⑦世界各国発 コロナショックからの再出発

いまだに感染拡大の収まらないアメリカ。各地で再びロックダウンが行われる中、飲食店もテイクアウトやデリバリーなどに取り組んでいる。その中からシアトルとポートランドの事例を紹介する。

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Vol.221

 2020年11月末の時点で、新型コロナウイルスの累計の感染者数が1,300万人を超えたアメリカ。日本の都道府県に比べて、州の権限が強いため、州ごとに対応は大きく異なり、感染拡大を抑制することに成功している都市もある。ただ、そういった都市でも飲食店は店内での営業が禁止されるなど、苦しい状況が続いている。外食などについて厳しい規制が行われているワシントン州シアトルやオレゴン州ポートランドで、売上アップのために新たな取り組みを行う飲食店を紹介する。

手巻き寿司のセットが人気に

 ワシントン州シアトルの一大観光地・シアトルセンター近くのベルタウン周辺は、多くの飲食店が軒を連ねるエリア。ここに、2018年3月オープンしたのが懐石料理店「ワズ(wa’z)」だ。新型コロナの影響で3月中旬にワシントン州がロックダウン(都市封鎖)に入り、飲食店は店内営業が禁止に。そこで、ほかの日本食レストランと同様に、弁当の販売を開始した。「当店は高級路線の懐石料理店。他店とは違う、特別感のある弁当を提供しよう」(オーナーの俵裕和氏)と考え、3月末から、自宅で手巻き寿司が楽しめる数種類の「手巻きプレート」のテイクアウト販売を開始した。

 中でも一番人気は、「ワズ手巻きプレート」(2人前90ドル=約9,270円/3人前135ドル=約1万3,905円)だ。本マグロのトロと赤身、びんちょうマグロ、サーモン、ホタテ、エビなどの刺身に、イクラのしょうゆ漬け、アボカド、アスパラガスなど約15種類の具材と、新潟産のこしひかり「彩錦」と江戸前寿司伝統の赤酢で作ったシャリ、手巻き用の焼き海苔20枚がセットになっている。

テイクアウト用に新たに開発した「ワズ手巻きプレート」(写真は2人前)。特別な日のホームパーティーにぴったりと好評

 このほか、「パーティー手巻きプレート」(2人前90ドル=約9,270円~)も人気。「スパイシー・ツナ」(唐辛子ベースのソースでピリ辛に味付けしたマグロの赤身)や「クリーミー・スキャロップ」(ホタテの貝柱のクリーム仕立て)、「海老天ぷら」など、アメリカ人に人気の高い具材を盛り込んだセットだ。

「家庭で手巻き寿司を楽しむという日本の食文化も伝えたかった」と語るオーナーの俵氏。日本からの国際郵便が止まってしまったこともあり、懐石の高級感を損なわないテイクアウト用の容器を入手するのにも苦労したという

 さらに、高級感を意識したメニューとして、「ワズ懐石御膳」(100ドル=約1万300円)も用意。これは、もともと店で人気が高い懐石コース「ワズプレミアム懐石」(150ドル=約1万5,450円)をテイクアウト用にアレンジしたもの。料理は月替わりで、11月は辛子味噌で和えたあん肝の先付や季節の鮮魚の刺身、キングクラブとウニの焼八寸、サバ棒寿司、A5ランクの宮崎牛を使ったすき焼き、サーモンとイクラを散りばめたはらこめしに、デザートや吸い物なども付く豪華な内容だ。

料理を別々の容器に入れて提供する「ワズ懐石御膳」。見た目にも鮮やかで、本格的な懐石料理が家で楽しめると好評

 テイクアウトの利用客は、シアトルに住む日本人はもちろん、手巻き寿司を初めて知って興味を持った地元の人も少なくない。販売開始から約半年で口コミなどで話題となり、リピートする人も増えている。

