Vol.41
近年、日本食への関心は世界的に高く、寿司や天ぷらといった料理だけでなく、“旨味(UMAMI)”など味覚の概念を日本から学び取ろうとする料理人も多い。そんな中、目下、スペイン・バルセロナで注目されているのは麺料理。それも「うどん」「焼きそば」「ラーメン」など、日本の街中の食堂にあるような麺料理に光が当たっている。今回の前編では、バルセロナでの日本食ブームの背景に触れるとともに、今話題の麺料理店を紹介する。
スペインの日本食ブームは、“寿司・天ぷら”から“うどん・焼きそば”へ
そもそも日本食ブームが始まったのは、今から15年くらい前だろう。ユーロ導入による不動産バブルで起こった好景気に伴い、高級料理として日本食を提供する店が続々と開店した。日本料理店に行くことは中上流階級のひとつのステイタスになり、そこで日本料理のメニューとしてよく知られるようになったのが、寿司と天ぷらだ。
しかし、2007年のバブル崩壊後、高級料理ブームは下降線を描き、日本食が話題に上ることは少なくなった。そこへ現れたのが、カジュアルな日本の麺料理だ。日本食は健康的であるというイメージに加え、スペイン人が体験したことのない麺料理は最先端なものとして捉えられ、しかも日本食にしては安いとあって、一躍注目を浴びた。
そんな日本の麺料理人気の火付け役となったのが、2007年オープンの、スペイン人が手掛けたカジュアルダイニング風の麺料理店「Udon(ウドン)」。「うどん」や「焼きそば」を、モダンでスタイリッシュな雰囲気の空間で提供するという、新しい発想の店だ。
「Udon」の店内は、白と黒を基調とし、直線的でシンプルな内装はスタイリッシュな日本を表現。スペイン人にも馴染みやすいよう、バル風のスタイルも意識してカウンター席もある。カジュアルだがおしゃれな日本料理店であり、しかも提供するのは、「天ぷらそば」や「鍋焼きうどん」「焼きうどん」などのスペイン人には珍しい日本料理ということで、一気に人気に火がついた。2007年に1号店がオープンして以降、2013年春現在ではバルセロナ市内と郊外にトータル10店舗、フランチャイズも含めるとスペイン国内に約20店舗を展開している。
オーナーは、地元出身の男性二人ジョルディ・パスクアル氏とジョルディ・ビダル氏。パスクアル氏の父親が日本を訪れた際、手早く食べられる麺専門店を体験し、料理のおいしさとスペインの伝統的なタパスバルに似たカウンタースタイルを気に入り、バルセロナにはまだない“ヌードルバー”の開店を息子に促した。パスクアル氏も共同経営者であるビダル氏も、ともに飲食店で働いた経験はなかったが、スペインでは目新しい日本の麺料理であれば、そのユニークさが受けるのではと考え、意欲的にチャレンジしようと思ったそうだ。
「Udon」の人気メニューは、鶏のから揚げと甘辛く炒めたネギがのった「鶏南蛮うどん」(9.95ユーロ=約1,282円)と「チキン焼きそば」(8.95ユーロ=約1,153円)。焼きそばは、縮れた麺と照り焼き風の甘いソースが特徴で、どこか日本のインスタント焼きそばを思わせる。「鶏南蛮うどん」は鰹出汁が使われていて、甘味が効いたスペイン人が好むはっきりとした味。砂糖たっぷりの現地風アレンジを施されているため、日本で知られている焼きそばやうどんとは少し異なるが、現地の人には健康的でおいしい最先端の料理として受けている。
オフィス街にある本店の客は、20~40代と比較的若い世代の、近隣の住人やビジネス層が中心。一方、ピカソ美術館近くの観光客で賑わうボルン地区にある店舗では大半が外国人と、立地によって客層はまったく異なる。 スペインはのんびりした気質の人が多いため、客に対する応対も遅いことが通常だが、この店では注文を受けてから7分以内に料理をサーブするという機敏さも好評。今年中にさらに数店舗が開店する予定だ。
Consell de Cent 323 08007 Barcelona
http://www.udon.es/
取材・文・写真/秦 真紀子
企画・編集/料理通信社
※通貨レート 1ユーロ=128.8円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。