タイ発 TAKOYAKIが独自に進化中! 後編

近年、タイで人気となっている日本食。なかでも「たこ焼き」への注目度が上がっている。後編では、タコの代わりに別の食材を使ったオリジナルメニューで人気の店を紹介する。

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Vol.156

近年、タイで人気となっている日本食。なかでも、今、注目を浴びているのが「たこ焼き」だ。海外へ進出したほかの和食メニューと同様、日本と同じ「本場の味」を追求したものもあるが、タイの風土や現地の人の好みに合わせて独自の進化を遂げたものもある。

前編では、イイダコをそのまま一匹使ったたこ焼きや、「丼」「ラーメン」にたこ焼きを入れたメニューを紹介した。後編では、タコの代わりに別の具材を用いたオリジナルたこ焼きで人気を呼ぶ店を紹介する。

タイの屋台では、「たこ焼き」にタコ以外の具材を使う店も登場。外からは何が入っているかわからないので、ポップに具材の写真を付けている
来店客が、好きなものをトングで選んでいくスタイル。最後にスタッフがソースやマヨネーズ、きざみのりをかけて仕上げる
屋台王国のタイでは価格も重要。たこ焼きは大抵1個5バーツ(=約17.4円)で、40バーツ(=約139円)前後で販売される麺類と比べてもリーズナブルだ

日本人の知恵から生まれたおいしくて安い“たこ焼き”

バンコク北部に位置するラップラオ地区。市内の中心部に勤める人々が住む庶民的なベッドタウンだ。ここに、オーナーシェフの君塚広文氏が日本食レストラン「YOKOSO(ようこそ)」をオープンしたのは2010年6月。寿司や定食、麺類など約70種のメニューが並ぶ。

タコではなく、オオアカイカを入れた「たこ焼き」。「エビたこ焼き」との食べ比べを楽しむ人も少なくない

そのなかの一つ「たこ焼き」(6個60バーツ=約208円)は、オープン当初から提供している人気メニュー。しかし、具材として使っているのは、実はタコではなく、オオアカイカの足だ。タイではタコの価格が高いため、大きな切り身を入れられるように安価なイカで代用したという。生地はカツオ出汁が効いた和風味で、外はほどよく焼き上げ、中はフワッとした食感。トッピングもソース、マヨネーズ、カツオ節、青のりと、イカを使っていること以外は正統派のたこ焼きだ。イカは弾力があり、タコそっくりで、特に意識せずに口にすれば具がイカであることに気づく人はほとんどいないだろう。

イカが苦手という人のために、いろんな具材を試した末に「エビたこ焼き」(6個80バーツ=約277円)を考案。その名のとおり、タコの代わりに小ぶりのエビを入れたもので、プリプリしたエビの食感と生地の組み合わせが抜群。ソースやマヨネーズにもよく合うと好評だ。

タイには、熱い料理が苦手な人が多く、たこ焼きを半分に割って、少し冷ましてから食べるのが一般的。しかし、最近は日本へ観光に行く人が増えたことから、たこ焼きなどのアツアツの料理に慣れて、一個丸ごと口に運ぶ人も見かけるようになったという。また、意外なのは、食後のデザートとして頼む人が多いこと。「ソースが甘いことから、スイーツのような感覚で食べているのでは」と、君塚氏は推測する。

客層の9割は地元住民。彼らの生活水準に合わせ、タコではなく安価なイカを使ったりしてコストを下げて価格を抑え、数多くのファンを獲得している。

「エビたこ焼き」は、生地からエビがはみ出るように焼いており、ビジュアルでも食欲をそそる
サーモン丼(写真左)や寿司、かつ丼などを食べた後に、デザートとしてたこ焼きを食べる人も多い
YOKOSO
Ladphrao Wanghin91 Ladphrao Bangkok 10230
https://www.facebook.com/pages/Yokoso/281350068669403

カニカマから海藻まで、新感覚のたこ焼きが誕生!

バンコク市内の戦勝記念塔周辺は、郊外へ向かうバスのターミナルと高架鉄道の駅があることから、朝夕に通勤・通学者が数多く行き交う場所。「オー・タコヤキ」 は、このエリアで16~22時ごろまで営業している人気の屋台だ。オープンは2014年10月。大のたこ焼き好きである店主のアニルット・トルアッマンカ氏が、基本的なレシピや焼き方をインターネットで調べ、タコ以外の具材も使って独自にアレンジしたたこ焼きを販売している。

(上から時計周りに)「タコ」「サーモン」「チーズ」「中華わかめ」「トビコ」「エビ」(ソースなどをかける前の状態)。1個ずつ買うことができるので、食べ比べが簡単に楽しめる

オープン当初は、「タコ」「エビ」「サーモン」「カニカマ」の4種類のたこ焼きを販売していたが、その後、来店客からの要望で、「ツナ・フレーク」「イカの卵」「トビコ」「チーズ」「中華わかめ」「ハム」の6種類が加わった。それぞれ1個5バーツ(=約17.4円)で、10個買うと1個無料でサービスしている。

タイ人はカリカリとした生地を好むため、たこ焼き器に油を多めに注ぎ、揚げるように焼くのがポイント。十分に火が通っているため、中の生地はホットケーキのような状態。本家・日本のたこ焼きのフワっとした食感とはまったく違う。

人気の具材ベスト3は、「タコ」「エビ」「サーモン」。みたらし団子のたれを思わせる、かなり甘いソースとマヨネーズ、きざみのりがかかっている。なかでも、意外と合うのが「チーズ」。溶けたチーズとたこ焼き生地の相性が絶妙で、「小さく丸めたチーズドッグ」という印象だ。

来店客は若者が中心だが、老若男女問わず幅広く集客しており、1日の販売数は平均1,600個。タイ人がよく使う“マイペンライ”(気にしない)という言葉そのままに、自由な発想でメニューを増やしたことも成功の秘訣だ。まるでクレープやたい焼きのように、様々な具材を楽しむタイのたこ焼き。今後も、日本人には思いも寄らないような進化を遂げていくかもしれない。

甘めのソースにマヨネーズ、きざみのりをかけて完成。半分にカットしやすいように、先端が二股にわかれたプラスチック製の串を添えて提供する
全10種あるため、選ぶ楽しみもある。常夏のタイでは、焼きたてアツアツにこだわる人は少ないため、作り置きしても問題ない
オー・タコヤキ(O TAKOYAKI)
Century The Movie Plaza脇, 15 Phaya Thai Road, Phaya Thai, Ratchathewi, Bangkok

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1バーツ=約3.47円
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