Vol.42
スペイン・バルセロナでは、これまでの高級料理というイメージを払しょくする、リーズナブルで気軽に食べられる日本食として、ここ数年“うどん”や“焼きそば”が注目を集めている。前編ではブームの発端となった麺料理店を紹介したが、後編では、麺人気にあやかった、テイクアウトスタイルの“炒め麺”ブームから、初のラーメン専門店誕生までを紹介する。
話題の麺料理をさっと食べられるテイクアウトのスタイルもブームに
2007年に誕生した麺料理店「Udon」が火付け役となり、アジアの麺料理に光が当たるようになったスペイン。以降、様々な麺料理の店が生まれている。
2009年にバルセロナでオープンした「ウォキ・オーガニック・マーケット」(以降、「WOKI」)は、オーガニック食材を扱うミニスーパーの一角に厨房とイートインスペースを設けた、テイクアウトもできる焼きそば専門店だ。オーナーのギド・ウェインベルグ氏は、アジアの屋台からヒントを得て、「健康的で、手早く作って食べられる料理の店を」とオープンした。
注文は紙にマークする方式で、サイズ(大と小)、麺(米麺か小麦麺)、ソース(日本風テリヤキやタイ風など)、具材(鶏、豆腐、エビなど)を選ぶ。オーダーを受けたら、あらかじめ下準備しておいた材料を中華鍋で炒めて調理。5分もかからずにできあがり、小サイズでも450gとボリューム満点。具材を追加しなければ、3.9ユーロ(約515円)と破格の値段だ。オーガニック商品を買いに来る健康志向の人や、スペインで人気の出てきた新しい麺料理をさっと食べてみたいという地元の人、旅行者などに人気となっている。
バルセロナでは、「WOKI」以外にも似たような店が続々と登場しており、“炒め麺”のテイクアウトも人気の料理のひとつとなっている。
C/Asturies 22 Barcelona
http://www.wokimarket.com/
バルセロナ初のラーメン屋も誕生。人気店のオーナーは日本人
だんだんと「高級料理だけでなく、安くておいしい麺料理もある」と一般的に知られるようになった日本食。そして、ついに2012年にバルセロナに初めて日本人が経営するラーメン専門店がオープン。その名前は「ラーメン屋ひろ」。
「ラテン文化に興味があってバルセロナに来た」というオーナーの吉行大樹氏は、オーストラリア・シドニーのラーメン屋で働いていたとき、客が「おいしい」と言ってくれるだけでなく、現地人のラーメンに対する関心の高さに驚いたそうだ。2007年にスペインに来て「スペインでもラーメン屋で働きたい」と思ったが、バルセロナにラーメン屋はなかった。そこで、日本料理店で働く傍ら、厨房を借りてラーメンの試作を重ねた。次第にまかないで出したり、裏メニューとして提供したりするようになり、ついに独立。昨年、オープンに至った。
「ラーメン屋ひろ」は6席のカウンターを含めわずか20人強しか入れない小さな店でありながら、1日150食も販売する繁盛ぶり。店の外には長い列ができる。客の9割は地元の人で、もともとアニメなど日本文化に興味があり、ラーメンのことも知っていた若い世代に特に人気を得ている。
ラーメンはみそ味としょうゆ味を提供。10時間かけてじっくり煮込んだ鶏ガラと豚のスープは濃厚で、スペイン人の好みにぴたりと合って好評。麺は1回8キロを1日に2回、製麺機を使って打つ。出来合いの乾麺とは歯応えも風味も格段に違う。
小遣いを貯めて漫画を買っているような若者でも来店しやすいよう、ラーメンは7.5ユーロ(約990円)と手軽な価格に設定している。また、サラダかおにぎり、餃子などの前菜とドリンクが付いて10.5ユーロ(約1,386円)というお得なランチメニューもある。
日本人が食べてもかなり満足できる本格的なラーメンを、スペイン人たちが上手に箸を使って喜んで食べる。「客の反応をカウンター越しに直に感じ、会話を交わすのがラーメン屋の醍醐味」と語る吉行氏。誰よりも先駆けてスペインにオープンしたアドバンデージは大きい。
さっと食べられておいしい。しかも健康的なイメージで価格も手頃とあり、今後も日本やアジアの麺料理ブームは続くだろう。
C/Girona 164 Barcelona
http://www.facebook.com/RamenYaHiro
取材・文・写真/秦 真紀子
企画・編集/料理通信社
※通貨レート 1ユーロ=132.0円
※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。