。

彩りよく盛り付けられたメインプレート、白身魚メグルのソテーに黒米とアーティチョーク添え。ソースにはハーブやパッションフルーツが使われ、小麦やバターを使わずとも、新しいおいしさを発見させてくれる
「制約の中でいかにおいしいものを作るか、常に試行錯誤しています」と語るノグルのシェフ、柳瀬氏。彼の腕に惚れ込み、お忍びで訪れる有名人も後を絶たない
SHOP DATA
ノグル(NOGLU)
16, Passage des Panoramas 75002 Paris
http://www.noglu.fr/

なじみのメニューをグルテンフリーで。新感覚のおいしさを味わう

グルテンフリーという制約をあえてつけることで、今までとは違ったフレンチをつくりあげることに成功したのが「ノグル」なら、フランスでおなじみのピザやガレットなどをグルテンフリーで提供することで、小麦粉以外のおいしさを際立たせたのが「ビオスフィール・カフェ」(Biosphère café)だ。

焼きたてで提供されるピザはボリュームたっぷりだが、小麦を使ったものと比べて生地があっさりしているのでぺろりといけてしまう。1~3ユーロ(約140~410円)でトッピングの追加もできる

パリの主要ターミナル駅の1つであるサンラザール駅の近くにオープンしたのは2010年8月。オープン当時はビオ、すなわちオーガニックのカフェレストランだったが、あるときグルテンアレルギーの客から要望を受け、少しずつグルテンフリーの商品を増やしていくうちに、翌年末には完全グルテンフリーへと移行した。

当初は、グルテンフリーだとターゲットが限られる分、売上に影響があるのではという懸念もあったという。しかし、「グルテンフリーを目当てにいらっしゃる方が非アレルギーの方と来店し、純粋にそのおいしさが受け入れられ、また友達を誘って来店されるというふうに、リピーターの方が増えているんです」と語るのはオーナーのシルヴィ・ドー氏。手頃な価格に加え、オフィスやブティックが建ち並ぶ立地も相まって、ランチタイムは近隣で働く人々や健康志向のパリジェンヌ、観光客などで賑わっている。

米粉やそば粉のほか、ひよこ豆やタピオカ、栗の粉など、10種類を用途によって使い分け、ガレット(そば粉のクレープ)やキッシュ、ピザやパスタまでフランス人にはお馴染みのものがそろう。試行錯誤を重ねて完成させた粉の配合は、すべて企業秘密。なかでもタピオカなど数種の粉をブレンドして焼き上げた自家製ピザ(13.7ユーロ=約1,850円)は人気メニューの1つで、チーズの種類をはじめ、好きな具材を選んでオーダーできるのも好評だ。生地は薄く焼き上げられ、端はカリっと、具材が乗る部分はしっとりと歯切れがよく、小麦のものに比べて弾力が少ない分、ピザ特有の重さはあまり感じない。

豆乳を使った日替わりのキッシュ(8.7ユーロ=約1,175円)はコクがあり、さっくりしたタルト生地ともよく合う。小麦のタルトだとどうしても重くなりがちだが、こちらはキッシュの味を邪魔せず軽い仕上がり。また、米粉と栗の粉を合わせたクレープ(5.7ユーロ=約770円)は、粉のほのかな甘みともちもちした食感で、小麦のものより食べ応えがある。

フランス人になじみのあるメニューをグルテンフリーで提供し、試しやすさと小麦と違ったおいしさをアピールできたことが、人気の理由かもしれない。

デザートの木苺のシャルロット(5.7ユーロ=約770円)は、米粉ベースで作られたもっちりとしたスポンジ生地が今までのフランス菓子にない食感。小麦では出せない食感に、リピーターがつく
カジュアルな雰囲気の店内。ランチを楽しむ人からテイクアウトを求める人まで。ひっきりなしに客が訪れる
SHOP DATA
ビオスフィール・カフェ(Biosphère café)
47 rue de Laborde 75008 Paris
http://biospherecafe.fr/

取材・文/平賀 友里恵

※通貨レート 1ユーロ=約135円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。