(前編)米国発 飲食店×機械化の最前線

人件費の高騰など、日本と同様の課題を抱えるアメリカ・サンフランシスコで、飲食店の機械化が進んでいる。ロボット導入によるメリットは何なのか。その取り組みと影響について機械化を進めている店舗を取材した。

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Vol.187

 日本の飲食業界と同様に、アメリカでも飲食店における人件費の高騰や人材確保の難しさは大きな課題となっている。そんななか、サンフランシスコでは、調理や配膳などにロボットなどを使うレストランが増えつつある。

 飲食店の業務の機械化にはどんなメリットがあるのか。前編では、ロボットが調理を行う2店舗を紹介する。

ロボットアームが人件費削減や省スペース化を実現

 2017年に1号店をオープンした「カフェ・エックス(Café X)」は、2019年5月現在、サンフランシスコの市街地に3店舗を構えるコーヒーショップ。サードウェーブ系のコーヒーチェーンだが、他店と大きく異なる点がある。それは、ロボットがバリスタを務めているということだ。

 サンフランシスコの目抜き通りであるマーケット・ストリート沿いにあるマーケット店では、店内に入ると、正面に自動でコーヒーを淹れる“コーヒーロボットシステム”がある。

写真左手前にある端末で注文を入力すると、中央のコーヒーロボットシステムがドリンクを作る。受け取る際は、マシンの手前にある端末に注文番号を入力すると、ロボットアームが商品を受け取り口に運ぶ仕組み

 来店客が注文用の端末を使ってオーダーすると、ロボットアームの背後にあるドイツ製の全自動コーヒーマシンが調理を開始。ドリンクができあがると店内のモニターに注文番号が表示されるので、マシンの受け取り口にある端末に注文番号を入力すると、アームがドリンクを運ぶシステムになっている。

 注文してからコーヒーができるまでの時間は、1分前後。注文を受ける端末や商品の受け取り口が複数あるため、一般的なカフェよりも混雑時の待ち時間が短縮される。1時間に最大120杯のドリンクが提供可能で、人間より多くの注文を受けられ、休憩も不要。味のばらつきがない点も好評で、注文ミスがないのもメリットだ。

「カフェラテ」(右)と「抹茶ラテ」。コーヒー豆は、提携している地元の人気カフェ3店舗から仕入れた数種類の中から選ぶことが可能。ミルクも、地元農場の牛乳か、スウェーデン産のオートミルク(オート麦から作られたミルク)から来店客が選ぶ

 一番人気は「カフェラテ」と「抹茶ラテ」(各3ドル=約336円)で、いずれもコーヒー専門店でていねいに淹れられたものとそん色ない味わい。価格も、周辺のカフェチェーン(カフェラテが4ドル25セント=約476円)と比べるとリーズナブルだ。その理由は大きく2つ。一つは、ロボット活用により人件費が抑えられること(常駐しているスタッフは1~2名)。もう一つは、コーヒーロボットシステムの設置に必要な約3.7平方メートル以外はキッチンスペースが不要なので、比較的狭くて賃料の安い物件で営業できることにある。

 同店には数席のイートインスペースもあるが、「カフェ・エックス」の系列店のなかには、コーヒーロボットシステムだけを置いているテイクアウト専門店もあり、さらに省スペースでの営業を実現している。

「カフェ・エックス」のワン・ブッシュ店は、コーヒーロボットシステムのみを置いたテイクアウト専門店。スタッフも1名のみで、さらなる省スペース化も実現。人件費や家賃を抑えて利益アップにつなげている

 ロボットを上手に活用することで人件費を抑えることに成功しているが、完全無人化を目指しているわけではない。豆の補充や、オーダーの方法などがわからない人に説明するため、どの店舗にもスタッフは最低でも1人配置。フレンドリー、かつ、ていねいな接客を心がけ、“人だからできること”を大切にしている。

 来店客の半分はリピーターで、残りが観光客など新規客だという。客席はシンプルなテーブル席なので、ゆったりくつろぎたいという人には不向きだが、「おいしくて安いコーヒーを手早く買える」と、特にビジネス層から好評。早さ、安さ、安定した品質と三拍子備えたロボットによるコーヒーは、さらに人気を獲得していきそうだ。

