米国発 プラントベースのレストラン 前編

動物性食品を摂らない菜食主義を差す「プラントベース」。最近、ロサンゼルスでは、このプラントベースを売りにしたレストランが話題だ。前編では、そのなかから高級レストランを紹介する。

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Vol.129

最近、ロサンゼルスでは「プラントベース」のレストランが話題になっている。「プラントベース」とは、肉、卵、乳製品などの動物性食品を一切摂らない菜食主義のこと。食事の中心は、玄米や全粒粉のような加工されていない食品で、健康に寄与する食事療法として取り入れる人が増えている。今回紹介するのは、そんなプラントベースの食事を楽しむレストランだ。

従来、菜食中心の食事というと、「味気ない」「物足りない」「おいしくない」というイメージが強かった。しかし、最近人気を集めているプラントベースのレストランでは、おいしさをおろそかにせず、レベルの高い料理を提供して、菜食主義者以外からも支持を集めることに成功している。

前編では、そんなプラントベースの料理を提供する高級レストランを紹介する。

健康によいばかりでなく、見た目も味もよく、ボリュームたっぷり。 南国の果物・ジャックフルーツを肉代わりに炭火焼きにしたり、カシューナッツを砕いて練り、クリームにするなど様々なアイデアが詰まっている
アルコール類にもプラントベースならではのオリジナルドリンクをラインナップ。写真左は、塩状にしたたまり醤油とししとうを使ったカクテル「ルックマイウェイ(Look My Way)」
デザートでも、動物性の食材は一切使わない。生クリームの代わりにココナッツクリームを使い、濃厚な味わいに仕上げたチョコレートパフェ(写真右奥)などを提供

菜食主義者以外も楽しめる高級プラントベースのイタリアン

ロサンゼルスの中でも特に流行に敏感な若者が集まる街として知られるメルローズアベニュー。その一角に、2013年3月オープンした「クロスローズ(Crossroads)」は、味にうるさいセレブたちが足繁く通うレストランとして注目を浴びている。

牡蠣の代わりにマッシュルームを用いた「オイスターフリッター」や、ライチにガスパチョを添えた「シュリンプカクテル」などが載る「シーフードタワー」。見た目も華やかで、食欲をそそる

看板メニューとなっているのが、魚介の代わりに野菜やフルーツを使った「シーフードタワー」(45ドル=約5,265円/4人前)だ。タワーに盛り付けられる料理は、牡蠣の代わりにマッシュルームを使い、大豆をすりつぶして固めた「ソイベーコン」を巻いて衣をつけて揚げた「オイスターフリッター」。すりつぶした大豆を乳化させて作ったマヨネーズをアーティチョークに乗せてオーブンで焼いた「ムール貝のグラタン風」。スライスしたにんじんに、カシューナッツをペースト状にして酸味を加えたクリームを巻いた「スモークサーモンのクリームチーズ巻き」。エビの代わりにライチを使い、トマトベースのスペイン風冷製スープ・ガスパチョにつけて食べる「シュリンプカクテル」。どれも遊び心いっぱいの一品だ。

また、豆腐や、企業秘密のある食材で作られた“鶏肉もどき”を使った「チキンパルメジャーノ」(22ドル=約2,574円)は、肉を使っていないとは思えない食感と旨味が特長。刻んだバジリコのさわやかさ、トマトソースの自然な甘み、牛乳の代わりに練ったアーモンドで作ったチーズのまろやかさと“鶏肉もどき”のジューシーさが、オーブンで焼き上げられることで絶妙なハーモニーを奏でる。

同店は、こういった様々なアイデアが詰まった料理を数多く開発することで、菜食主義ではない人たちでも十分に満足できる料理が味わえると大人気に。実際、ヘルシーさだけではなく、味を重視するグルメたちの間でも話題となり、連日予約が取れない繁盛ぶりだ。

店のつくりはシックで、天井から大きなシャンデリアが飾られたダイニングエリアに、こじんまりとしたパティオ(中庭)がある。 店の奥にはカウンターバーがあり、店オリジナルのカクテルも提供。アルコールにもこだわることで、「飲食の喜び」を存分に楽しめる店として評判だ。

