2023/02/21 特集

外食トレンドキーワード2023(3)~フードアクティビスト・松浦達也氏~

2022年を振り返りつつ、2023年の外食トレンドを読み解いていく全3回の企画。第3回は、 調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、さまざまなメディアで活躍するフードアクティビスト・松浦達也氏が登場。

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目次
アジア圏の民族料理店がブームの兆し! 飲食店+他業態の連携にも注目
コロナ禍を背景に、「〆の麺メニューを出す居酒屋」が増え、「飲食店のラボ化」も進む
2023年は、ガチ中華がディープ化し、低アルコールのニーズも増える!?

アジア圏の民族料理店がブームの兆し! 飲食店+他業態の連携にも注目

 2022年を振り返りつつ、2023年の外食トレンドを読み解いていく全3回の企画。第3回は、 調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、さまざまなメディアで活躍するフードアクティビスト・松浦達也氏が登場。

 2022年は、〆の麺メニューを提供する居酒屋が増え、飲食店が企業から依頼を受けてメニュー開発を行うラボとして店を使うといった取り組みが進んだという松浦氏。2023年は、「ガチ中華のディープ化」「境目業態」などに注目しているという。

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フードアクティビスト 松浦達也氏
東京都武蔵野市生まれ。 調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、料理誌・一般誌・新聞・書籍・Webまで幅広く執筆・編集を手掛ける。有限会社馬場企画の代表取締役。テレビ・ラジオでは食トレンドの解説なども行う。著書に『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社〉、『大人の肉ドリル』、『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか、共著の『東京最高のレストラン』(ぴあ)の選考員も務め、「マンガ大賞」の選考員でもある。

コロナ禍を背景に、「〆の麺メニューを出す居酒屋」が増え、「飲食店のラボ化」も進む

ガチ中華

 2022年の外食業界では、「ガチ中華」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、中国東北地方の家庭料理を20年以上前から提供してきた「味坊」(東京・神田など、株式会社味坊集団)の梁宝璋(りょうほうしょう)さんが「外食アワード」を受賞するなど、話題になりました。

 「ガチ中華」が流行った背景は、中国人コミュニティの形成にあります。埼玉県川口市など、老朽化した郊外の団地の空室に2000年代頃から中国人の住人が目立ち始めました。その後、西川口で中国人が近隣に住まう中国人向けに本場の料理を提供する店を次々と出店したのがブームの発端でした。さらに2010年代半ばからは池袋に中国の外食チェーン大手が進出し、元から外国人コミュティがあり、留学生も多い高田馬場・大久保エリアも含めた大きなうねりが起こります。そこに、「味坊」のように本場の味を日本人向けにうまくチューニングしながら人気を集めてきた店のファン層が噛み合って、“ガチの本場の味”を日本人が受け入れる素地ができてきたのだと思います。加えて、「店員があまり日本語を話せない」「メニューがすべて中国語」といった異国情緒あふれる雰囲気が、コロナ禍で海外に行けない日本人にエンタメとして受けたのかもしれません。

おにぎりがブレイク

 一方で、日本のソウルフード“おにぎり”もブレイクしました。その着火点となったのは創業60年以上というおにぎりの老舗「ぼんご」(東京・大塚)。イートインのカウンター席があり、具材を50種類以上の中から選べ、目の前でおにぎりを握ってくれる人気店ですが、この1~2年で動画系のSNSで話題となり、2022年の移転時には最長4時間以上も待つ大行列になりました。若者を中心に心をつかんだのは、“目の前で人が握った温かいおにぎりを食べられる”という経験が、目新しかったからかもしれません。また、小田急線沿線にある株式会社小田急レストランシステムの「おだむすび」(東京・新宿など)など、おにぎり専門店は軒並み好調で店舗数を増やしています。

株式会社小田急レストランシステムが新宿駅などに出店している「おだむすび」(東京・新宿など)。米は宮城県登米市産「ひとめぼれ」、のりは瀬戸内の淡路島に臨む播磨灘で生産された上質なのりを使用。季節の具材にもこだわっている

〆の麺×日本酒

 居酒屋業界では、コロナ禍で夜が早くなったことから、短い滞在時間でお酒と食事の両方で満足してもらおうと“〆の麺”を出す店が増えました。特に日本酒とともにラーメンを楽しんでもらおうという趣向の店も増えています。豊富な日本酒を取りそろえるラーメン店「麺酒論嚆矢(めんしゅろんこうし)」(東京・駒場東大前)や、器販売のかたわら日本酒や自家製麺のラーメンを提供している「酒 てち庵」(東京・西池袋)など日本酒にラーメンを組み合わせる業態の店舗が人気です。ラーメンにビールだとお腹がすぐに膨れてしまいますが、日本酒なら、ラーメンとともにちびちびと楽しめるところが良いのかもしれません。また、多様な酒類を扱う「ニューヨック中野」(東京・中野)は、日本酒にも力を入れつつ、兵庫の製麺所から取り寄せたこだわりの焼きそばを〆に提供しています。

