ペルー・リマ発 世界に浸透するペルービアン

“ペルービアン”と呼ばれるペルー料理は1皿でいろいろな国の食文化が楽しめる料理。これまでは地元ペルーやラテンアメリカ文化圏での広がりだったのが、今、北米を経て日本へもそのムーブメントがきつつある。

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Vol.14

移民が多いペルーでは、もともと多様な食文化が存在している。だからペルー料理、“ペルービアン”は1皿でいろいろな国の食文化が楽しめる料理であると言われている。

ニューヨークの「ラ・マール」はモダンテイストのインテリアも特徴

そして前回もお伝えしたペルービアン・ブームの火付け役、ガストン・アクリオ氏の国内外に向けたアピールも大きく手伝って、世界でゆっくりとペルービアンが浸透し始めている。これまでは地元ペルーやチリ、メキシコ、アルゼンチンなどラテンアメリカ文化圏での広がりだったのが、今、北米を経て世界に向けて動き始めた。今回はアメリカ東海岸から西海岸へ、さらに日本へも広がりつつあるペルービアン・ムーブメントを紹介したい。

リカルド・ザラーテ氏はビバリーヒルズにペルービアンの店を出店
串焼きの「アンティクーチョ」を焼く様はまるで日本の焼鳥屋のよう

ニューヨーク・スタイルで広がる新しいペルービアン

ペルービアン・ブームの立役者、ガストン・アクリオ氏がニューヨークに出店したセビチェリア(魚介類専門店)「ラ・マール」は、マジソンスクエア・パークから歩いて数分のところにある。厨房を仕切るのはヴィクトリアーノ・ロペス氏。17年間にわたってアクリオ氏の右腕として働き、スペインの高級店「エル・セジェ・ド・カン・ロカ」(El Celler de Can Roca)や「ムガリツ」(Mugaritz)などでも修業をした人物だ(エル・セジェ・ド・カン・ロカとムガリツについては、こちらの記事で紹介しているので、参考にしていただきたい)。

ラ・マールのペルーの伝統的牛肉ソテー「ロモ・サルタード」

ロペス氏が作る白身魚のマリネ「セビチェ」は味付けがさらっとしていて、魚の鮮度の高さがよくわかると定評がある。また、メイン料理の「ロモ・サルタード」はペルー版肉野菜炒めで、肉、玉ねぎ、トマトにフライドポテトを中華鍋で豪快に炒める。ソースには醤油と酢(ビネガー)を使うので日本人には馴染みやすい。素材の良さが引き立てられ、ロペス氏の都会的センスが光る逸品だ。

同店の料理は、前回紹介したリマにある「アストリッド・イ・ガストン」(Astrid y Gaston)に比べるとよりシンプルにしてモダンで、人種、年代問わず幅広く好まれそうな味である。客単価は100~150ドル(8,100~12,150円)程度で、リマよりは高めの設定だ。
インテリアは、ニューヨークの地中海料理店「アルデカ」(Aldea)など、多数の人気店を手がけたことで有名なデザイナー、ステファニー・ゴトウ氏によるもので、これまでのペルー料理店のようなエスニック風でもスペイン風でもない、完全なニューヨーク・スタイルの空間を作り上げている。

本国ペルーよりもシンプル&モダンを打ち出した料理と空間。ここニューヨークでペルービアンは、さらに都会的、国際的に進化している。ラ・マールはすでにラテンアメリカ圏を中心に8店舗展開されているが、ニューヨークでさらに洗練され、今後、他の都市でもこのスタイルが広がるかもしれない。

シェフのヴィクトリアーノ・ロペス氏はエネルギッシュで知的な人物
ペルービアンとカクテルは切り離せないようで、ほとんどの客が注文する
La Mar(ラ・マール)
11 Madison Ave. (@25th Street) New York, NY 10018
営業時間


ランチ
月-金 11:30~14:30



土 11:20~15:30


ブランチ
日 12:00~16:00


ディナー
月-木 17:30~22:30



金・土 17:30~23:30
http://www.lamarcebicheria.com

ビバリーヒルズにはペルービアンがよく似合う?!

