2023/02/17 特集

外食トレンドキーワード2023(2)~酒場案内人 塩見なゆ氏~

2022年を振り返りつつ、2023年の外食トレンドを読み解いていく全3回の企画。第2回は、飲食系のWebメディア「Syupo」を運営し、全国各地の酒場を取材する酒場案内人の塩見なゆ氏が登場。

URLコピー

目次
40~50代が酒場の主役に戻り、“情緒的な居酒屋”への支持が集まりそう
2022年で気になったトレンドは「飲める食堂」「オープンキッチン」
2023年注目のトレンドは「屋内型横丁」「情緒的な酒場」「日本酒」

40~50代が酒場の主役に戻り、“情緒的な居酒屋”への支持が集まりそう

 2022年を振り返りつつ、2023年の外食トレンドを読み解いていく全3回の企画。第2回は、飲食系のWebメディア「Syupo」を運営し、全国各地の酒場を取材している酒場案内人(飲食・酒類専門ライター)の塩見なゆ氏が登場。

 2022年は“アルコールが飲める食堂”やオープンキッチンを持つ飲食店などに人気が集まったと指摘。2023年は「屋内型横丁」「情緒的な酒場」「日本酒」に注目しているという。

【こちらもチェック!】
外食トレンドキーワード2023(1)~「フードスタジアム」編集長 大関まなみ氏~
外食トレンドキーワード2023(3)~フードアクティビスト・松浦達也氏~

酒場案内人(飲食・酒類専門ライター) 塩見なゆ氏
東京都杉並区・荻窪生まれ。新宿ゴールデン街に通ったという酒好きの両親を持ち、JR中央線沿線の飲食店に興味を持ち始める。大手メーカーの企画部門に勤務後、PR会社、飲食事業会社での広報や宣伝に従事。2016年からフリーランスとなり、趣味から始まった酒場巡りが仕事になっていく。飲食店情報系のWebメディア「Syupo」を運営。

2022年で気になったトレンドは「飲める食堂」「オープンキッチン」

居酒屋から“飲める食堂”への業態変換

 コロナ禍で打撃を受けたのが、飲酒を前提にした大衆酒場で、特に宴会需要が多い大箱の店舗は厳しい状況が続いています。そんな中、既存の居酒屋に食堂の要素を融合させた“お酒が飲める食堂”に業態変換する店が増えています。

 大手の飲食企業では、「旬鮮酒場天狗」「炭火串焼テング酒場」などを展開するテンアライド株式会社が2021年に出店した大衆食堂「てんぐ大ホール」(千葉・船橋など)が好調で、2022年も着実に店舗を増やしました。また、「庄や」などを展開する株式会社大庄が2021年に出店した「定食のまる大」も順調。既存店からの業態変換も進めています。

株式会社大庄が2021年に出店した「定食のまる大」。 店内で調理人が手作りする新鮮な魚料理や、時代とともに少なくなった町洋食や近年盛り上がりを見せる町中華など「大衆の味」を高いコストパフォーマンスで提供する

 既存の居酒屋メニューに、ご飯やみそ汁を付けて定食にしたり、グループでもともと使っていた食材を生かして大衆食堂の定番メニューを開発しているのが特徴。「定食のまる大」では、ソフトクリームの食べ放題が大人、子ども問わずに大人気。近年、ファミリーレストランがアルコールを強化してきましたが、2022年は逆に居酒屋のファミレス化が進んだ印象です。大人も子ども楽しめる“飲める食堂”が増えたことで、「苦境にあえぐ居酒屋の逆襲が始まった」と感じました。

台湾・韓国料理店の増加

 また、台湾棒焼餃子を売りにする「台北餃子 次々(チィチィ)」(東京・新宿など、株式会社オペレーションファクトリー)といった、台湾・韓国料理店の増加も印象に残りました。女性向けに振り切ったデザイン、メニュー、盛り付けが最大の特徴で、コロナ禍で気軽に海外旅行ができないので、食を通じて海外を身近に感じられる点も支持されている理由の一つでしょう。

オープンキッチンを持つ店舗

 さらに、オープンキッチンを持つ店もここ数年のトレンド。客席から調理の様子が見られて、手作り感、できたて感が伝わることが、外食ならではの特別感の演出に一役買っています。例えば、立ち飲み業態の「晩杯屋」(東京・武蔵小山など、株式会社トリドールホールディングス)です。「晩杯屋」は、もともと市場で遅い時間に安く仕入れた魚をセントラルキッチンでさばき、低価格で提供していましたが、今は、各店舗に配送してオープンキッチンでさばいています。数がそろわないので売れなかった魚も活用することで低価格を維持。目の前でさばくことが付加価値になり、新鮮な刺身がリーズナブルに楽しめることが集客につながっている要因だと思います。

2023年注目のトレンドは「屋内型横丁」「情緒的な酒場」「日本酒」

複数の企業が出資した「屋内型横丁」

 2023年の注目トレンドの一つは、倉庫のような建物の中に、異なる企業の、ややとがった業態の店舗が集積する屋内型の横丁です。今、駅近などの小箱の物件は埋まっていますが、少し駅から離れている場所に大きな物件が空いていて、複数の企業が資金を出し合って出店するケースが増えているのです。

 2021年に立川駅近くの屋台村跡地にオープンした「GALERA Foodmarket TACHIKAWA」(株式会社ミートコンパニオン)などがその一例。直近では、2023年1月に、神奈川・本厚木駅前の大型飲食店の跡地を活用した「本厚木南口一番街」(株式会社奴ダイニング)がオープンしました。

