(前編)タイ発 タイ料理が高級&華麗に進化

経済成長に伴い、富裕層が増えているタイでは、これまで庶民的なイメージの強かった伝統料理の高級店が生まれている。前編では、高級創作タイ料理店とタイ東北部の料理をアレンジして人気の店を紹介する。

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Vol.221

 「トムヤムクン」「グリーンカレー」「パッタイ」など、タイ料理は“屋台料理”や“庶民的な料理”のイメージが強い。だが、タイでは近年の経済成長で金銭的に余裕のある富裕層や中間層が増えたことと、「タイならではの高級料理が食べたい」という外国人駐在員や外国人観光客のニーズに合わせて、高級タイ料理の店が増え始めている。

 では、これらの店ではどんな料理を提供しているのか。前編はタイの伝統料理を進化させて人気になっている店を紹介する。

ユニークなアイデアでタイ料理をアレンジ

 タイの首都バンコクのジャランクルン地区は、由緒ある歴史的建物が残るエリア。そのメインストリートであるジャランクルン通りに2016年11月オープンしたのが、高級創作タイ料理店の「80/20(エイティー・トゥウェンティー)」だ。料理は、前菜・メイン・デザートなど全12品のコース(3,000バーツ=約1万340円)のみ。タイ料理の店としては高単価ながら、伝統的な料理に独自のアレンジを加えたメニューで人気を呼んでいる。

 アレンジメニューの代表的な例が、タイ南部名物のエビのペーストを使った酸味の効いたカレー「ゲーンソム」だ。一般的には、調味料や具材を一緒に煮込んで提供するが、同店では、カレールーのペーストや貝のコンフィ、ハマグリ、クラゲなどの具材が入った器と、ブロス(ブイヨン)を入れた大きな貝殻が別々に供され、具材をブロスにつけて食べるスタイル。カレーの酸味と辛さ、ブロスのうま味が魚介によく合う一品だ。

具材が入った器(左下)とブロス入りの貝殻(右上)のほか、甘いカボチャの花の天ぷら(左上)も添えられており、こちらもブロスにつけて食べる

 また、タイの伝統的な料理としては珍しく牛肉を使って話題になっているのが、和牛料理3品からなる「フレイバー・オブ・ローカル・ビーフ」だ。

 3品のうちの一つ「ビーフタルタル」は、タイの挽肉料理「ラープ」をアレンジしたメニュー。一般的な「ラープ」は、豚肉や鶏肉の挽き肉を使うが、代わりにタイ産和牛の挽き肉を使用。挽き肉にオオバコエンドロやイノンド(ディル)などのハーブを混ぜたものを、フライにしたケールの上にのせ、細切りにした燻製の唐辛子をたっぷりと盛ったメニュー。ハーブの香りが和牛のうま味を引き立てている。2品目は、豚の串焼き「ムーピン」を和牛を使ってアレンジした「スキューアビーフ」。和牛のサーロインを炭火で焼き、外はカリッとした食感、中はミディアムになっており、和牛本来の味を楽しめる。もう1品の「ビーフジャーキー・ウィズ・カオニャオ&エゴマ」は、カオニャオ(もち米)とエゴマの葉を和牛のサーロインで包んで燻製にしたもので、それぞれの素材が口の中で混然一体となる。

「フレイバー・オブ・ローカル・ビーフ」の3品。「ビーフタルタル」(左奥)と「スキューアビーフ」(右奥)、「ビーフジャーキー・ウィズ・カオニャオ&エゴマ」(手前)

 このほか、デザートの「ブアローイナムキン」も特徴的な一皿。黒ゴマ団子を温かいショウガのスープに浸すのが一般的だが、同店では黒ゴマの代わりにエゴマを用いた小さな団子を使い、ショウガ汁を冷凍し、ミキサーで砕いたものとともに提供している。

「ブアローイナムキン」。庶民的なおやつを、ショウガの風味がさわやかに香るひんやりとした上品なスイーツに変身させた

 タイの物価が日本の3~5分の1であることを考えると、1万円強のコース1本で勝負するのはギャンブルのようにも感じるが、他の店では味わえないユニークな料理を出すことから評判に。バンコク版のミシュランガイドでも1つ星を獲得し、地元のアッパー層や現地に在住している外国人が連日押しかけ、約30席の店内は常に予約でいっぱいになっている。

80/20(エイティー・トゥウェンティー)
1052-1054, 26 Charoen Krung Road, Bang Rak, Bangkok
https://www.8020bkk.com/

タイの田舎料理が華麗に進化

 「80/20」のあるジャランクルン通りから少し離れた、静かな住宅地区にあるのが2018年9月にオープンしたタイ東北料理(イサーン料理)の専門店「100マハセット(100 Mahaseth)」。これまで、タイの東北料理は垢ぬけないイメージを持たれがちだったが、それをアレンジして高級感あるメニューに進化させているのが特徴だ。

 その一つが、イサーン料理の代表的な料理である「ソムタム」(青パパイヤのサラダ)をアレンジした「パイナップルとハイガイのソムサラダ」(280バーツ=約963円)だ。青パパイヤの代わりにパイナップルを用い、ナンプラー(魚醤)やマナオ(タイ産の柑橘類)などで作ったタレとともにプラスチックバッグに密封して一日漬け込む。これを、蒸したハイガイ(赤貝と同じフネガイ科の二枚貝)にプララー(魚の塩漬け調味料)を和えたものや青トマトとともに盛り付けた一皿。パイナップルの酸味とプララーの効いたハイガイがマッチし、通常の青パパイヤのソムタムとは異なる上品さを感じさせる。

「パイナップルとハイガイのソムサラダ」。タイ東北部では、青パパイヤではなく、キュウリやニンジン、マンゴーなどを使ったソムタムもあることをヒントに、パイナップルを使用した

 ソムタムと双璧をなすイサーン料理の代表格が、鶏肉を豪快に炭火で焼く「ガイヤーン」。この代表的な二つの料理をセットにしたのが「ソムタムガイヤーン」(220バーツ=約757円)だ。特製ソースに漬け込んだ鶏肉を皮にしっかり焦げ目が付くまで焼いたものに本来は細切りにする青パパイヤをスライスして挟んだメニュー。炭火焼きの香りと肉汁、ソムタムの酸味がよく合う。

見た目の美しさも特徴の「ソムタムガイヤーン」。周りには粉唐辛子とささげの豆が添えてある

 さらに、豚や鶏の挽き肉を香辛料とともに炒めたイサーン料理「ラープ」も独自にアレンジ。豚や鶏ではなく牛肉を、しかも生で使っているのが「ビーフ・ラープ」(360バーツ=約1,238円)だ。生の牛肉に、レモンバジルなどの香辛料とエシャロット、コブミカンの葉を和えてあり、レモンバジルとコブミカンが爽やかなアクセントになっている。

「ビーフ・ラープ」。ハチノス(牛の第2胃)のフライを添えており、生肉と合わせて食べることで食感の違いも楽しめる

 イサーン料理の特徴的なメニューを高級感あるメニューに変え、提供していることが評価され、ミシュランガイドでビブグルマンを獲得。現地の富裕層を中心に、予約が絶えない店になっている。

マハセット(100 Mahaseth)
100 Mahaseth Road, Si Phraya, Bang Rak, Bangkok
https://www.100mahaseth.com/

取材・文/梅本昌男(海外書き人クラブ)
※通貨レート 1バーツ=約3.44円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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