一方、西海岸では2011年5月、カリフォルニア・ビバリーヒルズのファッショナブルな一角にペルービアン・レストラン「ピッカ」が誕生。この界隈の高感度な住人たちの感覚にぴたりとハマり、またたく間に人気店となった。

ポップにアレンジされたインカの壁画が描かれた店内は、カリフォルニアの食通たちのよき社交場となっている

この店は、アメリカの飲食系雑誌「Food&Wine」で2011年ベスト・ニューシェフの一人に選ばれた、ペルー・リマ生まれの新鋭、リカルド・ザラーテ氏が出店。これまで主にロンドン、南カリフォルニアの日本料理店で仕事をしてきた彼は、ラテン系人口が多く、ペルービアンが馴染みやすいロサンゼルスこそビジネスの拠点としてもっともふさわしいと考え、この場所を選んだという。そしてその予測は見事に的中した。

ピッカのコンセプトは、ジャパニーズ・テイストも盛り込んだペルービアン。その大きな特徴は、「アンティクーチョ」(串焼き)を出すタパス・バーだ。料理は小皿中心で品数が多い。ディナーのみの営業で100席ある店内は連日満員で、多いときには1,000皿もの料理が送り出されるという。美しい小皿料理がキッチンから次々と運ばれていく様は圧巻である。

ピッカの成功はガストン・アクリオ氏の活躍を見ながら、ペルービアンがやがてブームになると見ていたザラーテ氏のマーケティング力によるところが大きい。さらにメニューを軽いものにしぼり、今の時代に合ったタパス・バーとしてペルービアンを仕立てたことにあるだろう。これまで日本料理店で学んできだザラーテ氏のこのスタイルは、日本でこそ取り入れたいものである。

キッチンはオープンになっていて、この開放感も店の魅力をつくっている
羽子板をお皿にアレンジ?ザラーテ氏の料理はユニークなものが多い。カウサ(ペルー風ポテトサラダ)の盛り合わせ5~7ドル

SHOP DATA

Picca(ピッカ)9575 West Pico Boulevard, Los Angeles, CA 90035

営業時間

日-木 18:00~23:00
金・土 18:00~24:00http://www.piccaperu.com

次なるペルービアンの発信基地は日本

ペルービアンを巡る旅の終章に、今、東京で「NOBU」のオーナーシェフ松久信幸氏と向かい合っている。松久氏は、日本で寿司職人として修業した後、ペルーで3年間寿司店を営業している間にペルー料理を学び、ニューヨークで初めてセビチェを流行らせ、ペルー料理のエッセンスをとり入れたフュージョン料理を始めた人物だ。「ピッカ」のリカルド・ザラーテ氏を取材したとき、彼も“NOBUスタイル”をとても意識していた。

和を意識しながらも欧米の雰囲気も感じられる空間

「“NOBUスタイル”は私の原点である寿司がベースで、出汁、季節感といった和食の基本がバックボーンです。そこにペルーの刺身を醤油やワサビ以外で食べる調理法や、現地の食材、調味料を学び、私の最初の店“Matsuhisa”で新しい料理が生まれ、やがてそれが“NOBUスタイル”と呼ばれるようになったのです」と松久氏は言う。

昨年の「Mistura」(毎年リマで開催される食の祭典)には松久氏も招待されていた。そこで、今まで以上にペルーの人たちが食に対し熱くなっているのを感じたという。
「フランス料理、イタリア料理、中国料理、そして最近は和食が世界中に広まっていますが、それはその国々の料理人たちが熱く、プライドを持って自国の料理を紹介することに専念してきた結果だと思っています。私は今、ペルーの料理人たちに同じような熱意を強く感じています。ペルー料理はきっとこれから世界中に広まるでしょう」。
ペルーを起点に海外へ進出し、その後アメリカへ渡って世界中に日本料理店を展開した氏は、そう確信しているようだった。

和食にペルーテイストをミックスし、NOBUスタイルを創った松久氏。彼を生んだこの日本も、ペルービアンを取り入れた、新しいスタイルの発信基地となる可能性がある。異文化が混ざり合って生まれたペルービアンと、外国文化を貪欲に吸収し、消化する日本文化が出会い、これまでなかった新しい料理が生まれるかもしれない。

松久信幸氏の活動はペルーに寿司店を出したところから始まった。現在、世界に25店舗を展開中
NOBUスタイルのセビチェはあまり漬け込まず、刺身の味を生かしていただく

SHOP DATA

NOBU TOKYO東京都港区虎ノ門4丁目1番地28号 虎ノ門タワーズオフィス1階

営業時間

http://www.nobutokyo.com

取材・文/栗原伸介
写真 Piccaの写真:Lyan Tanaka/NOBU TOKYOの料理写真 Eiichi Takahashi

※通貨レート:1ドル=81円
※価格・営業時間は取材時のものです。予告無く変更される場合がありますので、ご注意ください。