Vol.177
数年前から、台湾で生まれたタピオカミルクティーやフルーツティーが日本を含む世界で人気となっている。そのタピオカミルクティーと並び、注目を集めている台湾発祥のドリンクが「チーズティー」だ。アジア各国や欧米で人気となっており、日本でも数年前から提供する店が増え始め、2018年には東京・原宿に専門店もオープンした。
チーズティーとは、五分立て程度の生クリームにチーズや岩塩などを加えて作るとろりとしたクリームを、様々な種類のお茶にのせたもの。甘みと塩気、苦みが混じり合った独特なハーモニーを味わえる。台湾ではアイスティーが基本だが、ほかの国ではホットで提供する店もある。
前編では、発祥の地・台湾での人気ぶりを紹介する。
チーズティーの原型を作ったドリンクスタンド
台湾で、台北に続く第2の都市と呼ばれる高雄で、2006年にテイクアウト専門のドリンクスタンドとして創業した「貢茶GONG CHA」。今、世界的に注目を集めつつある「チーズティー」の原型を作った店だ。
創業当初は、当時流行していたタピオカミルクティーやフルーツティーなどを販売していたが、街の至るところに同じような店が乱立していたことから、他店との差別化を図ろうとオリジナルドリンクの開発に着手。そして、カプチーノのミルクフォームをヒントに、アイスティーの上に泡状にした生クリームをのせるアイデアを思いつく。そこから約1年間、クリームの味付けなどの試行錯誤を続け、岩塩で塩気や風味を加えるスタイルにたどり着いた。生クリームと岩塩の絶妙なバランスにより、飲んだときにチーズのような風味が口に広がるのが特徴だ。こうして完成したドリンクを「招牌奶蓋茶(ザオパイナイガイチャ)」(招牌=看板メニューの意)と命名した。これが、のちに世界各国で人気となる「チーズティー」の原型になるのだが、「招牌奶蓋茶」にはチーズが入っていないこともあり、台湾では「チーズティー」という名称はまったく定着していない。
そして、2006年から、M(約500ml、45元=約160円)、 L(約660ml、55元=約200円)の2サイズで「招牌奶蓋茶」の販売を開始。すると、紅茶やコーヒー、スムージーなど50種類以上あるドリンクメニューで一番の人気商品になり、売上の30%を占めるまでになった。上にのせるチーズ風味のクリームは1種類だが、ベースのお茶は、紅茶、烏龍茶、青茶(チンチャ、発酵度の低い烏龍茶)から選べる。お茶の甘さは、好みに合わせて無糖~10分唐(甘み100%)まで5段階でオーダーでき、店のおすすめは 3分糖(30%)か5分糖(50%)だという。
ストローは使わずに直接カップから飲むのが一般的で、口に含むと、まず塩気のある濃厚なクリームが広がり、その後、お茶の爽やかな苦みと甘みが混ざり合って絶妙なハーモニーを生み出す。まるで塩キャラメルを食べたときのような塩気と甘みのループを楽しむことができ、お茶がさっぱりとしているため、しつこさも感じずに飲みやすい。
ほかにも、招牌奶蓋茶にタピオカか仙草ゼリーをトッピングする新感覚デザート「奶蓋黒森林(ナイガイヘイセンリン)」(約470ml、50元=約190円)など、アレンジ商品の開発にも余念がない。
名前どおりの看板メニューとなった招牌奶蓋茶を引っさげて、「貢茶GONG CHA」は台湾全土でフランチャイズ展開を行い、海外にも進出。2018年12月現在、台湾(32店)や韓国(約400店)のほか、日本にも2015年に上陸し、東京や大阪などに15店舗を構えている。そのほか、アメリカ(約50店舗)、カナダ(約20店舗)、オーストラリア(約50店舗)など、世界で約1500店を展開。こうして海外で店舗展開を進めるなかで、チーズのような風味がする「招牌奶蓋茶」をヒントに、海外のほかの飲食店がクリームにチーズを混ぜたドリンクを提供するようになり、これが「チーズティー」として世界的なヒット商品へと成長していった。
