2024/10/29 特集

飲食店のための“最新ワイントレンド”~「ワイン王国」編集長 村田 惠子 氏インタビュー

国内外問わず、日々進化を続けるワイン業界。飲食店が知っておきたいワインの最新トレンドを雑誌「ワイン王国」編集長の村田 惠子 氏に聞き、注目の産地や銘柄、ワインの提供に優れた飲食店などについて伺った。

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泡人気は継続!ナチュラルワインは定着し、ノンアルワインも本格的な味わいに進化

「ワイン王国」編集長の村田 惠子 氏に、
①最新のワイントレンド
②ワインの提供に優れた飲食店
③ワインを楽しんでもらうために飲食業界に期待すること
をインタビュー。

毎年、世界のさまざまなワイン産地を訪れ、ワイン生産者やワイン協会関係者、ワインジャーナリストと交流をはかり、研鑽を重ねている村田氏に、「今、飲食店に伝えたいワインの最新事情」を語ってもらった。

「ワイン王国」取締役編集長 村田 惠子 氏
1986年からワインのインポーターに勤務する傍ら、ワイン関連の記事を執筆。その後、ワインコーディネーター、ワインエデュケーターとしてジャーナリスト活動をスタート。ワインやホテル・レストラン専門誌をはじめ、一般誌、書籍のワイン関連企画・編集・執筆を行う。2000年から、『ワイン王国』にフリージャーナリストとして携わり、2004年に編集長、2005年取締役編集長に就任。2013年より、ホテルオークラワインアカデミーの「テイスティングクラス」担当講師。フランス政府農事功労章シュヴァリエ受章

目次
近年のワインのトレンドは?
 └世界的にトレンドが多極化
 └シャンパーニュをはじめとする「泡」が依然人気!
 └「ノンアル」「低アル」のクオリティーがアップ
 └「ナチュール」「オレンジ」も人気が定着
ワインのトレンドをけん引する飲食店は?
 └「The Rendez-Vous AWA(ランデブーアワ)」(東京・内幸町)
 └「VS(ブイエス)」(東京・渋谷)
 └「LOW-NON-BAR (ローノンバー)」(東京・淡路町)
 └試飲&バー使いができるワインショップに注目
ワインを提供する飲食店に期待することは
 └バイザグラスで楽しめる店が増えてほしい
 └ロス対策にはサーバー導入がおすすめ
 └お店に赤白1本ずつ置くなら…

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近年のワインのトレンドは?

世界的にトレンドが多極化

以前は価格帯や味わいなどではっきりとしたワインのムーブメントがありましたが、近年は生産地も含めて多彩なワインが登場し、トレンドも多極化していると言えます。最近、私たちが注目しているのはイギリスとモルドバのスパークリングワイン、そして日本のワインです。

日本でワインの産地というとまず思い浮かぶのは山梨だと思いますが、今は全国各地で生産されていて、特に長野や北海道のほか、九州地方のワインも素晴らしい。ただおいしいだけでなく、その土地の個性、いわゆるテロワールを反映した造りが明確になってきていると思います。日本は国土が狭いですが、地方によって気候風土が異なりますよね。それぞれどういったブドウ品種が合うのかをしっかりと見極め、研究してきた成果が出てきています。

例えば、九州のワイナリーなら、大分の「安心院(あじむ)葡萄酒工房」「久住(くじゅう)ワイナリー」、熊本の「熊本ワインファーム」、宮崎の「都農(つの)ワイン」。九州は温暖なイメージがありますが、標高が高いところでブドウを栽培しているので昼夜の気温差が大きく、ワイン用のブドウには理想的な環境なんです。また、長野はシャトー・メルシャンが運営する上田「椀子(まりこ)ワイナリー」の、涼しい気候を生かしたシラーがおすすめ。ほかにも小諸「マンズワイン」のソーヴィニヨン・ブランやカベルネ・ソーヴィニヨンなど、以前より品質が向上したさまざまなワインが日本で造られるようになりました。

また近年は、中国のワインも品質が上がってきています。潤沢な土地と資金をもとにボルドーを目指して造られてきたのですが、今ではボルドーのシャトーワインのようなコク豊かで複雑味のあるワインが出てきていますし、カベルネ・ソーヴィニヨンだけでなくシラーやシャルドネなどほかの品種でもおいしいワインが生まれています。

シャンパーニュをはじめとする「泡」が依然人気!

