ブラジル発 広がるクラフトビール 前編

世界有数のビール消費国ブラジルでは、大都市でクラフトビールの人気が急上昇中。特にサンパウロでは、クラフトビール専門のビアバーが増えている。前編では、サンパウロのビアバーを紹介。

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Vol.119

中国やアメリカなどとともに世界有数のビール消費国であるブラジル。国内市場は長年、大手数社がシェアのほとんどを占めてきたが、近年、大都市ではクラフトビールの人気が上昇中だ。スーパーなどの小売店では、クラフトビール専用の陳列棚を設ける店も増えている。特にブラジルのなかでもトレンドに敏感な街サンパウロでは、クラフトビール専門のビアバーが増えており、量より質を重視する人を集めている。

前編では、そんなサンパウロのビアバーから、自家製の生クラフトビールを提供する店を紹介する。

「ピルスナー」「ケラー」「ヴァイツェン」「レッド・エール・ヘル」「IPA」「バルバ・ネグラ」など、様々な種類のクラフトビールが楽しまれており、写真のような呑み比べセットも好評
今回紹介するビアバー「セルヴェジャリア・ナシオナル」のビアサーバー。1階にある冷蔵室に設置されたビール樽から温度調整された長いホースを通じて送り、2階、3階のフロアでジョッキに注ぐ仕組みになっている
サンパウロ初のブルーパブ(蒸留所に併設されたパブ)として評判の店。積み上げられたレンガむきだしの内装が、手作り感の強いクラフトビールのイメージとマッチしている

新たなビール文化をもたらしたサンパウロ初のブルーパブ

個性的な飲食店が散在するサンパウロのピニェイロス地区に、2011年5月オープンした「セルヴェジャリア・ナシオナル(Cervejaria Nacional)」は、サンパウロ初の、蒸留所で造った生ビールがその場で飲めるブルーパブとして人気だ。店舗に足を踏み入れると、正面にはガラス越しにビールの発酵タンクがそびえ、それを横目に2階に上れば、仕事を終えたビジネスマンらが賑やかに語り合う。さらに、3階は貸し切りフロアで、結婚式などがしばしば行われるという。

5種類の自家製クラフトビールは、310ミリリットルの瓶ビールで市販もされている。料金は13~17レアル(約403~527円)。どこか愛らしい妖怪が描かれたラベルが特徴。

この店が提供する自家製のクラフトビールは、ヴァイツェン、ピルスナー、IPA、エール、スタウトという、スタンダードな5種類で、それぞれの飲み比べを楽しむことができる。

一番人気は、世界でもっともポピュラーな「ピルスナー」(12レアル=約372円)ではなく、「ヴァイツェン」(13.50レアル=約418円)。試行錯誤を重ね、「ヴァイツェン」独特のバナナなどのフルーティな香りをしっかり出そうと意図して作ったビールで、ほのかな甘みにより清涼感が際立つ。こだわりが詰まった逸品だけに、これが一番人気であることに共同経営者たちは手ごたえを感じている。

深みのある苦さと、アルコール度数7.5%の高さが特徴の「IPA」(16レアル=約496円)も人気で、足繁く通う常連からの評価が高い。このビールに合う食事として、こってりとした肉料理やスパイスド・フライドポテトを店は薦めている。

「当店で出すビールは、大手メーカーの生ビールを扱う店より割高かもしれません。だからといって富裕層だけをターゲットにしているわけではありません。平日の17~19時はハッピーアワーで、ビールを半額でサービスしています。その時間を狙って来る若い子たちもいますよ」と、共同経営者の一人、マルクス・ヒーバス氏は幅広い層の集客に自信をのぞかせる。

ブラジルでクラフトビールが人気になった背景には、多くのレストランで出される大手メーカーによる生ビールが、冷たさと泡立ちばかりを売りにしていることがある。どこで飲んでも同じ味であることに慣れていた人々が、クラフトビールの登場によって、銘柄ごとの個性と奥深さを味わう楽しみに目覚めたのだ。「一度この楽しみを覚えたら、普通のビールには戻れません」と語るヒーバス氏は、新たなビール文化の普及にさらなる期待を寄せている。