東京・中野に2018年にオープンした居酒屋「ニューヨック中野」。オリジナルの鉄板料理と“初心者でも楽しく日本酒を飲める”をテーマにしており、 名物の「お刺身盛り合わせ」「親子巻き」や〆の焼きそばなどを提供。日本酒のテイストを芸能人に例えて紹介するなど、詳しくない人でも気軽にオーダーできるスタイルが好評

 また、ここ数年は寿司と焼き鳥に勢いがあり、高級業態が人気です。そんな中で、1人あたり3~5万円の高級店のセカンドライン業態として若手職人が握る1人あたり1万円前後の“ちょい高級寿司”の店が増えています。高級店とそん色ない素材を使っていて、しっかりおいしく、ユニークな巻物も提供しています。予約も比較的取りやすいことから、人気に火が付きました。「EDOMAE SS」(東京・新宿、有限会社 築地青空)や「ブルペン」(東京・荏原中延、株式会社ショートストップ)、豊洲市場水産仲卸直営の「三六五」(東京・末広町)などが代表例です。

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飲食店のラボ化

 さらに、コロナ禍を背景に“飲食店のラボ化”が進み、1つの場所で複数の業務をこなす店舗の形態が増えてきました。「Ri.carica(リ・カーリカ) ランド」(東京・学芸大学、株式会社タバッキ)は、飲食店・ショップ・自社オフィス・ラボという4つの役割を1カ所に集約した店舗で、日中はワインや冷凍パスタなどを販売するショップ、夜には飲食店をオープンし、ラボでは企業の依頼を受けてメニュー開発を随時行うなど、イートインの営業ができなくても売上を創出できるビジネスモデルを確立しています。

 近年は飲食業界の人材不足が問題になっていますが、このようなラボ化を進めることが解決策になるかもしれません。コロナ禍のような不測の事態でイートインの営業ができなくなっても、ショップやラボなどに人員を投入して、そちらで売上を生んでいければ、強靭な店舗運営が可能になるからです。

店内のエリア分けによる集客

 2022年は1つの店舗内を“エリア分け”する店も目立ちました。例えば店の奥には予約客用のテーブルカウンターが据え付けられていて、入り口近くは当日飛び込みでも入れるスタンドがあるレイアウトで、「EUREKA!(ユリーカ)」(東京・西麻布)や「角打ち割烹三才」(東京・中野、株式会社青二才)などがそのタイプです。

2021年に東京・中野にオープンした「角打ち割烹三才」。フリー客が入りやすいカウンター席と、奥にゆっくりくつろげるテーブル席を備える。角打ちの気軽さで割烹料理や日替り40種の日本酒が楽しめる

 繁盛店になるほど予約客で常にいっぱいで新規客を取り込めないジレンマが生まれます。しかし、入り口付近にふらっとお試しで入れる空間を作っておくことで、常連の予約客を大切にしつつ、フリーの新規客に店の良さを知ってもらえるメリットがあります。

2023年は、ガチ中華がディープ化し、低アルコールのニーズも増える!?

「ガチ中華」から「アジア圏のディープな民族料理」へ

 2022年に「ガチ中華」が話題を集めましたが、個人的にはまだブームの入り口で、2023年はもっとディープになっていくと予想しています。東京・高田馬場に新規オープン(2023年2月現在)した、中国・広州の伝統料理「毋米粥(モウマイゾォ)」の店もその一つ。毋米粥とは、ポタージュ状のおかゆにアサリや串に刺した車エビなどの海鮮や牛肉、野菜などをしゃぶしゃぶのように浸して食べ、最後にだしがたっぷり出たおかゆをいただく料理です。私は20年ほど前に広州を訪れたときに、毋米粥を食べて「おかゆ鍋がこんなにおいしいとは!」と感動しましたが、これまでほとんど日本では知られていませんでした。

 こうしたアジア圏のディープなエリアの伝統料理の専門店が、2023年はますます注目を集めそうだと感じています。ここ2、3年、都内ではウズベキスタンや新疆ウイグル自治区など中央アジアの料理店も次々とオープンしていますし、東京・神楽坂では、内モンゴル自治区の料理専門店「草原の料理 スヨリト」がプレオープン中(2023年2月現在)です。こうしたアジア圏に深く分け入った民族料理の専門店が増えて、ブームになる気配を感じています。

