2024/02/20 特集

2024年 若い世代の外食トレンドキーワードを、Z世代の企画屋・今瀧健登氏が解読

2023年を振り返りつつ、2024年の外食トレンドを読み解く企画。これからの時代をけん引する若者たちは外食に何を求めるのかを、秀逸な「Z世代の企画屋」としてマーケティング・企画UX部門で注目を集めている、僕と私と株式会社の今瀧健登氏にインタビュー。若者たちが共感する外食トレンドについて話を聞いた。

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Z世代の集客ポイントは、動画映えと非日常の体験

1990年代後盤から2010年序盤に生まれた世代を指す「Z世代」。デジタルネイティブとも言われる彼らは、普段から多くの情報に囲まれ、それらを取捨選択して過ごしている。

食の分野においても、2023年はSNS上から火が付き、体験をコンセプトにした飲食店が全国的な話題となった。若い世代を集客するためには、おいしさだけではなく「ここに行きたい」と思わせる工夫と、ソーシャルメディアを活用した情報の提供が必要だと語る、今注目の”Z世代の企画屋”僕と私と株式会社・代表取締役の今瀧健登氏に語っていただいた。

各世代の一般的な定義(年齢の明確な区切りは無く、諸説あり)
僕と私と株式会社 代表取締役 今瀧健登(いまたきけんと)氏
SNSネイティブ世代(Z世代)への企画・デジタルマーケティングを専門とするZ世代の企画屋。ハッピーな共感をフックに購買行動に繋げる「エモマーケティング」を提唱し、プロデュースしたデジタルデトックスカフェやプロモーションは多くのZ世代の支持を集めている。
X(旧Twitter):@k_hanarida

目次
おいしいものに囲まれて育ってきたからこそ、その次にある価値を求める
まずいものを経験せずに生きてきた
食べている前後の時間も食体験
流行した店は、”非日常な体験”がカギ
友達がやっているカフェ、接客態度がの悪さを体験できる店
お店選びは、複数の媒体を周遊して複合的に判断する
お店のインスタグラムの有無は重要な選択肢
さまざまな媒体に適切な情報を記載するのことが不可欠
ロケーションが悪くても行きたい情報があれば食べに行く
食べたことのない、経験したことのない体験を求める

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おいしいものに囲まれて育ってきたからこそ、その次にある価値を求める

――Z世代特有の「食に対する考え方」は、ありますか?

まず、これまで「まずいものを経験せずに、おいしいものの中で育ってきた」のがZ世代と言えます。分かりやすい例で言うと「冷凍食品」や「コンビニ飯」ですね。8年程前の2015年あたりからでしょうか、技術的な革新が起きたことにより「〇〇の冷凍食品(コンビニのご飯)はおいしい」と言われるようになったと思います。

加えて、食品の特徴や魅力についてのレビュー(口コミ・批評)が可視化される世の中になったことも、おいしくない食べ物の淘汰を加速させる一因になったのではと感じています。それまでは、自分が食べたことがない商品の味は知りえなかったものが、複数の食べた感想をネットを通して確認できるようになりました。こうしたレビューによって商品の生き残りをかけた戦いが激しくなり、めちゃくちゃまずい商品は売れないので、市場に出回らなくなってきたといえます。

このように僕らZ世代は良くも悪くもすごくまずいものを経験せずに、おいしいものを食べて育ってきたわけです。

――Z世代は外食にどんなことを求めるのでしょう?

無いものねだりなので、人間って。おいしいことが当たり前なので「おいしさの次にある価値」を求めてしまうというのが、他の世代よりも強いのではないかなと思います。

「おいしさの次にある価値」として一つ挙げられるのは、食べている間だけではなくて、食べる前や食べた後の体験です。例えば、YouTubeではたくさん食べる姿を映す「モッパン」系動画や、食事の音を聞かせる「ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)」というがはやっていますが、どこかのお店に行って自分が食べるというジャストタイムの価値以外にも、訪ねる前に見る疑似体験と訪ねた後に見る追体験という、その前後を含めた時間を楽しんでいるのも、Z世代の特徴です。

情報という意味ではテレビのグルメ番組がありますが、これはどちらかというと不特定多数の人を対象とした一過性のもの。一方YouTubeでは、一度「デートにオススメのお店」で検索するとデートに関する情報が次々と流れてくるように、パーソナライズ化されて自分に合った情報が流れてくるアルゴリズムになっています。そんな情報に囲まれているZ世代だからこそ、情報をうのみにするのではなく、”自分にとって適しているかどうかを精査する”という考え方は、特徴の一つかなと思いますね。

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ここでしかできない非日常な体験が店選びのカギに

――Z世代の間で話題の飲食店を教えてください。

いろんなメディアで取り上げられていますが、2023年は原宿にある「友達がやってるカフェ/バー」がダントツで伸びたトレンドだと思います。スタッフがまるで自分の友達かのようにタメ語で話してきたりだとか、例えば「いつものアレ」のように、初めてなのに常連客のような注文に応えてくれたりします。

友達がやってるカフェ/バー」(東京・原宿)2023年4月オープン

流行した理由は二つ。一つはメニュー以外の価値が際立っている点です。この「友達のような接客」を成立させる上で、原宿に出店したというのもポイント。若者が集まる観光エリアであれば、リピート想定ではなく体験価値に重きを置いた設計ができますね。

