Vol.104
ビタミンが豊富でヘルシーな食べ物として人気のあるフルーツ。日本をはじめとする多くの国々ではそのまま食べたり、ジュースとして絞ったり、スイーツに仕上げるのが一般的だが、台湾では肉や魚や野菜と同様の「食材」として前菜やメイン料理、さらにスープなどに用いるのがトレンドになっている。
しかもその傾向は中華料理にとどまらず、和食や洋食のシェフもフルーツ料理にチャレンジしている。後編ではそんなフルーツを用いた「創作和食」と「フュージョン料理」の人気店を紹介する。
和食にもフルーツ。台湾で進化する日本の味
閑静な住宅街に隠れ家的なカフェなどが建ち並ぶ台北東部の国父紀念館界隈。ここに2010年8月にオープンした「逸鮮棧」(イーシェンヅァン)は、新鮮な台湾の海の幸を使用した寿司をはじめとする創作和食料理が楽しめるレストランだ。そして、この店こそが「フルーツ和食」の火付け役と言われている。
料理はおまかせコースが基本。ランチタイムは1人400元~(約1,472円~)、旬のフルーツをふんだんに使った人気の「フルーツ料理コース」など、ディナータイムは1人900元~(約3,312円~)の設定だ。仕入れ、下ごしらえに時間を要するため、完全予約制となっている。
コースの中で特に人気のメニューは、旬のフルーツの握り寿司「主廚季節水果寿司」(アラカルトでも注文可。280元=約1,030円)。この斬新なアイデアは板長自らが市場に出向いたときに思いついた。「秋」の握り寿司には柿、ピンクグレープフルーツ、「洛神」(ローゼル)という主に熱帯地方で採れる植物の塩漬け、栗、台湾でも珍しいタマリロというナス科の植物をネタに使用。もち米を混ぜたシャリは甘みを抑えており、酢のほのかな酸味がフルーツの甘みを引き立てている。素材本来の味を引き出すため、調味料は最低限しか使用しない。
また、握り寿司に添えられるシェフ特製の漬物にもフルーツを使用している。「情人果」(チンレングオ)と呼ばれる青マンゴーは瓜のようなカリッとした食感と強い酸味が特徴だが、浅漬けのほのかな塩分が酸味をまろやかに包み込む。冬瓜のパッションフルーツソース漬けは、シャキシャキしたみずみずしい果実にソースの甘みがよく合い、まるで梨のような味わいだ。
前菜の「無花果煮品」(こちらもアラカルトでも注文可。180元=約662円)は、鰹出汁でとろけるほどにイチジクを煮込んだ一品。もともと淡泊な味わいのイチジクに出汁の香りが利いて、口あたりは上品な野菜の煮物のようだが、噛みしめるとイチジクの独特の甘みとミルキーさが口にふわっと広がる。その意外性がなんとも愉快だ。
「フルーツ料理コース」はヘルシーゆえに女性グループからの予約が多い。色鮮やかな盛り付けも人気の理由だ。
「和食とフルーツ」は一見意外な組み合わせに感じられるが、昔から「旬」を大切にしてきた和食と、「四季折々の味覚」であるフルーツはそもそも相性がいいはず。また、和食の特徴である「盛り付けの美しさ」とフルーツの「彩りの鮮やかさ」も同様。トレンドになるのは必然の流れだろう。
逸鮮棧(イーシェンヅァン)
台北市信義區忠孝東路4段500號之5
https://www.facebook.com/%E9%80%B8%E9%AE%AE%E6%A3%A7-130118877028030/
洋食と台湾フルーツが華麗にコラボレーション
2015年の9月にオープンした「魯尼餐廳 Luni Cafe」(ルニカフェ)は、台北のランドマークである「台北101ビル」からほど近い信義エリアにある。台北の流行の発信地とも言われ、流行に敏感な若者が集まる場所だ。「ルニカフェ」では、台湾特産の食材を欧米スタイルの調理法でアレンジしたインターナショナルスタイルの料理が味わえ、若い女性を中心に人気を集めている。
店のおすすめメニューの1つは「櫻桃鴨胸佐季節水果沙沙義大利麵」(290元=約1,067円)。鴨肉の産地である台湾宜蘭産の鴨胸肉の燻製ハムに、細かく切った季節のフルーツをトッピングしたスパゲティだ。秋はリンゴ、キウイ、ザクロ、オレンジを使用している。フルーツの酸味が鴨肉のジューシーな旨みをより引き立ててくれる。様々なフルーツを使い彩りもよく、特に女性からの注文が多い。
一方、軽食メニューとして人気のある「鮮果法式脆皮布丁吐司」(230元=約846円)は、いわゆる「フレンチトーストのフルーツ添え」。皿の上にはイチゴやバナナ、ブルーベリーなどの定番のフルーツではなく、柿、梨、リンゴ、ザクロ、メロン、キウイフルーツが鮮やかにちりばめられている。パンは厚切りトーストではなくフランスパンを使用し、中まで卵液がしっかり染み込みんでいる。柿や梨のシャキッとした歯ごたえと、フランスパンの「外はカリッ、中はとろっ」とした口あたりが絶妙な組み合わせだ。
驚くことに「ルニカフェ」ではハーブやスパイスを除く調味料は塩、胡椒、砂糖の3点しか置いていないという。それ以外には、下味にフルーツを使用したり、フルーツと野菜などを何日も煮込んだ特製のスープを使ったりすることで、風味を加えているそうだ。また、それぞれのメニューに合った配合のスープやソースを使用することで、料理ごとにまったく違った味わいを出し、客を飽きさせない。
酸味、甘み、香りが豊かなフルーツには、余分な味付けをしなくても、合わせる素材本来の旨みを自然に引き出す力がある。また、料理の素材としては今まであまり使われておらず、無限の可能性を秘めている。新しいことにチャレンジする料理人と、今までにないおいしさを求める客がいるのだから、この味わい豊かで、ヘルシーで、彩り鮮やかなフルーツ料理のトレンドは今後も続いていくだろう。
魯尼餐廳 Luni Café(ルニカフェ)
台北市信義路四段130號
https://www.facebook.com/lunicafe
取材・文/石井 三紀子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1元=約3.68円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。