カフェ・エックス マーケット店(CafeX Market)
578 Market Street, San Francisco, CA 94104
https://cafexapp.com

グルメバーガーを全自動で作る夢のマシン

 「クリエイター(Creator)」は、2018年9月、IT系企業が集まり、発展著しいサンフランシスコのソーマ地区にオープンしたハンバーガーショップ。この店が導入しているのが、全自動でハンバーガーを作るマシンだ。創業者はエンジニアのアレックス・ヴァルダコスタス氏。幼い頃から両親が経営するハンバーガー店のキッチンで働いた経験から、「おもしろみの少ない単純労働に従事する人を減らしたい」と起業し、自動でハンバーガーを作る機械を開発して店を立ち上げた。

 同店にあるマシンは、ロボットアームなどが調理するのではなく、“ベルトコンベア式”ともいえるスタイル。しかし、単純に素材を重ねてハンバーガーにするというわけだけではない。

全自動のハンバーガー製造マシン。パテの調理からバンズのカット、具材をのせてソースなどで味付けするところまで、調理工程のほとんどを自動で行う

 オーダーが入ると、上の写真左端にあるタンク内で肉を挽き、パテに成形して焼く。その間、上部に並んでいるバンズを半分にカットし、マシンの右下へ。そこから左側に移動する間に、具材を乗せていく。

 具材も、トマトやタマネギ、チーズなどは、オーダーが入ってからマシンがスライスするのでフレッシュな状態で提供可能。調味料やソースもメニューごとに必要なものが自動で加えられ、さらに焼きたてのパテを乗せ、チーズは加熱して溶かす。ただし、最後に上にバンズを重ねて仕上げるのはスタッフの役目。これは、人の手で全体のバランスを整えたほうが美しく仕上がるからだ。

 ハンバーガーのメニューは全部で6種類(各6ドル=約672円)。素材にもこだわっているため、通常の店で同じメニューを提供すると10ドル(約1,120円)前後になるが、機械化により人件費などが抑えられたことでリーズナブルな価格を実現している。

右手前が、「クリエイターvs.ザ・ワールド」。左手前が、「ツマミ・バーガー」。奥が、「マサラ・バーガー」で、横にあるのがサイドメニューの「ミックスグリーンサラダ」(3.25ドル=約364円)

 人気が高いのは、新鮮なトマト、オニオンやレタス、チェダーチーズがトッピングされたオーソドックスな「クリエイターvs.ザ・ワールド」。そのほか、ピクルス、オニオンに、燻製オイスター風味のアイオリソースと椎茸風味のソースを加えたアジア風の「ツマミ・バーガー」や、トマトとキュウリのピクルス、タマネギを挟み、マンゴー・チャツネ風味のソースにインド風スパイスで仕上げた 「マサラ・バーガー」なども好評だ。食べると、パテはギュッと噛み応えのある絶妙な食感で、噛むほどに肉の旨みがにじみ出てくる。

 店に常駐しているスタッフは10名弱。前述したハンバーガーの仕上げのほか、タマネギの皮むきなどの下ごしらえや注文の受け付け、サイドメニューやドリンクの提供などを行う。「機械が人間の仕事を奪う」という見方もあるなかで、同店ではキッチンの人手が少なくて済む分、ていねいな接客に力を入れている。機械の導入が「人件費削減」ばかりでなく、「サービスの向上」にもつながっている。

エプロンをつけたホールスタッフがスマホで注文を取る。調理のほとんどを機械に任せ、ていねいな接客に力を入れている

 ハンバーガーはアメリカ人にとってソウルフード。いくら機械の作るハンバーガーが珍しくても、おいしくて適正な価格でなければ再来店にはつながらない。同店にリピーターが多いのも、話題性だけでなく味のよさと価格の手頃さが両立しているからにほかならなず、客層は10代の学生から50代のビジネス層までと幅広い。現時点での課題は、「チーズ抜き」「ピクルス増量」など、好みに合わせたアレンジができないことだという。マシンを改良することで、こうした細かいニーズにも応えていきたいと考えている。

 人件費の削減やサービス向上など、様々なメリットの飲食店の機械化。遠くない将来、日本の飲食店でも当たり前のように導入される日が来るかもしれない。

クリエイター(Creator)
680 Folsom Street, San Francisco, CA 94107
http://creator.rest

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約112円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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