ベトナム・ハノイ発 古くて新しい麺バインダードー

食文化が豊かなベトナムのなかでも、新しいレストランが次々に登場し、食のトレンドが生まれる街ハノイ。3回にわたってお伝えしてきたハノイの外食最新事情の最終回は、ちょっと変わった麺にまつわる話だ。

URLコピー

Vol.12

食文化が豊かなベトナムのなかでも、新しいレストランが次々に登場し、食のトレンドが生まれる街ハノイ。3回にわたってお伝えしてきたハノイの外食最新事情の最終回は、ちょっと変わった麺にまつわる話だ。

サトウキビで色付けされた幅広の乾麺「バインダードー」

ベトナムは麺の文化の国である。イタリアのパスタのように、米で作った様々なタイプの麺が存在する。例えば、「フォー」よりさらにメジャーな「ブン」と呼ばれる麺があるのをご存じだろうか。フォーは通常牛肉か鶏肉と合わせるが、ブンは豚や魚、豆腐などにも合ううえ、お椀に入れてご飯替わりに食べることもある万能麺である。どちらも米から作られる麺だが、形状が違い、食べられ方が違うのだ。そのほかにも、まだまだ日本に紹介されていない珍しい麺が多く存在する。今回紹介するのは、最近ハノイで目にするようになった、茶色で平たい「バインダードー」と呼ばれる麺である。

朝早くから働くべトナム人は、時間節約のため軽い朝食をとる人が多い
ベトナムで最もポピュラーな、米で作った生麺「ブン」

鍋のシメにスープを含む幅広の乾麺

バインダードーは、製造の過程でサトウキビの汁を入れたせいで茶色いが、フォーやブンと同じく米から作られた乾麺だ。ちょっとした風味があるが、甘くはない。ハノイから東へ約100kmのほどの港町ハイフォンの名物だが、かさ張るせいか、流通の関係でこれまでハノイに入ってこなかったという。そのためハノイでは、名前は知っているが専門店もなければ食べたこともない、ちょっと珍しい麺だった。日本に例えて言うなら、名古屋の「きし麺」のような存在だろうか。

鍋のシメにバインダードーがついた鶏鍋。2人分で280,000ドン(約1,092円)。野菜が豊富なのもベトナム流

そんなハノイにあって、10年前のオープン時から鍋料理のシメにバインダードーを出してきたのが「チム・サオ」だ。経営者のホアンさん一家が、ハイフォン近くの世界遺産で観光事業を営んでいるため、送迎の途中に運んでいたようである。ベトナムでも鍋の最後は、やはり麺だ。乾麺のバインダードーは、スープをたっぷり含みシコシコした食感が魅力である。しかも、ブンやフォーなどの細い生麺と違い、幅広の麺はちょっとした満腹感を与えてくれる。最近は鍋料理のシメに、このバインダードーを出す店がハノイでも増えているというが、ベトナム料理だけでなく日本の鍋にも合うような麺だと思う。この茶色く平たい麺はもう何年も前から、アメリカやオーストラリアに輸出されているそうだ。

ナツメグなどで味付けされた薬膳風のスープをたっぷり吸ったバインダードーは、シメに食べる麺として満足度が高い
チム・サオを経営するマダム・ホアン。自慢はアンティークの家具と、壁に掛けられたちょっとモダンな絵画
Chim Sao(チム・サオ)
65 Ngo Hue, Hanoi
TEL
営業時間
11:00~14:00、17:00~23:00
年中無休
http://chimsao.com/

屋台でも魅力を発揮。手間いらずの麺

とはいえ麺の魅力は、フォーのように朝や昼に手軽に食べられるところ。前出のハイフォンには、バインダードーを使った「バインダークア」という軽食がある。田ガニで出汁をとったスープを使うのが大きな特徴だ。このところハイフォンからやってきた人が店を開き、ハノイでもバインダークアを食べられる店が何軒かできた。なかでもおいしいと評判なのは、天秤棒をかついでやってくる女性が、毎日同じ場所で営業している屋台の店だ。

バインダードーは、さっと湯通しすればすぐに食べられる便利な麺。茹で汁はスープも兼ねており、麺に味がしみる

カウンターなどはないので、風呂場にあるような低い椅子に座り、どんぶりを片手に路上で頂くことに。バインダードーは乾麺だが、ちょっと湯通しすればすぐに食べられるので屋台に最適である。カニの出汁が効いた薄味のスープには、やはりこの麺が一番合うのかもしれない。また太い麺は少々時間がたっても延びないのか、バインダークアの汁なし版である「バインダーチョン」を、テイクアウトで買っていく人も少なくなかった。バインダードーは、ハノイの街で着実にファンを増やしているようだ。

「バインダークア」25,000ドン(約98円)。空芯菜やさつま揚、魚肉のすりみなどが、トッピングされている
汁を入れず、麺と具材をかき混ぜた「バインダーチョン」は、テイクアウトでも人気。25,000ドン(約98円)

SHOP DATA

天秤のバンダードクア売り(屋台)Ngo Huyen, Hanoi

営業時間

朝から昼まで

おしゃれ化するベトナムの食

同じ郷土の料理でも、路上のローカルな店と、新しいお洒落な店が共存しているのが今のハノイである。オフィス街近くに去年の春にオープンした「アンビン」は、モダンなバインダークアの専門店だ。前々回に紹介した「フォー24」のバインダードー版といったところだろうか。すでにいくつかのメディアでも紹介されている注目のお店のようだ。英語併記もされたメニューから察するに、近くで働く海外駐在員も狙っているのだろう。もっともまだバインダークアが珍しいせいか、店にはフォーなどもメニューにある。

日本の基準からすればファミレスのようだが、ベトナムでは圧倒的にモダンなインテリア。客層もちょっとリッチな人が多い

ここのバインダークアは値段は張るが、店がきれいなうえに、上品に盛り付けられた具材の質は高く、ボリュームもたっぷり。さつま揚げの天かすがトッピングされているので、どこかタヌキうどんのような味もする。ならばタヌキうどんの麺をバインダードーにしても、いけるのではなかろうか。

ベトナムでは、伝統的な料理をおしゃれな店で提供し、当たればチェーン展開するというのがここ数年のビジネスモデルだ。ちょっとおしゃれなアンビンは、まだこの1店舗しかないが、今後の動向が気になるところである。

美しく盛り付けされた「バインダークア」はボリュームたっぷり。45,000ドン(約176円)。好みでライムなどを入れる
店があるのは、カフェなどがひしめく通り。すぐ近くは高層ビルが建つオフィス街だが、どこかのんびりした空気が漂う

SHOP DATA

An Bien(アンビン)168A Trieu Viet Vuong Hanoi

営業時間

7:00~14:30 16:30~20:30
年中無休

さて、3回にわたってベトナム・ハノイの食の最前線をお伝えしてきた。当地の女性が体にぴったりしたアオザイを着られるのも、ベトナム料理がおいしいうえに、低カロリーであるからだ。米に合う味付けが基本なので、日本人の口に合う料理は多い。となれば、日本のレストランでも使えるヒントがたくさんあるのではなかろうか。これを機会に、ベトナム料理に注目していただけたらうれしいところだ。

取材・文・写真/ジョー・スズキ
取材協力/ベトナム航空

※通貨レート:
2012年2月27日現在 1,000ドン=3.90円
※価格・営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますので、ご注意ください。