(後編)タイ発 多彩なオリジナルカクテルが人気

近年、タイではほかの国では味わえないオリジナルのカクテルが人気を集めている。後編では、そのなかからタイ料理をヒントに開発したドリンクを提供している店を取材した。

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Vol.186

 世界的な観光地で、在住している欧米人も多いタイの首都バンコク。最近、ほかの国では味わえない「オリジナルカクテル」が人気を集めている。

 前編ではタイならではの素材を使ったカクテルを紹介したが、後編ではタイ料理をヒントにしたユニークなカクテルを提供する店を取材した。

「トムヤムクン」などのタイ料理をヒントにしたカクテル

 バンコク市内最大の繁華街であるサイアムにほど近い場所にあるアナンタラ・ホテル。このホテル内にタイのカクテルシーンを語る上で欠かせない「アクア・バー」がある。

 オープンはホテルと同じ1983年と歴史は古く、宿泊客を中心に長く愛されてきた。そんななか2010年に、当時勤めていたバーテンダーが「何かユニークなカクテルを」と、タイの代表的料理トムヤムクンをヒントに「トムヤム・サイアム」(400バーツ=約1,408円)を考案した。トムヤムスープに使うコブミカンの葉、ショウガ、レモングラスなどを漬け込んだウォッカに、タイの柑橘類のマナオ(ライム)のジュース、さとうきびの絞り汁を加えている。カクテルの上にはコブミカンの葉と細く切った唐辛子、レモングラスを飾り、かき混ぜて香りづけをするもよし、かじって味の変化を楽しむもよし。このカクテルは大ヒットとなり、似たようなカクテルを提供する店も出ている。

「トムヤム・サイアム」(左)。「サイアム」とは、タイの古い呼び名「シャム」の英語読み。ホテル内にタイ料理レストランがあるので、本物の「トムヤムクン」(560バーツ=約1,971円、右)をバーで食べることもできる

 この「トムヤム・サイアム」がロングセラー商品となるなか、同じようにタイ料理をヒントにした新たなオリジナルカクテルが2019年3月に2つ登場した。その1つが、干しエビ、ピーナッツ、ローストしたココナッツ、細切りにした唐辛子などをバイチャップルーという香草に包んで食べる前菜「ミアン・カム」をベースに考案されたカクテル「ミアン・カム・ネグロー二」(400バーツ=約1,408円)。「ミアン・カム」に使う素材をジンに2日ほど漬け込み、カンパリ、ベルモット、パームシュガーをミックスしたカクテル。酸味や辛み、甘みが一体になっており、上にのせたバイチャップルーの葉が爽やかな香りを加える。

食前酒として最適なカクテル「ミアン・カム・ネグロー二」。写真奥の「ミアン・カム」(190バーツ=約669円)も、バーで注文することができる

 そして、もう1つのカクテルが、「ジェスター・オブ・サイアム」(400バーツ=約1,408円)。鶏肉やフクロダケをココナッツミルクやショウガなどで煮込んだスープ「トムカーガイ」をヒントに考案されたもの。タイ産の米を原料とするライススピリッツをベースに、レモングラスのシロップ、「乳清」(牛乳から脂肪分を除いたもの)などを加える。コブミカンの葉以外はトムカーガイで使う素材ではないが、トムカーガイを思わせるコクのある風味が表現されているのが特徴だ。これら2つの新しいカクテルも、外国人観光客を中心に高い人気を集めている。

コクのあるミルキーなカクテル「ジェスター・オブ・サイアム」(右)。タイ北部チェンマイで作られたライススピリッツを使うなど、可能な限りタイ産の素材を選んでいる。「トムカーガイ」(290バーツ=約1,021円、左)は、館内のレストランで注文可能
アクア・バー(Aqua Bar)
Anantara Hotel Ratchadamri 155 Ratchadamri Road, Lumpini, Bangkok
https://www.anantara.com/ja/siam-bangkok/restaurants/aqua

奥深いタイ料理と遊び心が生んだカクテル

 タイのビジネスの中心地シーロム・サトーン地区にあるレストラン「EAT ME」。1998年5月にオープンし、現代的な西洋料理を売りに、テナントの移り変わりが激しい立地ながら、長く愛され続けている。

 そんな同店でも、2017年5月からタイ料理に着想を得たオリジナルカクテルを提供している。その代表作が「ソムタム・プー・プララ」(390バーツ=約1,373円)。「ソムタム」とは、青パパイヤを使ったタイでもっともポピュラーなサラダ。カクテルにするにあたって特に小ガニを使ったソムタムをイメージして開発したという。オランダ産ウォッカ「ケテル・ワン」に、ソムタムに欠かせないニンニクや唐辛子を漬け込み、そこにトマトジュースや自家製タイ風アンチョビの漬け汁、マナオ(ライム)の絞り汁を加えたもの。辛さと魚介の風味が加わりパンチがある一方、トマトの爽やかな酸味がそれを適度に和らげてくれる。

「ソムタム・プー・プララ」は、氷を山盛りに入れた銀のグラスで供される。ソムタムに必ず付いてくるカオニャオ(もち米)を入れるための竹の容器にグラスを入れている

 また、タイ風焼きそばとして日本でも人気の高い「パッタイ」をヒントに開発したのが、その名のとおり「パッタイ」(390バーツ=約1,373円)だ。前述のウォッカ「ケテル・ワン」をベースに、エシャロットやニラ、マナオ(ライム)の絞り汁を加え、ペースト状にしたタマリンド(酸味の強いアフリカ原産のフルーツ)を少し加えている。味はまさにパッタイそのもので、ほんのり甘くて濃厚な味わいが口の中に広がる。

カクテルの「パッタイ」(奥)には、砂糖、ピーナッツ、乾燥唐辛子の粉、小さく切った卵焼きなどが付いてくる。これらは、タイ料理のパッタイを食べる際に好みでかけるもので、カクテルのおつまみとして供される

 タイ風カレーの一種で、英語でグリーンカレーと呼ばれる「ゲーンキョーワン」をベースにしたカクテル「ゲーンキョーワン」(390バーツ=約1,373円)も人気。ホワイトラム「バカルディ・カルタ・ブランカ」とグリーンカレーを大胆にミックス。そこにタイやマレーシア原産の香りの強い柑橘類コブミカンの葉やバジル、エシャロットの絞り汁、ミルクを加えている。グリーンカレーの辛さと香草の匂いが食欲を刺激し、そのままご飯にかけて食べたくなりそうな味わいだ。

グリーンカレーをベースにしている「ゲーンキョーワン」は、グラスではなくお椀に入れて提供。バジル(左)とコブミカンの葉(奥)、エシャロット(右)が添えられている

 常連客の多くが欧米のビジネスマンで、普通のカクテルでは物足りなさを感じている人も少なくない。様々なタイ料理をベースに開発されたオリジナルカクテルは、ますます彼らのハートをつかみそうだ。

イート・ミー・レストラン(Eat Me Restaurant)
20 metres o20 metres off Convent Road, Silom, Bangkok
https://eatmerestaurant.com/

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1バーツ=約3.52円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。