米国発 アジア系料理のレストランチェーンが熱い 後編

アジア各国で展開しているレストランチェーンがどのようにアメリカで成功しているかをリポート。モンゴルで生まれた火鍋料理、日本の牛丼は、アメリカで通用するのだろうか。

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Vol.28

前編ではアメリカ発祥のアジア系料理のレストランチェーンを見てきたが、今回はアジア各国で展開しているレストランチェーンがどのようにアメリカで成功しているかを見てみたい。モンゴルで生まれた火鍋料理、そして日本の牛丼。本国で成功を収めた手法は、そのままアメリカで通用するのだろうか。そしてアメリカの先にある市場は?世界を舞台にアジアの食文化を発信するレストランチェーンをリポートする。

アジア系料理レストランチェーンはキャンペーン、イベントなどを地道に行ってアピールし、リピーターを獲得
店舗での販売だけでなく、同じ商品を冷凍食品としてスーパーでも販売
モンゴルの火鍋料理がアメリカで躍進中。世界をも視野に入れている

モンゴルの火鍋料理がアメリカ、そして世界へ

1999年、中国・内モンゴル自治区の包頭(パオトウ)市で誕生した火鍋料理の「リトルシープ」(中国での名称は小肥羊【しゃおふぇいやん】)は、中国国内で単一業態のレストランチェーンとして最大規模を誇り、中国での成功を収め、2006年北カリフォルニアに1号店を出店した。以来、アメリカ国内で11店舗を展開している。

リトルシープではアジア圏の客を中心に、徐々にアメリカ人に火鍋文化を浸透させてきた。大勢で鍋を囲むスタイルも踏襲

アメリカでの出店ペースは比較的ゆっくりだが、全店舗で売上、利益ともに確実に成長し、「アメリカで、アジア料理のレストラン市場がまさに広がりつつある」と、リトルシープの広報担当者は感じているという。

リトルシープは"医食同源"をコンセプトとしながら、手軽に食べられる健康食として火鍋料理を打ち出した。健康志向ではあるが、肉は食べたいというアメリカ人たちに、脂が少なくヘルシーに食べられるラム肉の火鍋はぴったりはまった。それが大きな成功要因だった。

そして成功したもうひとつの要因は、秘伝のスープだ。ラム肉の臭みを消すように、研究を重ねて開発した、白湯(パイタン)スープと麻辣(マーラー)スープは、"くせになる味"として受け入れられ、リピーターを獲得。また、「リトルシープ」の火鍋は2種類のスープの中に具材を入れ、そのまま食べられるので、タレなどをつける手間がかからないのも受けたようだ。

だが、アメリカに限らず新しいコンセプトを認知してもらうのは容易なことではない。モンゴルの火鍋料理のような、アメリカでそれまでなかった料理を理解してもらうのも難しかった。だが、リトルシープでは一度食べてもらえれば、その味に感動してリピートしてくれると信じており、料理に絶対的な自信を持っていた。そのため、とにかくまず一度来店してもらおうと、地域密着のイベントやキャンペーンを実施。すると、その味がだんだんと広がり、顧客も増加。店舗は徐々に増えていった。

リトルシープは今や世界に400店舗以上を有する一大企業だ。売上は2006年から毎年、前年度比120%以上の伸びを続け、2006年度の売上約7億元(約5,600万円)から2010年度には約19億元(約1億5,200万円)と、4年で2倍以上の成長を遂げている。この成長ぶりを見て、「ケンタッキーフライドチキン」や「ピザハット」などを傘下に持ち、ファストフード業界としては世界最大のヤム・ブランズが、昨年リトルシープの買収を表明し、傘下に収めることになった。

リトルシープはすでに北米以外にも、日本、韓国、台湾に進出している。ヤム・ブランズによる買収により、モンゴル火鍋料理の世界進出はますます加速するだろう。

中国では唐の時代に普及したという火鍋料理は、古代中国の思想である“陰陽”になぞらえて鍋の真ん中で仕切られ、2種のスープを入れることができる。
薄切りのラム肉をスープにくぐらせて食べる。アメリカではほとんど知られていないこの食体験がリピーターを生む
リトルシープ(Little Sheep)
アメリカ国内での店舗
ワシントン州:1店舗、カリフォルニア州:7店舗、テキサス州:2店舗、ニューヨーク州:1店舗
http://www.littlesheephotpot.com/
日本でも「小肥羊」の名前ですでに9店舗を展開している。
http://www.hinabe.net/menu/

牛丼を世界に知らしめた「吉野家」の戦略

日本ではおなじみの「吉野家」は、現在アメリカのカリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州に96店舗ある(2012年8月末現在)。その始まりは、1975年。牛肉文化であるアメリカでも、吉野家が醤油ベースの出汁で煮る牛丼を提供するのは勇気がいることだったに違いない。

アメリカの吉野家の店内は完全なアメリカンスタイル。レジカウンターで注文し、席で食べるスタイルがなじむようだ

アメリカ1号店出店のきっかけは思わぬところにあった。吉野家は1973年に牛肉の輸入のために米国法人を設立するが、1974年日本政府がアメリカからの牛肉輸入を禁止したのを機に、アメリカで店舗を展開してみようと、西部のコロラド州デンバーに1号店を開いたのだった。

当初の店舗は日本と同じく馬蹄形のカウンターに丸いす。牛丼は「ビーフボール」(BEEF BAWL)として、日本と同じ味付けで出した。しかし、牛丼の味は受け入れられたものの、カウンターで並んで食べるというのがアメリカ人の食習慣に合わず、やがてマクドナルドなどと同じように、レジで注文して商品をトレーに載せて、それぞれがテーブル席で食べるというスタイルに変更。また、箸だけでなくフォークを置いたり、丼に盛るのではなく深皿にしたりと、アメリカ人の食べ方に合わせて改変を行った。

このようなアメリカ型のカスタマイズが功を奏し、ビーフボールは順調にアメリカに浸透。そして1980年代には鶏肉バージョンの「チキンボール」を開発し、売上が倍増。現在では、ビーフボールはアメリカ人の食生活にすっかり定着し、スーパーなどでは冷凍パックも販売されている。また、新たに開発されたビーフとチキン両方をのせたコンボも人気メニューになっている。

前出の「リトルシープ」同様、吉野屋もアメリカを皮切りに台湾、中国、シンガポール、フィリピン、インドネシア、タイと世界に進出している。アジア生まれのレストランチェーンは、自国の次にアメリカという巨大な人種のるつぼで挑戦し、そして世界へ向かって拡大してきた。アジアで生まれた食文化は、その地域に合わせてカスタマイズすることで、広く認知され、世界標準のスタイルを確立している。

登録商標もとっている看板メニューの「ビーフボール」。これはラージサイズ(5ドル29セント=約413円)
「コンボボール」(5ドル59セント=約436円)は、ビーフと照り焼きチキンにミックスベジタブルをのせ、大人気
吉野屋アメリカ(Yoshinoya America)
カリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州に96店舗(2012年8月末時点)。
http://yoshinoyaamerica.com/

取材・文/栗原伸介

※通貨レート 1ドル=78円、1元=0.08円

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