ワズ(wa’z)
411 Cedar Street, Seattle
https://www.wazseattle.com

紅茶メーカーと料理人のコラボで新商品を開発

 アメリカの太平洋岸北西部、オレゴン州の大都市・ポートランドのセントラルイースト地区。倉庫街の雰囲気を残すこのエリアに、2015年オープンしたのが、紅茶メーカー直営のティールーム「スティーブン・スミス・ティーメーカー テイスティングルーム(Steven Smith Teamaker Tasting Room)」だ。

 オレゴン州でも3月中旬から店内飲食が禁止されたことから、ドリンクのテイクアウトと茶葉の販売のみに変更。客数が激減する中、売上アップを狙おうと、以前から検討してきた「茶葉を使ったフードメニュー」の開発に着手した。そこで、以前から交流のあった、自ら育てた食材を生かす料理で知られるカール・ホール氏にメニューの監修を依頼。ホール氏にとっても、コロナ禍で自身の働くレストランが休業を余儀なくされていたため、紅茶メーカーからのコラボの話は渡りに船だった。

 その後、約3カ月かけて試作を繰り返し、7月から毎週金・土曜日に、2種類の週替わりメニュー(12ドル=約1,240円)をテイクアウトとデリバリーで販売した。例えば、10月の第1週の1品は「チルドグリーンティーヌードルズ」。抹茶を練りこんだ茶そばに、ニンジンのピクルス、紅茶を使ったキムチ、シイタケ、キュウリ、ベビーリーフなどの野菜をたっぷりのせ、味噌風味のフレンチドレッシングをかけたもの。茶そばや味噌といった和の食材を、キムチやピクルス、生野菜などと組み合わせることで、一口ごとに変化があり、サラダのように最後まで飽きずに楽しめる。

「チルドグリーンティーヌードルズ」(左)。「ビーツのポケボウル」(右)は、茶葉とともにビーツを蒸し焼きにすることで香り付け。レシピの幅が広がった

 同じく、9月に販売したのが紅茶で蒸し焼きにしたビーツを使った「ビーツのポケボウル」(12ドル=約1,240円)だ。ベビーリーフの上にご飯、サイコロ状に切ったビーツ、枝豆、アボカド、プチトマト、キュウリ、ウォーターメロンラディッシュ、ハーブ、ワイルドライスのパフをトッピングし、ごまダレをかけて仕上げる。

 本来、ポケボウルには魚介類を使うが、紅茶の風味を付けたビーツで代用。クリーミーなアボカドや枝豆、ライスパフなど、多彩な色、食感、味わいを楽しめる一品に仕上がった。食事には、紅茶がサービスで付いており、茶葉を3種類から選ぶことができる。

シェフのホール氏(右)と店長フィリップ・マルドナド氏(左)

 テイクアウトやデリバリーで営業するにあたり、最も重視したのは料理の鮮度だ。例えば、野菜のシャキッとした食感を保つために、味付けは最小限にとどめ、ドレッシングなどは別容器に入れて、食べる直前にかけてもらうようにしている。また、当初は丼型の容器を使っていたが、口径が狭く、深さがあるためソースを全体に混ぜ合わせにくいことから、薄くて平たい容器に変更したという。

容器がきれいに積み重ねられるように、容器と同じサイズの紙袋を用意。移動中に料理がくずれないようにした

 これらのテイクアウト&デリバリーメニューは、若い女性を中心にヒット。現在も、週替わりでさまざまな茶葉を使った料理を販売しており、コロナが収束し、客足が戻った折には、評判のよかったメニューをイートインやパッケージ済みのお弁当のように提供していく予定だ。紅茶メーカーと料理人がタッグを組むことで、コロナ禍の逆境を生き残るための新たな道を開こうとしている。

スティーブン・スミス・ティーメーカー テイスティングルーム(Steven Smith Teamaker Tasting Room)
110 SE Washington St. Portland, OR, 97214 USA
https://www.smithtea.com/pages/tasting-rooms

シアトル取材・文/ハントシンガー典子(海外書き人クラブ)
ポートランド取材・文/東リカ(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1ドル=約103円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。