米国発 L.A.で人気のコールドプレスジュース 後編

アメリカ・ロサンゼルスでブームとなっている「コールドプレスジュース」。後編では「TPO別の飲み分け」を提案する店や健康面だけでなく「おいしいものを飲む喜び」にこだわる店などを紹介。

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Vol.100

2015年3月にアメリカ・ロサンゼルスで開催された世界最大規模のナチュラル製品の展示会「第35回ナチュラル・プロダクツ・エキスポ」では、この年のトレンドの1つとして「新しいコンセプトのジュース」が挙げられた。なかでも刻んだ果物や野菜を低温で低速圧搾することで、摩擦熱を限界まで減らし、素材が持つ栄養を最大限に絞り出すといわれるコールドプレスジュースは、ロサンゼルスタイムズ紙によると、2015年は1億ドル(約120億円)市場になると予想されるほど急成長している市場だ。後編では「TPO(Time=時間、Place=場所、Occasion=場合)別の飲み分け」を提案する店や、健康面だけでなく「おいしいものを飲む喜び」にこだわる店など、新たな広がりを見せる“コールドプレスジュース先進国”の姿を紹介する。

「気分が落ち込み気味なとき」「頭がぼーっとするとき」など、シーンに合わせたコールドプレスジュースを提供する店が人気
冷凍や加工食品は使わず、素材とそのおいしさや鮮度にこだわったコールドプレスジュースを提供する店が話題に
店内には14~16種のコールドプレスジュースが並ぶ。なかには、週に40本もオーダーするリピーターもいるほど、熱烈なファンがついている

「イライラ用」や「落ち込み気味用」などTPO別に提案

コールドプレスジュースを扱う店として、2012年1月にロサンゼルスのベニス地区に最初の店舗を開いた「ムーンジュース」(Moon Juice)。2013年9月にアーティスト達が集まるシルバーレイク地区に2店舗目を出店したことでさらに注目を集め、ニューヨークタイムズ紙など数々の有力メディアで紹介される話題の店に成長。客層は20~40代が中心で、土地柄かミュージシャンや画家などが多く訪れる。

ジュースはどちらも「ニンジン、ライム&ココナッツ」。中央のジュースには、おすすめのナチュラルハーブの粉末「ビューティダスト」(写真右手前。3ドル=約360円)を加えて混ぜた

他店との差別化のポイントは「頭がぼーっとするとき用」「なんだか疲れたと感じるとき用」など、TPO別のコールドプレスジュースを提供している点だ。季節のフレーバーを含め、14~16種類(1本480ml)をそろえ、その中で一番人気は「グッドネス・グリーンズ」(9ドル=約1,080円)。カリフォルニア有機農認証団体に認可されたオーガニックのセロリ、ホウレンソウ、タンポポ、ケール、パセリがたっぷり入った緑色のジュース。甘みは一切なく、まさに“ザ・青物野菜”のジュースで、「気分が落ち込みぎみなとき用」としている。

ココナッツの果肉やショウガなどが入った「ニンジン、ライム&ココナッツ」(9ドル=約1,080円)は、自然のやさしい甘みとさわやかな口当たりで、こちらは「元気がないとき用」。これにチョウセンゴミシ(マツブサ科の一種。生薬として使われる)やアカヤジオウ(ゴマノハグサ科の一種。根は生薬として使われる)、甘味料のステビアなどが入った粉末状の「ビューティダスト」(3ドル=約360円)を加えるのもおすすめとのこと。ニンジンベースのジュースに深みを加え、ハーブティのように楽しめる。「ハーブがたっぶり入っていますから、『肌が疲れているとき用』です」と、広報のケリー・リー・ロス氏。

同店ではフードも20種類以上販売。特に人気があるのが、「レインボージュース・アンド・シードクリスプ」(6ドル=約720円)というクラッカー。栄養価が高いことから注目が集まるスーパーフード「チアシード」をベースに作ったもので、ニンジンやケールなど自然の色合いも食欲をそそり、噛むほどに深い味わいが広がる。また、このクラッカーと一緒にマカデミアナッツを原料に使い、チーズのような味わいのディップ「カルチャード・マカデミアチーズ」(5.50ドル=約660円)を食べれば、クラッカーの歯ごたえと濃厚な口当たりが絶妙なバランスになる。