「貢茶GONG CHA」では、今でもチーズは入れておらず、オリジナルの味を守り続けている。高雄の玄関口である左營(ズゥオイン)駅に隣接したデパートのレストラン街に2013年7月オープンした彩虹(ツァイホン)店には、場所柄、ファミリーや旅行客、外国人など、毎日幅広い層が来店。味はもちろん、SNS映えするビジュアルも話題となり、“新しいスタイルのお茶”は多くのファンを魅了している。
高雄市左營區高鐵路115號3F (新光三越 彩虹市集内)
http://www.gong-cha.com/tw/
3種類のクリームでバリエーション豊かに
台北で人気観光スポットの一つとなっている士林夜市(しりんよいち)が開かれる大通り沿いに、2017年オープンした「台灣不二茶鋪」。学校帰りの学生や、夜市を訪れた外国人観光客などで賑わう台湾茶のカフェだ。
ドリンクメニューは、タピオカミルクティーやフルーツジュースのほか、旬のフルーツを使った季節限定のドリンクなど、常時30種類ほどをそろえており、「チーズティー」もオープン当初から販売。「貢茶GONG CHA」とは違い、お茶の上にのせるクリームにチーズを混ぜている。また、カスタマイズの自由度も高く、上にのせるクリームのフレーバーが3種類、ベースとなるアイスティーが8種類あり、好きな組み合わせを楽しめることで、学生など若い世代の心をつかんでいる。
3種類のクリームのなかで一番ベーシックなものは、塩気の強い「玫瑰鹽奶蓋(メイグゥイイェンナイガイ)」。牛乳とクリームチーズ、生クリームなどを混ぜ合わせ、そこにヒマラヤ産のローズ岩塩を加える。隠し味に入れる練乳のほのかな甘みとチーズや岩塩の塩気が、渋めのお茶にマッチする。このほか、「玫瑰鹽奶蓋」に砕いたオレオクッキーを混ぜ、ココア風味をプラスした「OREO芝士奶蓋(オレオチーシーナイガイ)」と、ホイップした生クリームにキャラメルとマロンソースを加えた「焦糖栗子奶蓋(ジャオタンリーズナイガイ)」がある。「焦糖栗子奶蓋」は、チーズや岩塩を使っていないこともあり、3種類のなかで唯一塩気がないクリーム。甘い物好きのニーズに応えるべく開発された。
一方、8種類あるアイスティーのうち、特に女性から人気が高いのが、ハチミツのような芳醇な甘みが後味に残る台湾紅茶「ルビーレッド(紅玉)」を使った「魚池紅玉奶蓋(ユーチーホンユーナイガイ)」(約500ml、140元=約518円)。相性のよいクリームは「OREO芝士奶蓋」で、コクと渋みのあるルビーレッドと、甘いチョコレートクッキーが見事に調和。細かく砕かれたクッキーのサクサクとした食感もあいまって、濃厚なチョコレートケーキを食べながら紅茶を飲んでいるような贅沢な気分に。一杯でお腹も気持ちも満たしてくれるスイーツドリンクだ。ほかにも、茶農家出身のオーナーが厳選した最高級台湾烏龍茶を使った「梨山凍頂奶蓋(リーシャンドンディンナイガイ)」(約500ml、180元=約670円)など、高級路線で他店との差別化に成功している。
台湾では現在1店舗のみだが、台湾でのオープンと同時期に中国・上海に出店したところ人気を博し、2018年12月現在、上海だけで9店舗を構えるほどに急成長。今後はさらにクリームのフレーバーの開発を進め、バリエーション豊富なチーズティーを武器に、アジア圏を中心に海外へも店舗展開したいと考えている。
台北市士林區文林路102號1F
https://www.facebook.com/198477827330852/
取材・文/石井三紀子(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1元=約3.7円
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