すっきりとしたのど越しが特徴の自家製クラフトビール「クルピーラ・エール」(14.50レアル=約450円)と、一番人気のハンバーガー「マラカナン」(35レアル=約1085円)。ビールのつまみにハンバーガーを食べる人も少なくない
1階フロアにあるビール工場はガラス張り。この横を通って2階の店舗に向かうことで、できたてのクラフトビールへの期待はさらに膨らむ
セルヴェジャリア・ナシオナル(Cervejaria Nacional)
Avenida Pedroso de Morais 604, Pinheiros, São Paulo
http://www.cervejarianacional.com.br

自社製クラフトビールのブランド力を直営店でアップ

サンパウロで高級住宅や商店街が集まったジャルジンス地区に、2013年10月オープンした「カラヴェーレ(Karavelle)」ジャルジンス店。サンパウロ州の内陸部にある工場で大規模にビールを生産・販売するヴェラ・クルス社が、自社ブランドの知名度とブランド力をアップさせるためにつくった2つの直営店の1つだ。ジャルジンス店は蒸留所と一体化したブルーパブで、1階の店内はビール醸造用の金属タンクがズラッと並ぶ。麦芽の糖化、発酵、熟成をこれらのタンクで行っており、それをわざわざ来店客に見せることで、「できたて感」を演出している。

ピルスナーと「仔牛すね肉のトマト煮込みのコシーニャ(ブラジル風コロッケ)」(36.90レアル=約1144円)。ブラジルでビールとポテト料理の組み合わせは定番

常時提供しているビールは6種類。ほのかな苦みと甘さが特徴的な、クラフトビールの定番「レッド・エール」や、まるで濃く煮た麦茶のような香ばしい味わいの「バルバ・ネグラ」など、それぞれ違いの際立ったラインナップとなっている。その中でもっとも人気があるのは、王道で軽やかな風味の「ピルスナー」。麦芽の香りが高く、すっきりとした清涼感の引き立った味わいだ。料金は、6種類ともグラスで13.90レアル=約431円、瓶で17レアル=約527円だ。

「カラヴェーラ」ではドイツ系ブラジル人のビアマイスターにビールづくりを一任しており、本物の味を大切にしながら、「苦さ控えめで、のどごし軽め」というブラジル人好みの味を追求しているそうだ。実際に6種のビールは、どれもライトボティーからミドルボディーだ。

「このほかに“マスターのビール”という月替りの期間限定企画を行い、『ヴィット』『インペリアルIPA』などを提供してきました。珍しいところでは、食べると口がしびれるアマゾンの薬草ジャンブーを加えた『ジャンブー・エール』も出したことがあります。意外にもさっぱりとフルーティな味わいになるんですよ」と、経営者の一人オタヴィオ・ヴェイガ氏はフレーバーの異なるビールづくりの楽しさを語る。

平日は夕方からの営業で、場所柄ゆえアフターファイブのアッパー層が多く、店内は暗い照明のもと大人の雰囲気が醸される。

ブラジルは現在、経済が右肩下がりを続けており、閉店に追い込まれる飲食店も少なくない。そんな中、カラヴェーラは3号店のオープンも計画中とのこと。景気が悪くなっても、質を求め市民はますます種類豊富で味わい豊かなクラフトビールに手を伸ばすだろうとオタヴィオ氏は予想している。

レッド・エールと、塩味の効いた黒豆のこってりとした味わいが特徴のフェイジョン・スープ(16.50レアル=約512円)。小洒落たバーの定番メニューでビールが進む
カウンター席を見下ろすように並ぶ3つのタンク(写真左上)で麦芽の糖化が行われ、右側の3つのタンクで、発酵と熟成が進む。「できたてをその場で飲むうまさ」を視覚でもアピール
カラヴェーレ(Karavelle)
Alameda Lorena 1784, Jardins, São Paulo
http://karavelle.com.br/

取材・文/仁尾帯刀(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1レアル=約31円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。