コールドプレスジュースを「好みの味」で選ばせるのではなく、「TPOに合わせた飲み分け」という新しい切り口にしたことが、同店の成功につながっている。

グリーンアップルとビーツがベースの「ルーツロック」(9ドル=約1,080円)も人気。ショウガやターメリックがほどよい刺激で「飲みすぎたときにはこの1本」とのこと
合成着色料不使用のクラッカー「レインボージュース・アンド・シードクリスプ」(写真後)と、乳製品を使わないディップ「カルチャード・マカデミアチーズ」(写真手前)
ムーンジュース(Moon Juice)シルバーレイク店
2839 Sunset Boulevard, Los Angeles, CA 90026
http://moonjuiceshop.com/

コールドプレスジュース&ヘルシースイーツでおいしさも健康も

「ザ・パンチボール」(The Punchbowl)は、映画の都ハリウッドに隣接するロスフェリッツ地区に2013年1月オープン。ロサンゼルスタイムズ紙で「ロサンゼルスのお気に入りジュースバー6店」に選ばれるなど、数々のメディアでも紹介されている。主な客層は30代が中心で、脚本家や俳優など映画関係者も多く来店する。

9月に一番人気だった「スパーク・プラッグ」。トロピカルドリンクのような甘そうな見た目だが、スパイスがほどよく効いてグイグイ飲める

同店のコールドプレスジュースの特徴は、冷凍や加工食品は使わず“生”であること、植物性以外の原材料は使わず“ビーガン”であること、そして基本的に地元産のオーガニックな農作物以外は使わないこと。オーナーのジョナサン・ライト氏は「地元の農家で採れる野菜などを使うので、季節によって種類が違います。そのため、仕入れたものに合わせてフレーバーが頻繁に変わることも当店の特徴です」と語る。人気メニューになると、つい同じものを提供したくなるもの。だが、それを諦めてでも、新鮮さにこだわるという。

約9種類(1本480ml)のコールドプレスジュースの中で取材時の9月に一番人気だったのが、パイナップルの黄色が鮮やかな「スパーク・プラッグ」(10ドル=約1,200円)。パイナップル、リンゴ、レモン、ショウガ、ウコン、カイエンペッパー(トウガラシの実を乾燥させた香辛料)入り。パイナップルの芳醇な甘みに、ショウガやカイエンペッパーなどのスパイスでパンチを効かせた。

またコールドプレスジュースとともに、グラノーラバーなどライト氏が手づくりする自家製のオーガニックスイーツを約10種提供。「スイーツは、“肥満の原因”や“健康の敵”などと言われがち。ですが、砂糖の代わりにハチミツや果糖などを用いた、体が喜ぶスイーツもあることを、もっと世の中に広めたいんです。コールドプレスジュースが甘くてもヘルシーであるように」とライト氏。なかでも、一番人気は「トルコ産イチジクのダークチョコレートかけ」(3.50ドル=約420 円)。甘い乾燥イチジクと甘さ控えめのダークチョコレートが、うまく調和している。

「おいしいものを口にする喜びを、より健康的に叶えてあげたい」というライト氏の想いは、商品に凝縮されている。コールドプレスと製法のヘルシーさが認識されているアメリカでは、それだけではもう他店との差別化は図れない。味にさらに磨きをかけて、付加価値で勝負する局面になっている。

スイーツで一番人気の「トルコ産イチジクのダークチョコレートかけ」(写真手前)、そのほかにも「チョコレートバー」(写真奥/8ドル=約960円)などがある
試作品を食べてもらったり、素材を説明したり、密にコミュニケーションを図ることで、客の心をつかむオーナーのライト氏。バケツの中はスイーツ用の自家製チョコレート
ザ・パンチボール(The Punchbowl)
4645 Melbourne Avenue, Los Angeles, CA 90027
http://lapunchbowl.tumblr.com/

取材・文/大山真理
通貨レート 1ドル=約120円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。