365日、菜食一辺倒のベジタリアンだけが通うような店ではなく、「一昨日はフレンチ、昨日は中華、今夜はプラントベースの店で」というように、選択肢の1つになることで幅広い客層を受け入れており、今後も遊び心あふれるアイデア料理が多くのファンを生み出しそうだ。

豆腐などで作った“鶏肉もどき”を使った「チキンパルメジャーノ」。口の中にじわっと広がる旨味は、本物の鶏肉に勝るとも劣らない
カニの身の代わりにひよこ豆を使い、タマネギやセロリなどと合わせてオーブンで焼いた「クラブケーキ」(15ドル=約1,755円)。上に載っているマヨネーズ風ソースはアーモンドがベース
クロスローズ(Crossroads)
8284 Melrose Avenue Los Angeles, CA 90046
http://www.crossroadskitchen.com/

チーズを使わないプラントベースのメキシコ料理が大人気

美意識が高く、高級志向の人々が多く集まるハリウッドのメルローズ通りにある「グラシアスマドレ(Gracias Madre)」。2013年11月にオープンした珍しいプラントベースのメキシコ料理レストランだ。

ナッツやアボカドなど植物性脂肪分が多い食材を組み合わせた「ボウルウノ」。菜食の「あっさりした味」というイメージを覆す、濃厚で食べごたえのある1品だ

一般的にメキシコ料理というと、肉やチーズをたっぷり使ったタコスやブリトーなど、こってりしたイメージを抱きがちだが、この店ではチーズやクリームなどをすべて植物性由来の食材で作っている。しかも、おいしくてボリュームがあるので、食べ過ぎだと感じてしまうこともあるが、翌日もまったく胃はもたれずスッキリ。また、食材はほとんどが野菜なので材料費が抑えられ、単価は一般的なメキシコ料理店よりも安い。財布にもお腹にもやさしいと評判だ。

人気料理の1つが、玄米とメキシコ料理でよく使う食材を合わせたメキシカン丼「ボウルウノ」(15ドル=約1,755円)。玄米の上に、刻んだロメインレタスをのせ、その上に黒豆をつぶしてペースト状にしたもの、大豆が原料の発酵食品「テンペ」をミンチ状にしたチョリソー、アボカドベースのサルサ「ワカモレ」などをトッピング。カシューナッツから作られたミルクに柑橘系の果汁を混ぜたサワークリームと、かぼちゃの種を上からかけて仕上げる。脂肪分の多いナッツやアボカドが組み合わさっているため、植物性100%でありながら上品なコクがあり、食べ応えのある一品だ。

デザートにもかなり力を入れており、卵と牛乳の代わりに豆腐や豆乳を用いたメキシコ版プリン「フラン」(11ドル=約1,287円)は、濃厚な味わい。カカオと大豆で作った「ファッジブラウニー」(11ドル=約1,287円)は、チョコレートの風味で食感もしっとりしている。

開放感のあるモダンな店内は、おしゃれでフォトジェニック。夜はテラス席がライトアップされ、デートにぴったりのロマンチックな雰囲気になる。動物性の食材を一切使わずに、菜食とはイメージのかけ離れたメキシコ料理を作り上げることで、ハリウッドセレブをはじめ、舌の肥えた人々からも絶大な人気を得ている。

卵と牛乳で作られるメキシコのプリン「フラン」は、豆腐と豆乳、バニラビーンズに置き換えて調理。乳製品を使わなくてもコクと風味がある味わいになる。何が使われているのか想像しながら食べるのも楽しさの1つ
アボカドソースが鮮やかな「ゴルディータス」(12ドル=約1,404円)。もともとは揚げた豚の皮などを具として包んだトルティーヤに、サワークリームなどをかける高カロリーな料理だが、ここでは南国の果物ジャックフルーツの炭火焼きを具に、カシューナッツを砕いて練ったクリームで仕上げた
グラシアスマドレ(Gracias Madre)
8905 Melrose Avenue West Hollywood, CA 90069
http://graciasmadreweho.com/

取材・文/押見由香(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約117円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。