株式会社奴ダイニングが2023年1月に出店した「本厚木南口一番街」。複数の飲食企業が計7店舗を出店しており、業態も「餃子」「藁焼き」「タイ屋台酒場」「串揚げ」「韓国酒場」などさまざま。酒場らしいにぎわいと、専門性の高い店舗のこだわりのメニューが楽しめる

 複数の企業が資金を出し合うことでコストやリスクを分散でき、個性ある店が集まることによる総合力で集客が期待できるため、個人店の新たなビジネスチャンスになると思います。消費者にとっても個性的な店が集まっていて、屋内ではしごできるのは魅力的だと思いますし、今後も増えていくのではと注目しています。

人のぬくもりや居心地の良さを感じさせる情緒的な酒場

 もう一つの注目は、「情緒的な酒場」です。2022年はZ世代やミレニアル世代が飲食業界の主役でしたが、2023年は、もともと酒場のメインの客層だった40~50代も戻ってくると見ています。40~50代の人たちは、コロナ禍をきっかけに以前よりSNSを上手に活用できるようになり、しっかり情報を収集して店を選ぶようになりました。その結果、コンセプトがしっかりした店が選ばれる傾向にあると見ています。そこで人気を集めそうなのが、ほどよい距離感での接客と、しっかりと手作りで提供するこだわりの料理を売りにした店。インスタ映えのような若い人に受ける要素はありませんが、“人の温かみや居心地の良さ”といった情緒を感じる酒場です。

 JR博多駅などに店舗を展開する「立ち呑み酒場よかたい」(株式会社快適空間創造研究所)は、その象徴的な居酒屋。ほどよい距離感の接客が居心地の良く、女性が一人でも気軽に楽しめる空気感が好調の要因だと思います。「鰯明太子」「手羽先唐揚げ」「おでん」などの福岡の味も楽しむことができ、地元客だけでなく、出張帰りの一杯を楽しむ人などでにぎわい、1日10回転する日もあるとのことです。

株式会社快適空間創造研究所が運営する「立ち呑み酒場よかたい」。定番の居酒屋メニューに福岡ならではの名物をこだわりの手作りで提供。接客は親しみやすくて近すぎない、ほどよい距離感が居心地の良さを生んでいる

 同じく、魅力的な店づくりをしていると感じるのが、「居酒屋 初場所」(東京・中目黒、有限会社近藤商会)です。内装はシンプルで、メニューは「刺身」「ポテトサラダ」「牛煮込み」など居酒屋の定番ですが、一品一品こだわって作っているのが分かります。

ビールや日本酒など、アルコールの提供方法にこだわる店舗

 このほか、ドリンクでは、生ビールの注ぎ方にこだわる店に注目しています。縦型ハンドルの一般的なタップだけでなく、昭和初期に使われていた「スイングカラン」という、ハンドルを回すタップを備え、注ぎ方によって異なる泡立ちや味わいで差別化を図る店がいくつか出てきています。JR東京駅構内にある「DPOT(デポ)」がその一つ。レトロで珍しい「スイングカラン」を使って、きめの細かい泡を実現して人気を集めています。

 加えて、アルコールでは、日本酒の純米酒や本醸造酒の提案、提供方法にこだわる店が存在感を放っているように感じます。蔵元も個性ある日本酒を作っていて、それを売る飲食店は、味わいだけでなく、産地・原材料・作り手の思いなどのストーリーを来店客に伝えることでファンを増やしています。「居酒屋けやき」(東京・小岩)もその一つで、全国の日本酒30種以上をそろえ、来店客一人ひとりに合ったお酒を丁寧に提案してくれるので、日本酒に詳しくない人が一人で行っても安心して楽しめます。

 また、日本酒を樽生サーバーで提供する店もこれから増えるかもしれません。窒素充填式なので酸化せず、いつでも絞りたての原酒の味わいを楽しめます。扱っている店はまだ少なく、北海道・旭川の酒販店の中にある「和酒角打 うえ田舎(うえだや)」がその一つです。

 フードメニューとしてポテンシャルを感じるのは、「おでん」です。「大衆スタンド ニュー神田屋」(東京・渋谷、株式会社テンアライド)は、定番のものから「カマンベール巾着」「アボカドバター」などの創作系の洋風おでんが楽しめます。昔からの居酒屋メニューの定番ですが、アレンジしやすく、SNS映えの要素も加えられます。「おでん」に注目しているもう一つの理由は、コロナ禍に入ってから、コンビニ各社が衛生面を考慮しておでんを販売する店舗を減らしているから。これまで気軽に持ち帰りできていたおでんがコンビニから消えつつある今、飲食店にニーズ獲得のチャンスが出てくるかもしれないと考えています。

 全国の大衆酒場を回っていると、厳しい状況の中でもしっかりお客さんを集めている店があり、そこには確かな“商品の魅力”と“働く人の魅力”があると感じます。2023年は、そういった大衆酒場の原点が見直される年になるのではと期待しています。

繁盛店づくりのサポートは「ぐるなび」におまかせください!

「ぐるなび通信」の記事を読んでいただき、ありがとうございます。

「ぐるなび」の掲載は無料で始められ、集客・リピート促進はもちろん、予約管理や顧客管理、エリアの情報提供、仕入れについてなど、飲食店のあらゆる課題解決をサポートしています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

▼詳細はこちら
0円から始める集客アップ。ぐるなび掲載・ネット予約【ぐるなび掲載のご案内】