トレンドは多極化していますが、シャンパーニュなどの「泡」は世界的に根強い人気です。乾杯にふさわしいお酒なので、飲んでいると幸せな気持ちになりますし高揚感があります。ラグジュアリーなシャンパーニュだけでなく、ほかの産地でも高い品質のスパークリングワインが誕生していることも泡人気の要因の一つだと思います。

イタリアのフランチャコルタやスペインのコルピナットなどが人気ですね。また先ほども挙げたイギリス産やモルドバ産も注目ですし、「安心院葡萄酒工房」(大分)のスパークリングワインは日本ワインコンクールで部門最高賞を受賞しています。ほかにも「高畠ワイナリー」(山形)の「穣 Minori」はシャンパーニュと同じ瓶内二次発酵方式で造られたもので、高品質ながら手頃な価格も魅力です。

  • 大分「安心院葡萄酒工房」の「安心院 スパークリングワイン 2022年」
  • 山形「高畠ワイナリー」の「穣 Minori Prise de Mousse 2022年」

「ノンアル」「低アル」のクオリティーがアップ

ここ2~3年でノンアルコールや低アルコールのワインが普及してきていますが、2023年くらいから品質がぐっと上がっているのを実感しています。醸造用の良質なブドウを使い、技術も格段に上がったため、ノンアルでありながらワイン特有の渋みなど複雑な味わいが表現できています。

おすすめのノンアルコールワインはフランスの「フレンチ・ブルーム」やベルギーの「ヴィンテンス プレステージ ブラン・ド・ブラン」、アメリカの「ウォーターブルック クリーン シャルドネ」。飲食店であれば、アルコールニーズが低いランチタイムで提供するのもおすすめです。

  • ベルギー「ヴィンテンス」の「ヴィンテンス スパークリング プレステージ ブラン・ド・ブラン」( 輸入元:株式会社都光)
  • アメリカ「ウォーターブルックワイナリー」の「ウォーターブルック クリーン シャルドネ」( 輸入元:オルカ・インターナショナル株式会社)

「ナチュール」「オレンジ」も人気が定着

添加物などを極力使わないナチュラルワインや、白ブドウの果皮を取り除かずに造ったオレンジワインはブームを経て定番の一つになりつつあります。ナチュラルワインは生産者がフィロソフィーを掲げ、ブドウ栽培にも化学肥料や農薬を使用しないといった各自の制約を設けて造っているので、すっと体に入っていくようなきれいな味わいが魅力と言えるでしょう。フランスの「シャブリ コトー・ド・ロゼット」やギリシャの「オクターヴ」など、世界各国で質の高いナチュラルワインが造られています。

また、オレンジワインも技術力が上がり、以前よりもおいしいものが造られるようになりました。ジョージアの「キシ」、本坊酒造(山梨)の「甲州 オランジュ・グリ」などがその一例です。

  • フランス「アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール」のナチュラルワイン「シャブリ コトー・ド・ロゼット 2018年」(輸入元:株式会社ラシーヌ)
  • ギリシャ「スー・ル・ヴェジェタル」のナチュラルワイン「オクターヴ 2022年」( 輸入元:日仏商事株式会社)
  • ジョージア「ジョン・ワーデマン」のオレンジワイン「キシ 2022年」(輸入元:株式会社ノンナアンドシディ)
  • 山梨「本坊酒造」のオレンジワイン「甲州 オランジュ・グリ 2023年」
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ワインのトレンドをけん引する飲食店は?

「The Rendez-Vous AWA(ランデブーアワ)」(東京・日比谷)

帝国ホテルの1階に2024年3月にオープンしたシャンパンバー。2024年が帝国ホテル開業134年にあたることから134種もの銘柄をそろえていて、シャンパーニュを中心に世界中の泡が楽しめます。セラーにディスプレイされたボトルを眺めるだけでも楽しく、お一人様でも楽しめる軽食が用意されています。グラスでも10種類ほど提供しているので、ショッピングの合間や夕食の前などに軽く飲む際にも使い勝手がいい場所です。

「The Rendez-Vous AWA(ランデブーアワ)」
東京都千代田区内幸町1丁目1−1 本館 1階
https://www.imperialhotel.co.jp/tokyo/restaurant/awa/menu
https://r.gnavi.co.jp/k6hwe2u20000/

「VS(ブイエス)」(東京・渋谷)

自由が丘と神宮前に店舗を構えるワインショップ「VIRTUS(ウィルトス)」が、京都の立ち食いそば店「SUBA」とコラボ。1階は立ち食いそば店、2階はナチュラルワイン主体のワインショップで、2024年9月にオープンしたばかりですが早くも人気店になっています。ワインサーバーから有料での試飲ができ、抜栓料を支払えば購入したボトルを1階のそば店で飲むことも可能。「VIRTUS」オーナーの中尾有さんの知識がとても豊富なので、ナチュラルワインに興味を持ち始めた方にもおすすめです。

「VS(ブイエス)」
東京都渋谷区渋谷1丁目15−8 宮益ONビル
https://www.instagram.com/subasoba_vs/

「LOW-NON-BAR (ローノンバー)」(東京・淡路町)

