Vol.205
最近、日本で注目を集めるようになっているノンアルコールのカクテル「モクテル」。アメリカでも、近年、モクテルの提供に力を入れるバーやレストランが増えている。モクテルとは、「似せた・真似た」という意味の「mock(モック)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語で、ノンアルコールカクテル全般を指す。人気の背景には、日本同様に若い層や健康的な食生活を心がける人たちの間で、アルコールを控えたり、飲まないようにする傾向が強まっていることなどがある。
一方で、これまでのモクテルは、ジュースと炭酸水を混ぜたシンプルなものが多く、“ソフトドリンクとそれほど変わらないもの”というイメージが強かった。ところが近年では、本格的なカクテルのようなこだわりや工夫を凝らした高級感のあるものが続々と登場している。前編では、ノンアルコールドリンクを求める層はもちろん、お酒好きな人にも人気が高いモクテルを紹介する。
老舗ホテルのバーで、モクテルの売り上げが好調!
アメリカ・サンフランシスコ観光の中心地であるユニオン・スクエアの近くにある、1928年創業のクラシカルなホテル「キンプトン・サー・フランシス・ドレイク・ホテル」。その21階で本格的なカクテルを売りに長年愛されてきたバーが、2019年10月に「リジーズ・スターライト(Lizzie’s Starlight)」としてリニューアルオープンした。リニューアルにあたり、これまで以上に若い層を集客するため、内装だけでなく、メニューも一新。その一環として、3種類のモクテルを新たに加えた。
そのなかでも人気なのが、「バージン・クイーン」(14ドル=約1,540円)。生のパイナップルを絞ったジュースをベースに、ハラペーニョ、ライム、ジンジャービア(ショウガと砂糖を発酵させた微炭酸のノンアルコール飲料)などを合わせてシェイクしたもの。パイナップルの爽やかな甘さとハラペーニョの辛みがよく合うと好評で、全18種のカクテルのなかで、ノンアルコールながら3番目の人気を誇っている。
また、「ハイ・ティー」(16ドル=約1,760円)は、イギリス生まれのノンアルコール・スピリッツ「シードリップ・ガーデン108」をベースにしたモクテル。独特のクセがあるシードリップに、フレッシュのグレープフルーツジュース、カモミールティー(カミツレの花のハーブティー)、炭酸水を組み合わせ、甘みとほのかな苦みを同時に感じるような絶妙なバランスに仕上げてある。
このほか、緑茶ベースのモクテルもある。パッショングリーンティー(緑茶の茶葉をパッションフルーツで香り付けしたフレーバーティー)にミント、キュウリ、炭酸水を加えた「パシャ・アンド・ザ・スワン」(14ドル=約1,540円)だ。あっさりとした飲み口だが、飲み進めると、奥ゆきのある複雑な味わいが楽しめる。
客層は20~70代まで幅広く、観光客と地元の人々が混在。カップルや友人同士だけでなく、ファミリーも少なくない。ドリンク・ディレクターであるライアン・シェファー氏は、「お酒が苦手な方だけでなく、お酒好きの方が“休憩”としてモクテルをオーダーすることも多いです」と、ニーズの高さを感じている。普通のソフトドリンクとは一線を画す複雑な味わいで高級感を演出し、来店客の満足度を高めており、売価や利益率も比較的高く設定しやすいことから、店にとっても“売りたいドリンク”になっている。
450 Powell Street, San Francisco
https://lizziesstarlightsf.com
大人のための酔わないカクテル
サンフランシスコのイースト港に面し、イベント会場や書店、飲食店などが集まる広場「フォート・メイソン」は、観光客にも地元住民にも人気のスポット。なかでも、2014年オープンのカフェ・バー「ザ・インターバル・アット・ロング・ナウ(The Interval at Long Now)」は、洗練されたメニューと美しい内装で多くの人を引きつけている。
ディナータイムに提供(週末は終日提供)しているバーメニューには、低アルコールのカクテルとモクテルが6種類ずつある。モクテルのなかで一番人気が高いのは、「ビター・オレンジ・オールド・ファッション」(6ドル=約660円)。キノット(イタリアで広く飲まれる、柑橘系の甘い炭酸水)に、リキュールのビターズとオレンジの皮が風味を添える。バランスよく混ざり合った甘さと苦みにオレンジの香りがよく合い、爽やかな飲み口だ。
「ガーデン・アンド・トニック」(13ドル=約1,430円)は、「シードリップ・ガーデン108」を炭酸水で割り、ライムを絞ったドリンク。クセのあるシードリップをライムの酸味が引き締め、複雑ながらすっきりした味わいになっている。
また、「ジャマイカ・クーラー」(7ドル=約770円)も人気のモクテル。ハイビスカスティーにパイナップル・ガムシロップ、レモンジュース、炭酸水を加えてシェイクしたもの。酸味が利いて甘すぎず、気温の高い日によく合いそうな南国風の一杯だ。
ビバレッジ・ディレクターのトッド・カーナム氏によると、モクテルを注文するのは、アルコールが苦手な人が中心。しかし、月曜日や火曜日に、普段はお酒を飲む人が、「週はじめなので今日はアルコールを控えたい」と言ってオーダーするケースも増えているという。
来店客は観光客や近隣住民など幅広い。見た目もおしゃれなモクテルはデートで訪れたカップルにも好評で、多様なニーズを満たすドリンクになっている。
Landmark Building A, 2 Marina Boulevard, San Francisco
https://theinterval.org
取材・文/前田えりか(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約110円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。