二つ目は、Z世代のインサイト(購買意欲の核心やツボ)をすごく刺激している点です。若者ですから、まだ常連として通うようなお店を持っていないので、お店の人と友達のような関係になる、という経験はありません。「友達がやってるカフェ/バー」に行くとちょっとその気分を味わえる、という点がウケたのかなと思います。

もう1つ流行したのは名古屋市中区にオープンした「the LAZY HOUSE」です。昼間は普通のカフェが、夜になると“日本一接客態度の悪い店”に変貌するレストランで、店員を呼んでも全然テーブルに来てくれなかったりする態度の悪さが話題となりました。

the LAZY HOUSE」(名古屋・中川区)2023年7月オープン

店員の態度がいいのは当たり前の世の中で、その真逆を行く体験ができるというところが新鮮に映ったのではないかと考えます。

少し前に「インスタ映え」という言葉がはやりましたが、例に挙げた2店はどちらも「動画映え」するお店。これからは写真だけでなく、動画だからこそ伝わりやすい演出も、重要な指標の一つになりそうです。2024年はより一層TikTokやインスタのストーリーズなどで「動画映え」するお店が増えていくんじゃないかと予想しています。

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複数の媒体を周遊して複合的に判断する

――飲食店を探す時は、何を見て調べる傾向がありますか?

飲食店を探す時に他の世代と大きく違う点は、複数の媒体から情報を集め、情報を精査して、複合的な観点から判断していることです。まず情報収集の方法としてはSNSがありますが、どれか一つだけの媒体を見るのではなく、”SNS上で周遊する”のが特徴です。

例えば、恵比寿でご飯を食べる場合、まず始めに“恵比寿 ディナー”で、TikTokで検索。TikTokでは検索して上位に出てくるものは、みんなが“いいね”をしてコメントをしているものなので、基本的に外れがありません。

次にInstagramを「チェックとストック」のために活用します。TikTokでの検索で出てきたお店の中から、各店のInstagramに飛び、お店の雰囲気やタグ付けからどういう人が来ているのかをチェックします。ですから、もしお店がInstagramのアカウントを持っていないと選択肢から外してしまうので、アカウントを持っていることは重要ですね。

さらに、Instagramのハイライトでお店のこだわりポイントがあると、より良いです。Z世代は、クラウドファンディング(2011年頃)やふるさと納税(2008年~)などが出てきて、商品を提供する側の背景を知る機会が増えた時期に育っています。ですからハイライトの中に例えば「生産者の思い」とか「こだわり」を確認できると、Z世代は来店動機を刺激されるはずです。

――なるほど、複数の媒体を見て総合評価でお店を選ぶのですね。

はい。また僕たちの世代は、「デートにオススメな〇〇選」というようなインフルエンサーが発信している情報を、常にストックしておく文化もあります。お店選びは、既存の飲食店情報サイトよりも、それらのストックから先に優先して探す傾向に。ですからストックに入っているかどうかがお店選びに大きく影響しますね。

飲食店がTikTokや、Instagram、Googleマップなどいろんな媒体を活用すること、そして動画やお店の雰囲気やお店のこだわりといったそれぞれの情報をきちんと適切に記載していくことは、若い世代を取り込みたい飲食店にとって不可欠だと思います。

出典元「僕と私と調べ」より(2023年12月実施)。全国のZ世代(15~27歳)男女1,154人にアンケート。SNSで情報収集する上位に「食品」「飲食」があり、複数の媒体を活用していることが読み取れる

――若い世代をよく見かけるエリア、気になるエリアなどはありますか?

東京ですとやはり今も原宿、渋谷は多いですね。最近面白いと注目しているのは下北沢です。

場所でいうと、SNSを通じて店選びをすることから、飲食店としてはロケーションが悪くても戦える世の中になったのではないかと感じています。今までですと路面店ではないからフラッと入るということが難しかったと思いますが、SNS上で獲得した情報をもとに、その店を目的に行くことになりますから。工夫の仕方、見せ方次第で、ロケーションもアドバンテージになるかもしれません。

――食の好みについてはどう感じますか?

嗜好(しこう)は、世代によってそんなに違いはないと思いますね。若者のアルコール離れなども言われていますが、飲む人は本当に飲むので。多様性を認める風潮の中で好きと嫌いは明確に起きている、とは感じます。

当たり前が崩れるみたいなところでいうと、Z世代の中で20歳を超えた人たちの門出の春は、ちょうどコロナ禍の緊急事態宣言が出たタイミングでした。普通なら行われるはずの歓送迎会や合コンなどを全然やっていないので、「とりあえずビール」のような宴会の文化を先輩や上司から受け継いでいない人が多いと思います。

僕らZ世代は、まだ若いので食べたことのないものも多いです。これから、食べたことのない食材や料理を食べてみる、経験していないことをしてみるというフェーズだと思います。飲食店の方々には今回Z世代のマインドやお店の探し方などを知っていただき、若い世代が「行ってみたい」「体験したい」と思うようなお店を開発していただけたら、Z世代の一人としてとてもうれしいです。

取材協力
僕と私と株式会社 代表取締役:今瀧 健登
東京都渋谷区円山町5-5 Navi渋谷V 3階
事業内容:Z世代に関する企画・マーケティング事業、ブランド事業
https://boku-to-watashi-and.com

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