日本で初めての低アルコール&ノンアルコールバーで、軽井沢にも店舗があります。内装は本格的なオーセンティックバーなのですが、提供しているのは低・ノンアルコール飲料やモクテル。ラインナップが豊富で、同店が監修したノンアルコールジンなどの商品もあります。お酒は飲まずに雰囲気に浸りたいという方にもおすすめ。私が訪れた際は30~50代のお客様が多い印象でしたが、お酒を飲まない若い世代もバー文化に触れる良いきっかけになるお店だと思います。

「LOW-NON-BAR (ローノンバー)」
東京都千代田区神田須田町1丁目25−4 マーチエキュート神田万世橋 1F-S10
https://orchardknight.com/bar/low-non-bar
https://r.gnavi.co.jp/53e288yg0000/

【ワインを売りにした飲食店はほかにも!】
話題の新業態「è più(エピュウ)」(横浜)が提案する“ジェラート×ナチュラルワイン”という新たなマリアージュ!

試飲&バー使いができるワインショップに注目

トレンドが多極化しているということにも通じますが、特化型のワインショップが増えています。例えば「アフリカー / Wine Square a2 by af-liquor」(東京・水天宮)は南アフリカ専門で400種類以上の銘柄をそろえ、ワインサーバーで有料試飲もできます。

「go-to wine shop & bar」(東京・経堂)は商品の7割がニューヨーク産ワインで、自分たちで輸入しているものを主に取り扱っています。

日本ワインの専門店としては「日本ワインショップ 遅桜 西麻布本店」(東京・西麻布)が先駆け的な存在。希少な銘柄もそろえ、ワイン生産者の方も東京出張の際に立ち寄って情報交換をしたりと、さまざまなワイン好きが集まるお店です。

「アフリカー / Wine Square a2 by af-liquor」
東京都中央区日本橋蛎殻町2丁目6−8 日本橋KSビル 1階
https://af-liquor.com/
https://r.gnavi.co.jp/hw2zh62c0000/
「go-to wine shop & bar」
東京都世田谷区経堂1丁目26−15 石塚ビル 1F
https://www.instagram.com/gotowine.kyodo/
https://r.gnavi.co.jp/9sj1z34h0000/
「日本ワインショップ 遅桜 西麻布本店」
東京都港区西麻布4丁目4−4 12 Sビル 1F
https://www.instagram.com/osozakura/
https://r.gnavi.co.jp/msc7g5hy0000/

ワインを提供する飲食店に期待することは

バイザグラスで楽しめる店が増えてほしい

さまざまな銘柄をバイザグラス(グラス単位)で注文できるお店が増えるといいですね。4~5人で行けばボトルでもいいのですが、1人や2人だといろいろな種類のワインを楽しむことはできません。グラスワインの種類が豊富なら少人数でもお料理と一緒にいろんなワインを楽しめます。さらに日本酒の飲み比べセットのように30~50ml単位の少量で飲めると、より気軽です。

ロス対策にはサーバー導入がおすすめ

バイザグラスや少量での提供を可能にするためにも、ワインサーバーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。30ml、50ml、80mlなど量を3段階に調整できるものもあります。ワイナリーでもワインサーバーを設置するところが増えてきていて、来店客がテイスティングをして購入するスタイルが浸透してきていますし、あれこれと試飲しながら仲間内で盛り上がる時間も楽しいものです。ワインサーバーがあれば開栓後も保存ができますし、少量から飲めることが広まれば利用が増えるので、新しい1本を出す回転率も高まると思います。

お店に赤白1本ずつ置くなら…

居酒屋なのかラーメン店なのかといった業態によっても異なると思いますので、どの銘柄を選べば正解かというのは一概には決められません。ただ、そのワインのうんちくやバックグラウンドを語らなければならないものよりも、飲んですぐにおいしいと思えるようなわかりやすい味わいのワインが良いと思います。もし、あまりワインに詳しくない、ということであれば、お店で「ワインないの?」と尋ねてきたお客様に、どういう銘柄を置いてほしいかを聞いてみるといいかもしれません。特にお店の料理を熟知している常連さんであれば、どういうワインが合いそうか、貴重な意見をもらえるはずです。

近年は、ワイン自体の進化や多様化に合わせて、「寿司」「おでん」「そば」など、さまざまな料理とのマリアージュを提案する飲食店も増えてきました。これからも、よりカジュアルにワインを飲めたり、新しいワインの楽しみ方を発見できるような飲食店が増えてほしいと期待しています。

「ワイン王国」
https://www.winekingdom.co.jp/

偶数月5日の隔月刊行のワイン専門誌。各国の生産者や日本を代表するソムリエの協力の下、世界のワイン情報を掲載する。

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