カルダモンロール

 このほか、ここ数年のスパイス&ハーブブームに後押しされて、北欧発祥の“カルダモンロール”がヒットする予感があります。シナモンロールのカルダモン版で、製造・販売している店はまだ大都市圏に集中していますが、「breadworks」(東京・天王洲など、株式会社タイソンズアンドカンパニー)や「Cafe Bibliotic Hello!」(京都・丸太町)など、提供する店が徐々に増えていました。カルダモンはスパイスカレーやチャイのブームの流れで一般にもなじみのあるスパイスになり、認知が拡大してきていることがその理由です。

東京・天王洲や品川などに店舗を構える「breadworks」では、「カルダモンロール」(写真)を提供。グアテマラ産有機カルダモン、北海道産発酵バターなどこだわりの材料を使用し、表面はカリッと中はしっとりしたデニッシュのような生地で、バターとカルダモンの風味を楽しめる

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境目(さかいめ)業態

 業態では、いわゆる“境目(さかいめ)業態”に注目です。例えば酒店が店の一角に角打ち(有料試飲コーナー)を作ったり、お酒のキュレーション(情報を整理・編集して価値を作って提供すること)ができる酒店も増えてきました。同じ文脈で、近所の酒店や鮮魚店と連携する飲食店もどんどん増えてきています。他業態同士で組むことで、業態の垣根がだんだん薄れてきているのもここ数年の傾向です。

 “垣根が薄れる”といえば、飲食店同士で連携する事例も増えています。東京・浅草橋に、ワイン好きのマスターがいる「水新菜館」という人気中国料理店があります。マスターの息子さんが中華店の隣にオープンしたのがワインバー「水新はなれ 紅」。息子さんは高級フレンチでソムリエを10年にわたって務められての帰還です。ワインバーでは「水新菜館」の全メニューを出前でき、逆に「水新菜館」でもワインをオーダーできるというユニークなサービスを行っています。先ほどの“ラボ化”も含めて、2023年はますますこうした業態の融合や連携が進むのではないかと見ています。

東京・浅草橋の町中華の名店「水新菜館」の隣に2018年オープンした「水新はなれ 紅」。オーナーソムリエの寺田泰行氏は、「水新菜館」のオーナー・寺田規行氏の息子で、両店舗はそれぞれの料理やワインをオーダーできるシステムになっている

多様な飲み方への対応

 また、2023年以降の業界の流れとして、“短い時間で楽しんでもらう”ことに注力する飲食店が増えています。昔であれば3~4時間かけて店でゆっくり楽しむ価値観が当たり前の時代でした。しかしコロナ禍のこの3年間で「遅くまで飲むのは疲れる」「だらだら飲むより1軒で済ませたい」といった新しい価値観に気づいた人も大勢います。先述の「ニューヨック中野」は、〆に無料で味噌汁が提供されたり、店の近くに銭湯があるからか帰りがけに入浴剤を渡してくれたりと、短い時間でも徹底的にお客さんを楽しませたいという思いがあふれていて、地元民中心に絶大な支持を得ています。

 同様に、「たくさん飲んで、酔えば酔うほど良い」という価値観から、「次の日に残らない程度に、ほどほどに飲みたい」「自分のペースで好きなように飲みたい」という人が増えて、お酒の飲み方が多様化してきました。最近では低アルコールのニーズが高く、ビールやワインに氷を入れて飲みやすくする人も増えましたし、にごり酒をソーダ割にする飲み方も流行しています。自分の好きな濃度でハイボールやレモンサワーを作る形式も人気になっていますし、アルコール度数をカスタマイズするニーズは、2023年の主流になりそうです。

 外食のトレンドは突然降って湧いたように業態や料理が流行ることはほぼありません。30年以上前からブームと衰退と上書きを繰り返して定着に至ったタピオカなどは象徴的ですが、何年も前から徐々に浸透してきたものが何かをきっかけに花開くことが多いです。「ガチ中華のディープ化」や「境目業態」「飲食店のラボ化」「日本酒×〆麺」など、さまざまなトレンドが、2023年にどんな展開・波及を見せていくか、楽しみに注目していきたいです。

教養としての「焼肉」大全
松浦達也(著)

さまざまなメディアで焼肉の焼き方を検証してきた著者が、焼肉の歴史、いい肉・いい店の見分け方、焼き方の極意、ビジネスシーンでの所作……などを深掘り解説。いまや日本の国民食となった、その究極の味わい方を完全網羅。

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