(前編)米国発 「ファストファイン」業態が急成長

アメリカの飲食業界で、2000年以降に成長を続けている業態「ファストカジュアル」。その進化系「ファストファイン」が注目を集めている。素材やサービスにこだわりつつ、提供スピードも早い新業態の人気の秘密に迫る

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Vol.201

 アメリカの飲食業界で、2000年以降に成長を続けている業態が「ファストカジュアル」だ。一般的な「ファストフード」よりも高単価で注文から提供までの時間はかかるが、レストランに比べると価格は安く、待ち時間も短い業態のことで、「サブウェイ」や「シェイク・シャック」「フレッシュネスバーガー」などがその代表例だ。

 そんななか、近年は「ファストファイン」という新たなカテゴリーが誕生し、注目を集めている。ここでいう“ファイン”は“高級な”というニュアンスで使われており、アメリカで高級レストランを「ファインダイニング」と呼ぶのと同じで、「高品質なファストカジュアル」を意味している。洗練されたサービスと内装、レストランにも引けをとらない上質な素材や味つけにこだわりながら、レストランよりは低価格で提供スピードも早いという、「ファストフード」のよい部分も兼ね備えており、もちろんテイクアウトも可能。「ファストフード」や「ファストカジュアル」の店と同様に、オーダーはカウンターで行うが、料理の受け渡しはカウンターではなく、ホールスタッフが客席に運んでくれることが多い。これはイートインでもテイクアウトでも同じで、注文を終えた人は客席でゆったりと待っていればよく、受け取り番号が呼ばれるのをそわそわ待つ必要もない。そんな「ファストファイン」の人気の理由を、サンフランシスコからリポートする。

ギリシャ料理の大人気「ファストファイン」店

 サンフランシスコのミッション地区は、若者に人気の飲食店や雑貨店が並ぶエリア。その中心部に、2014年4月に創業し、5店舗を展開する「スーヴラ(Souvla)」のミッション店がある。ここはカリフォルニア風ギリシャ料理を売りにするファストファインの店だ。


 主なメニューは、「サラダ」と「ラップサンド」の2種類で、それぞれの具材を「ラム」「チキン」「ポーク」「ベジタリアン」の4種類(各12〜15ドル=約1,308円〜1,635円)から選ぶことができる。肉はどれもこだわりのオーガニックの素材を使用し、ロティサリー方式(回転式肉焼き機)でじっくり時間をかけてローストし、旨みを引き出している。効率を重視してメニュー数は絞り込んでいるが、素材、調理法ともに従来の「ファストカジュアル」とは一線を画す質の高さを誇っており、その分、価格もやや高めだ。

 人気の「ラム・サラダ」は、直径20センチほどのボウルにケール、じっくりと時間をかけてローストしたオーガニックのラム肉を盛り、紫玉ねぎのピクルス、フェタチーズなどをトッピング。仕上げにギリシャ風ヨーグルトソースをかけている。旨みが引き立った肉と酸味の利いたソースがよく合う一品だ。

オーガニックのラム肉を使った「ラム・サラダ」。素材と味にこだわる一方で、素早く食べられるのが、ファストファインの人気の秘密だ

 また、「チキン・ラップサンド」も人気の一品。こちらもじっくり焼き上げて旨みを凝縮したローストチキンや、フェンネル、オレンジ、紫玉ねぎのピクルスといったこだわりの素材をふんわりしたピタパンで包んでいる。

「チキン・ラップサンド」。やわらかくジューシーな鶏肉に、オレンジやピクルスがアクセントを加え、一口ごとに違った味わいが楽しめる

 店内は全49席と決して小さい店ではないが、ホールの従業員は計3名。カトラリーは席に備え付け、水もセルフサービス。メニューも絞り込んであるうえに朝から夜まで同一で、調理工程もシンプルにするなど、効率を重視して提供スピードをできるだけ早くしているからこそ、少人数でも回せている。

「ギリシャ風フライドポテト」(5ドル=約545円)。一見パセリを振っただけのフライドポテトに見えるが、オリーブオイル、レモン汁、ミゼトラチーズで、さわやかな風味をつけている。こういったひと手間も、ファン獲得につながっている

 天井の高い店内は、すっきりと白いタイル壁や銅のテーブルを配し、モダンで開放的な雰囲気。客層は20〜30代の男女が中心で、一人客からファミリー、カップル、ビジネスのミーティングなど幅広く利用されている。

スーヴラ ミッション店(Souvla The Mission)
758 Valencia Street, San Francisco
https://www.souvla.com

本格的&手軽なキューバ式サンド

 「スーヴラ」と同じミッション地区のはずれに、人目を引くかわいらしい外観のファストファインの人気店がある。2017年5月にオープンした、キューバ料理店「メディア・ノーチェ(Media Noche)」だ。

 こちらもホール係が料理を客席まで運ぶサービスを行っている。「サンフランシスコでは人件費が高いうえに人手不足なので、フルサービスのレストランを開くことは考えられませんでした。創業者の一人が以前高級レストランで働いていたこともあり、ファストカジュアルよりも料理の質にこだわったファストファインの店を開くことにしました」と、創業者の一人であるジェシー・バーカー氏は語る。人員配置は時間帯によって異なるが、通常はカウンターを含めてホール2名、キッチン約4名で店を回している。

 メインのメニューは、キューバで一般的なホットサンドイッチ「クバーノ」。5種類のうち看板メニューは「エル・クバーノ」(12.5ドル=約1365円)で、5〜6時間じっくり焼いて旨みを凝縮させたプルドポーク(豚肉を塊で焼いたあと裂いたもの)、ハム、スイスチーズ、自家製ピクルスをバンズではさんでカリッと焼いたホットサンドイッチだ。旨みたっぷりの豚肉に濃厚チーズがからみ、ピクルスの酸味がほどよいアクセントを加えている。

キューバのホットサンドイッチ「エル・クバーノ」。写真右は、揚げたプランタン(甘くないバナナの一種)に、ハーブをたっぷり使ったスパイシーな自家製ソースを添えたサイドメニュー「マリキタス」(6ドル=約654円)

 このほか、サイドメニューのキューバ式揚げ餃子「エンパナーダ」(2個10 ドル=約1090円)も人気が高い。

キューバ式揚げ餃子「エンパナーダ」。餃子の具材は「ブラックビーンズとスイスチーズ」と「牛ひき肉とピーマン」の2種類で、いずれも濃厚な味わい

 ファストフード並みの早さで提供できるように、グランドメニューは「クバーノ」5種類、「ボウル」5種類、「サイドメニュー」4種類、「サラダ」1種類のみ。客層は、近隣の住民やビジネス層、観光客やファミリーなど多岐にわたる。テイクアウトやすばやく食事を済ませたい人だけでなく、のんびりと食事を楽しみたい人にも好評で、夜は特に混み合うという。

イートインの場合はスタッフが商品を客席まで運ぶが、テイクアウトの受け渡しはカウンターで行う。ファストフード同様、オペレーションの効率化は、「ファストファイン」における成功のカギだ

 同店は、2020年に2店舗目をオープン予定。下ごしらえや素材にこだわる一方で、調理はマニュアル化されてオペレーションも効率的。多店舗展開しやすいのもファストファインの魅力といえそうだ。

メディア・ノーチェ(Media Noche)
3465 19th Street, San Francisco
https://www.medianochesf.com

取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約109円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。