スウェーデン発 和食店がヒット! 後編

和食人気が年々高まっている北欧・スウェーデンでは、ラーメンやお好み焼きの店も増加中。後編では、西洋人から見た“日本らしさ”を意識して店づくりを行い、成功した事例にスポットを当てる

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Vol.136

日本食の人気が高まっているスウェーデン。とはいえ、どんな店でも当たるというわけでなく、当然コンセプトは重要だ。

前編では、寿司店と居酒屋という日本ならではの業態を、海外でもほぼ忠実に再現して人気となっている店を紹介した。後編では、西洋人から見た“日本らしさ”を意識して店づくりを行い、成功した事例にスポットを当てる。

ストックホルムのお好み焼き店。内装にも日本のマンガを思わせるイラストなどが描かれており、「日本のサブカルチャー」が広く受け入れられていることを感じさせる
日本のイメージの一つである桜を、造花を使って空間に取り入れた店舗。現地の人たちが望む“日本らしい美しさ”を表現している
日本刀をモチーフにしたビールサーバー。「刀」は、日本をイメージする象徴的なアイテムで、こうした細かい演出が好評

お好み焼きだってトレンディ。日本のサブカルチャーも大人気!

前編でも紹介したストックホルムのソーホー、ソーデル島。ここでは、パンクロック系からアニメのコスプレまで、思い思いの装いで若者が行きかう。その中心部に、2016年2月、ストックホルム初のお好み焼き店「ママウルフ(Mamma Wolf)」がオープンした。

「肉と野菜入り」のM(お好み焼き2枚)。もともとついているサイドメニューに、さらにもう1品を追加(29クローネ=約380円)。日替わりサラダは、レタス、大根、ニンジンと茹でた鶏のささみの和風ドレッシングあえ

お好み焼きは、「肉と野菜入り」「野菜のみ」のほか、炭水化物の摂取量を減らしたいという人やグルテンアレルギーの人向けに、小麦粉の代わりにアーモンドとココナッツの粉を使った「ローカーブ」があり、それぞれ具は週ごとに変わる。ボリュームはS、M、Lの3つから選ぶことができ、Sはお好み焼きが1枚(79クローネ=約1,027円)、Mは2枚(96クローネ=約1,248円)、Lは3枚(110クローネ=約1,430円)で、それぞれサイドメニューとサラダが付く。形はハンバーグのようだが、味や食感は日本のお好み焼きと大きな違いはない。お好み焼きソースのほか、マヨネーズや青のりがトッピングされており、わさびソース、ゆず大根の千切り、味噌、ラー油などのトッピングを追加することもできる(追加料金は各5クローネ=約65円)。

サイドメニューは「鶏のから揚げ」「枝豆」「豚角煮」「フライドポテト」のなかから1品を選べる。一番人気の「鶏のから揚げ」は、油を使わず高温の熱風で仕上げるノンフライ製法で、健康志向のニーズにも応えている。

店内の壁に描かれたかわいいイラストなどはすべて、元々イラストレーターだったオーナーの加藤かおり氏が自ら描いたもの。日本の下町グルメ・お好み焼きと、ポップでかわいらしい内装は一瞬ミスマッチに感じるが、海外の人にとってお好み焼きといえば日本を代表するストリートフードの一つであり、日本のサブカルチャーである「マンガ」や「アニメ」を思わせるイラストとの共存は、むしろ自然なようだ。客層は、日本の文化が好きな若い世代のほか、子供連れのファミリーからシニアまで幅広い。

現地の人が抱く“日本のイメージ”を内装などに取り入れつつ、“おしゃれなストリートフード”として打ち出したことで現地の人たちの心を掴んでいる。

オーブンで焼き上げたお好み焼き。日本のものと比べると少し小ぶりで、形はハンバーグのよう
オーナーの加藤氏(右端)を筆頭に、スタッフは女性がほとんどでおよそ半数が日本人。エプロンの胸にある店のロゴは、もともとイラストレーターでもある加藤氏がデザイン
Mamma Wolf(ママウルフ)
Timmermansgatan 15Stockholm 118 25, Sweden
http://mamawolf.nu/index.html

“日本らしさ”を満喫できるショーが人気

ストックホルムの中心部にある高級住宅街、オストラマルム地区のなかの、レストランやバー、クラブなどが集まるエリアに2016年9月オープンしたのが、ジャパニーズディナークラブ「カサイ(Kasai)」だ。

一番人気の「スパイシー&クリーミー海老てんぷら」。皿の上に笹の葉を敷いて“和の雰囲気”を演出している

一番売れている料理は「スパイシー&クリーミー 海老てんぷら」(5個入り155クローネ=約2,015円)だ。エビの天ぷらに唐辛子とクルミをすった辛くて濃厚なソースをかけ、シソの葉をのせたもの。衣のなかに封じ込められたエビの旨味に、すったクルミのとろみと唐辛子の辛さ、シソの風味が絡み合う。日本で天ぷらは、大根おろしなどを添えてあっさりと食べることが多いが、スウェーデンの人向けに少し濃い味にアレンジされている。

また、「牛ヒレ肉とキノコの陶板焼き」(225クローネ=約2,925円)も注文が多いメニュー。牛肉とキノコ(しめじ、エノキなどのミックス)に、大根おろしとポン酢のさわやかさが絶妙にマッチ。日本の旅館などでよく使われる一人用のコンロで提供されるのもスウェーデンの人にとっては珍しく、喜ばれる演出となっている。

人気のカクテルは、ニッカウイスキーとライムジュース、抹茶をブレンドした「侍サワー」(144クローネ=約1,872円)と12年ものスコッチウィスキー、日本酒、梅酒、シェリー酒、イカ墨を層にして、紫蘇をのせたカラフルなカクテル「芸者の絵」(138クローネ=約1,794円)。ネーミングも“日本らしさ”にこだわる。

さらに、同店でもう一つ人気を集めているのが、毎週金曜日と土曜日の夜に店で行われるディナーショー。パフォーマンスは毎回変わるが、芸者に扮した女性による踊りや和太鼓のパフォーマンスなどが披露される日もあり、エキゾチックなムードに包まれる。時には来店客がフロアに飛び出してパフォーマーたちとともに踊ることもあるという。

日本人にしてみると、「いまだに日本のイメージは芸者や侍なのか」と驚くかもしれない。だが、日本に来る外国人観光客の間では「着物に着替えて京都を歩く」「忍者装束で忍術を習う」といったアクティビティーの人気も高い。こうした“日本へのイメージ”を店づくりに活かすことで、和食の店が北欧の地で着実に人気を集めている。

牛肉と数種類のキノコをおろしポン酢につけて食べる「牛ヒレ肉とキノコの陶板焼き」。多くのスウェーデン人が抱いている「日本食=ヘルシー」というイメージどおりのメニューで、オーダー率も高い
毎週末にはディナーショーを開催。着物姿の女性が踊りを披露することも。「サムライ(侍)」「ゲイシャ(芸者)」といった“神秘的な日本”の雰囲気を楽しめると好評だ
Kasai(カサイ)
Linnégatan 18114 47 Stockholm, Sweden
http://kasai.se/

取材・文/中妻美奈子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1クローネ=約13円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。