(前編)世界各国発 アジアの焼き麺がテイクアウトで人気

世界各国で定着しつつあるアジアの食文化。中でも、コロナ禍によるテイクアウトニーズの高まりで人気が集まっているのがアジアの焼き麺だ。各国で話題となっている焼き麺の人気の理由に迫る。

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Vol.212

 欧米で麺料理といえばパスタだが、近年はタイの「パッタイ」や日本の「焼きそば」など、アジア系の焼き麺(炒麺)の人気が上昇している。世界各国でアジアの食文化が定着してきたことや、“アジア=健康的”というイメージと近年のヘルシー志向がマッチしたのかもしれない。また、麺がのびにくく、「提供スピードの早さ」「価格の安さ」「メニューの多彩さ」も売りとなり、新型コロナウイルスの感染拡大以降は特に、テイクアウトメニューとして人気を集めている。前編では、ドイツとノルウェーから、コロナ禍の中、多彩な焼き麺でファンを獲得している店を紹介する。

ベトナム、タイ、日本など全6種類の焼き麺を提供

 ドイツ南西部の小都市エメンディンゲン。その繁華街に2015年4月オープンしたのが、アジア系の焼き麺を売りにする「ラッキー・サイゴン(Lucky Saigon)」だ。サイゴンという店名からもわかるとおり、オーナーシェフはベトナム出身。アジア各国の全6種類の麺料理を手ごろな価格で提供している。ドイツでは、7月15日より店内での営業が許可されたが、テイクアウトを利用する人がほとんどだという。

 看板メニューは、ミー麺(小麦粉や卵などを原料とする麺)を使った「塩かた焼きそば」(6ユーロ=733円)。ミー麺は、日本の焼きそばとうどんの中間くらいの太さで、断面が丸ではなく正方形に近い形をしているのが特徴。これを鶏ガラスープで茹で、大ぶりのエビやブロッコリー、チンゲン菜、もやし、タマネギなどとともに、ゴマ油で炒める。味付けは塩とコショウのみとシンプルだ。

人気の「塩かた焼きそば」。麺は固めに茹でてあり、しっかりとした食感も楽しめる

 また、「カレー味の麺を使ったバミゴレン」(5.5ユーロ=672円)も人気の一品。バミゴレンとは、インドネシア風焼きそば(ミーゴレン)のこと。カレー粉を練りこんだ太めの麺を固めに茹で、毎朝店で揚げるオリジナルの厚揚げのほか、ニンジンや白菜、ネギ、もやしとともに、ピリ辛チリソースに絡める。口に含んだ瞬間にチリソースの辛さが広がり、噛むほどにカレーの旨みが加わっていく。麺にカレー粉を練りこんでいるのは、同店オリジナルのアレンジだ。

「カレー味の麺を使ったバミゴレン」。肉ではなく厚揚げを使っていることからベジタリアン向けのメニューとしても好評で、特に若い女性に人気だ

 そのほか、タイ料理の定番「パッタイ」をわかりやすいネーミングにした「タイ・ヌードル」(7.5ユーロ=916円)も好評で、ライスヌードルに、白菜やネギ、ニンジン、もやし、厚揚げなど、具だくさん。タイ料理だが、味付けには風味付けのためにしょうゆを使っているのも特徴で、学校帰りの中高生たちに人気のメニューだという。

「タイ・ヌードル」。メインの具材は鶏肉、豚肉、牛肉、エビ、厚揚げから選べる(写真は厚揚げ)

 さらに、ベトナム風に香辛料をきかせた「春雨と野菜炒め」(5.5ユーロ=約672円)や、ミー麺を使用し、中国・四川料理風に辛く仕上げた「麺と野菜炒め」(同)などもファンが多い。

 料理の価格帯は、5~8ユーロ(約610~976円)。近隣のカジュアルレストランの日替わりランチが約15ユーロ(約1,832円)であることを考えると、リーズナブルな価格だといえる。客層は、ファミリーや学生、近くのオフィスで働くビジネス層と幅広い。新型コロナの不安もまだ残る中、依然、テイクアウトのニーズは高く、アジアの多彩な焼き麺が、そのニーズの受け皿の1つになっている。

Lucky Saigon
Lammstrasse 8, 79312 Emmendingen

アジア各国をイメージした味付けの焼き麺が好評

 ノルウェーの首都オスロの市街地に3店舗を構える「トゥンコ(TUNCO)」は、2016年春に創業したアジア系の焼き麺を売りにした店。国産オーガニックの野菜や肉、卵などを使用し、アジアンテイストの味付けにこだわった4種類の創作焼き麺などを提供している。ノルウェーでは、感染症の被害が比較的少ないことから通常営業に戻っているが、もともとテイクアウト向けであることもあり、来店客のほとんどはテイクアウトやデリバリーで購入する。

 4つの焼き麺のうちの一番人気が、ベトナム風の味付けの「ホーチミン」(レギュラーサイズ。テイクアウト 164ノルウェークローネ=約1,855円、イートイン 179ノルウェークローネ=約2022円)。ライスヌードルを軽く茹で、鶏肉やピーナッツ、パクチー、ライムなどとともにオイスターソースで炒めた一品だ。

一番人気の「ホーチミン」。4つの焼き麺は、どれもメインの具材を鶏肉、揚げ豆腐、テンペ(インドネシア発祥の納豆風発酵食品)の3種類から選べ、麺もライスヌードル、たまご麺から選べる(写真は、揚げ豆腐とたまご麺)

 また、「ソウル・メイト」(価格は「ホーチミン」と同じ)は、韓国料理をイメージした味付け。ライスヌードルとテンペを5種類の香辛料とともに炒め、たっぷりの青ネギとゴマをトッピングしたもので、スパイシーな香りと鮮やかな色合いが食欲をそそる。

韓国風の焼き麺「ソウル・メイト」。イートインでは、平皿で提供される

 このほか、タイ風にレッドカレーペーストでコク深い味付けに仕上げた「コ・タオ」、ピーナッツにタマリンドを合わせて甘辛く仕上げたインドネシア風の「メンタワイ」を用意。

インドネシア風の「メンタワイ」。ライムとパクチーがいいアクセントになっている

 オスロ中心部の西側に位置するフログネル地区にある3号店には、主に10代後半~30代が来店。ノルウェーでも、ランチを手早く済ませたいという考えの人が多く、提供スピードが早くて、できたてを楽しめるのも好評な理由の一つだろう。新型コロナによる外出自粛をきっかけに、テイクアウトやデリバリーの利用は一気に増えた。プロが中華鍋で作る焼き麺は、一般家庭ではなかなか再現が難しいこともあり、今後も人気は高まっていきそうだ。

トゥンコ フログネル店 (TUNCO Frogner)
Skovveien 3, 0257 Oslo
https://www.tunco.no/

(ドイツ)取材・文/キュンメル斉藤めぐみ(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ユーロ=約122円
(ノルウェー)取材・文/山岸早李(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ノルウェークローネ=約11.3円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。