日本各地で食文化の体験を推進し、地域活性化を目指す。「ガストロノミーツーリズム in Japan」が開催
世界の取り組みから日本の現状と課題を議論
地域に根ざす食文化を理解し、体験する観光「ガストロノミーツーリズム」。その日本における深化と発展を目指して、2月5日に「ガストロノミーツーリズム in Japan シンポジウム」が東京・青山で開催された(主催/公益社団法人日本観光振興協会、共催/国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所、株式会社ぐるなび)。会場には地域活性化のヒントにしようと、自治体や観光関連企業などの関係者が多く集まった。
冒頭、日本観光振興協会会長の山口範雄氏と、UNWTO駐日事務所代表の本保芳明氏が挨拶し、本企画の開催に至る経緯を説明。また、来賓として、UNWTO前事務局長のタレブ・リファイ氏、観光庁長官の田村明比古氏、農林水産省食料産業局食文化・市場開拓課長の西経子氏が登壇。田村氏は、その土地でしか体験できないガストロノミーツーリズムが日本の観光産業において重要であることを、その期待とともに語った。
続いて、UNWTOアフィリエイトメンバー部部長のヨランダ・ペルドモ氏が「海外におけるガストロノミーツーリズムの潮流」として基調講演を行った。ペルドモ氏は「ガストロノミーツーリズムの波及には、影響力のある人や違う分野の人たちとのコラボレーションが必要」と語り、アルゼンチンとスペインの取り組みを動画を交えて紹介した。
その後、「我が国のガストロノミーツーリズムに関する調査」の報告が、株式会社三菱総合研究所地域創世事業本部の宮崎俊哉氏から行われた。同調査は日本観光振興協会、UNWTO駐日事務所、ぐるなびの3者が協力して2017年6~11月に実施したもので、有識者による議論、全国の自治体を対象にしたアンケート、および17地域を対象に詳細な調査を実施。その結果から、ガストロノミーツーリズムの現状と課題が発表され、地方自治体では、言葉の認知は低いものの、取り組みの実態はあることが明らかになった。
その調査を受け、同調査に関わった日本観光振興協会理事長の久保成人氏と株式会社ぐるなび代表取締役社長の久保征一郎が、見並陽一氏(一般社団法人ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構理事長)の司会で鼎談。そこに涌井史郎氏(同・会長)も加わり、国内外の旅行者に対して日本の魅力を発信し続けることが、日本の食文化を守り育て、地域活性化につながると語り合った。
最後に株式会社ANA総合研究所取締役会長の小川正人氏をモデレーターに、宮城県・気仙沼、奈良県、岐阜県・飛騨から地方創生を進める3人とペルドモ氏によるパネルディスカッションが行われた。気仙沼商工会議所会頭の菅原昭彦氏は、東日本大震災後に海と生きるをキーワードに観光と融合した復興プランの内容を、奈良県知事の荒井正吾氏は「大和野菜」の魅力発信や奈良県立なら食と農の魅力創造国際大学校を設立し、食と農業の担い手を育成していることを、天領酒造株式会社代表取締役の上野田隆平氏は飛騨の酒蔵と行政、街が協力して日本酒の魅力を発信し、需要創造につなげている取り組みを、それぞれ紹介。ペルドモ氏は3つの事例について、アドバイスをするとともに、一層の発展を期待した。
基調講演
「海外におけるガストロノミーツーリズムの潮流」
国連世界観光機関(UNWTO)アフィリエイトメンバー部 部長
ヨランダ・ペルドモ氏
ガストロノミーツーリズムにも近年のマーケティングの潮流である、文化的な要素を盛り込むこと、持続可能な開発をすること、貧困をなくす視点を持つことなどが重要と語った。また、アルゼンチンの農産地や観光地を巡るプロジェクトや、スペインのワイナリーの取り組みを紹介。「様々な分野の人たちとコラボレーションすることで新しい価値が生まれる」と述べた。
「我が国のガストロノミーツーリズムに関する調査を終えて」
調査結果を受けて、久保理事長は「ガストロノミーツーリズムは日本の観光や地方創生の大きな柱になり、DMO(その地域にある観光物件や食などに精通して観光地域づくりを行う法人)の育成にも寄与できる」と述べた。涌井会長は「温泉とガストロノミーツーリズムは密接な関係にある」と話し、ぐるなび・久保は「当社の企業使命は日本の食文化を守り育てることであり、ガストロノミーツーリズムの発展にとって地域の食文化の魅力を発掘し、発信することが重要」と語った。