Vol.22
イギリス発祥の正統派サンドイッチの現在を前編でご紹介したが、後編では移民の多いロンドンで、彼らのルーツである“サンドイッチ”が、人気になっている様子をリポートしたい。ベトナムのバインミー、メキシコのブリート、ベネズエラのアレパなど、小麦粉、トウモロコシ粉、饅頭生地とパン生地に違いはあるものの、パンで挟む(あるいは包む)という食文化が、サンドイッチ伯爵のお膝元であるロンドンで大きく開花中だ。
アジアン×フレンチテイストで人気上昇中のバインミー
バインミーは、バケットに切り込みを入れてレバーペーストなどのパテを塗り、ビーフやチキン、ポークなどの肉、ダイコンやニンジンなどのピクルス、ハーブ、赤唐辛子の輪切りを入れて、ニョクマム(魚醤)をかけたベトナム式サンドイッチ。
フランス宗主国時代のベトナムで生まれた、このアジアとヨーロッパが見事に調和したサンドイッチは今、ロンドンのほか、ニューヨークやシドニーでも静かなブームになっているという。イタリアのパニーニに次ぐ"世界で愛されるサンドイッチ"と目されているほどだ。
ハノイ出身の同級生コンビ、バンとアンのふたりが2009年、ロンドン東部で地元の人々に人気があるブロードウェイ・マーケットで「バインミー11」(Banhmi11)をスタートしたときも、すでに確かな感触があった。土曜日限定でオープンしていた屋台は10時に開店して、14時半には売り切れるほどの人気となり、今ではロンドン北部のターミナル駅であるキングス・クロスなど計5カ所のマーケットで屋台を開くほか、ビジネスランチ向けのデリバリーも行なう。この夏には、いよいよ本格的に店舗を出店する計画もあるという。
バンはハノイにいた頃、母親が作るバインミーを食べたくて、10キロもの道を自転車で通ってきた客たちのことをよく覚えている。今では彼女が作るバインミーを食べたくて、3時間も電車に乗ってくる客もいるという。
そして、彼女が最初にブロードウェイ・マーケットに屋台を出した頃は、バインミーを出す店はほとんどなかったが、今では屋台はもちろんベトナム・カフェやベトナムレストランでバインミーを出すようになっている。
Berwick Street Market, Soho, W1F 8TW
営業時間
月-金 10:00~15:00
※そのほかロンドン市内4カ所で販売中
人種の数だけフレーバーがある
バインミーのほかに、今ロンドンでは、メキシコの伝統料理「ブリート」、ベネズエラのサンドイッチ「アレパ」、中華饅頭を使って角煮などを挟む"中華サンドイッチ"なども人気を呼んでいる。
メキシコ発祥の「ブリート」は、小麦粉でできた薄い生地「トルティーヤ」で豆や米、チーズ、トマト・レタスなどの野菜に肉やシーフードなどを包んだもの。こちらもスパイスを効かせ、独特な味わいがある。
ブリートにはメキシコのブリートと、アメリカで独自に発展したブリートがある。ファストフードチェーンが提供するほとんどは、サイズが大きくて具がたくさん詰まったアメリカのブリート。アルミホイルにくるまれた状態で、手で食べるのが一般的だ。一方、洗練されたメキシコ料理店などでは、もっと小ぶりで、皿の上にきれいに盛られたブリートが提供されており、こちらはナイフとフォークで食べる。どちらも、ここ数年ロンドンで店を増やしている。
同じラテンアメリカのベネズエラのサンドイッチ「アレパ」はトウモロコシ粉で作ったパンケーキのようなもの。外側はパリッとしていて中はもっちりした食感がある。これにビーフ、アボカド、チーズなどをはさんで食べる。
そのほか、アラブ資本が増大するロンドンではアラブ系のヘルシーなサンドイッチ「ファラフェル」も人気。これは、ひよこ豆をすりつぶしたものにスパイスを混ぜて素揚げしたファラフェルボールを生野菜と一緒にピタパンにはさんで食べるサンドイッチだ。
また、中華饅頭から進化して、豚の角煮を饅頭皮ではさんだ「YUM BUN」の中華サンドイッチも人気を呼んでいる。
このように、新しいことに目がないロンドンの人たちに各国のサンドイッチが受け入れられている。お国柄を反映した様々なサンドイッチは、これからも注目を集めるだろう。
取材・文/栗原伸介
※通貨レート: 2012年7月25日現在 1ポンド=121.0円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。