米国発 アジア系料理のレストランチェーンが熱い 前編

アメリカで存在感を増しつつある中国、日本、タイ、ベトナムなどアジア系料理のレストランチェーンの現在をお届け。時間をかけて成長し、力をつけた今、さらなる拡大を目指している。

URLコピー

Vol.27

これまで、アメリカのレストランチェーンにはアジア系料理を出す店が少なかった。理由としては、アジア系移民が多い地域には手軽に食べられる家族経営の小さな食堂がたくさんあったこと、逆にそうでない地域では、アジア系料理がまだあまり認知されていなかったということがある。しかし、アジア系料理のレストランチェーンはゆっくりと時間をかけて成長し、力をつけた今、さらなる拡大を目指している。アメリカでその存在感を増しつつある中国、日本、タイ、ベトナムなどアジア系料理のレストランチェーンの現在をお届けする。

ショッピングモールにファストフード業態で出店し、急拡大している「Panda Express」。今ではアジア系料理のチェーンとしては全米一の規模に
中華料理のほかにも、東南アジア料理チェーン店も登場
アメリカでアジア系料理のチェーンが増えている理由の一つが、アジア系人口の増加。2000年から2010年までの10年間で1.5倍に増加している

ファスト化で拡大する中華料理のチェーン

「Panda Express」は、アンドリュー・チェン氏が父とともにカリフォルニア州ロサンゼルス北東部のパサデナで始めた中華料理店「Panda Inn」のファストフード業態として、1983年にショッピングモール内に1号店をオープンした。

「Panda Express」には独立型店舗もある。それらのほとんどが自社物件

以降、ショッピングモール以外にも、スーパーマーケット、駅の構内、空港、テーマパーク、大学のキャンパスなど、ありとあらゆるところに出店。今では全米に約1,500店舗を展開する巨大グループに成長し、売上は約15億ドル(約1,170億円)。これはアメリカのアジア系ファストフードチェーンの売上の約50%を占める。さらにその勢いは止まるところを知らず、2015年までには店舗数2,300店を計画しており、オーナーのアンドリュー氏によれば「最終目標は10,000店舗」だという。

一方、「Panda Express」と同じ中華系の「P.F.Chang's China Bistro」は、スタイリッシュな中華料理の分野を切り拓き、完全着席の店を展開。全米に200店舗以上出店している。そして、2000年に客がカウンターで注文し、店員が料理を席まで運ぶ、"クイック・カジュアル"なアジア料理店「Pei Wei Asian Diner」を新たにオープン。現在では、全米に170店舗以上あり、本家「P.F.Chang's China Bistro」に迫る勢いのチェーンとなっている。さらに、今年4月には“よりクイック”なサービスで価格を抑えたアジア系ファストフード「Pei Wei Asian Market」をオープンさせた。

このふたつの大手チェーンは時期の違いこそあるものの、フルサービスのレストランから「より早く、より安く」料理を提供することで、着実に拡大成長してきた。アジア料理が定着していく中で、"食のカジュアル化"、"ファスト化"の流れを捉え、新業態をタイミングよく世に送り出し、成功を収めているのだ。

「Panda Express」では名物のオレンジチキンにミックスベジタブル、そして炒麺(チャオメン)、チャーハンなどをとるのが定番
「Pei Wei Asian Market」のコリアンステーキ・サンドイッチ。アジアン・サンドイッチは他にも中華風、ベトナム風があり、人気メニュー
Panda Express
1983年設立。本社パンダレストラン・グループはカリフォルニア州にあり、従業員数は約1万5,000人。
http://www.pandaexpress.com/
Pei Wei Asian Market
P.F.Chang’s China Bistroが展開するファスト・カジュアル店「Pei Wei Asian Diner」のさらなるファストバージョン。本社はアリゾナ州。提供するのは中華、日本、韓国、ベトナム、タイ料理など多彩。
http://www.peiwei.com/market/

巨大ファスト・フードチェーンが仕かける“東南アジア料理のファストフード”

一方、昨年9月、ワシントンD.C.の一角に「ShopHouse Southeast Asian Kitchen」という東南アジア料理系ファストフード店がオープンし話題を呼んだ。

「アジアのチポレ」として期待される「ShopHouse」の門出。アジア系の一大レストランチェーンになると目されている

“ショップハウス”というのは東南アジアによくある店舗兼住宅で、1階が店舗、2階が家族の住居になっている。大量生産のイメージがあるファストフード店に、「家族経営の小さな店で料理は手作り」というイメージを持ち込もうという試みである。

この店を仕かけたのは、メキシコ料理のファーストフードチェーン、チポレ・メキシカン・グリル(CMG)だ。同社は「スローフードを早く!」をモットーに、自然の食材にこだわりながら、ファストフードを提供することで知られており、アメリカとカナダで1,316店を出店。2011年の「フォーチュン誌が選ぶ急成長企業100社」の54位に入っている。

「ShopHouse」でもそのモットーは受け継がれており、自然飼育された豚肉や鶏肉、オーガニック食材などを使い、調理はすべて店内で行う。ショーケースにはアジアの総菜がずらりと並び、客はカフェテリア方式で注文。まず冷たい麺か白飯、雑穀ご飯、レタスの中からひとつを選び、その上に載せる総菜を選んでいくと、自分のオリジナルの“アジアン・ボウル”ができるというわけだ。

客が注文しやすいよう、メニューはアジアン・ボウルに絞り、提供時間を短縮。オープン当初は、ベトナムのサンドイッチ「バインミー」も提供していたのだが、納得できるバケットがなく、メニューからはずすという徹底ぶりも見せる。

食の安全を掲げ、すべての食材にこだわったファストフードで業界に革命を起こしたCMGの新たな挑戦は、メキシコ料理チェーンのチポレのように巨大チェーンになるのではないかと目されている。まだ今後の出店計画は明かされていないが、これからアジア系料理のレストランチェーンの中で大きな一角を占める存在になっていきそうだ。

アジアン・ボウルを提供するまでの時間は、サブウェイなどのサンドイッチ店とだいたい同じくらい
インテリアは明るくシンプルに。客席やテーブルも小さめにして席数を増やし、効率を上げる
ShopHouse Southeast Asian Kitchen
Dupont Circle D.C.
1516 Connecticut Avenue NW
http://www.shophousekitchen.com/ie/

取材・文/栗原伸介

写真/(「ShopHouse」) thefoode flickr

※通貨レート 1ドル=78円(2012年10月5日現在)

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。