今年こそ自分の店を持ちたい! 新たな1年の始まりにあたり、そんな決意を固めている人も少なくないだろう。思い切って一歩を踏み出すことはもちろん大切。だが、やる気だけでは競争の激しい飲食業界では生き残れない。今回は前編・後編にわたって独立開業を成功に導くノウハウを、プロに学ぶ! 前編ではコンセプトの決め方、物件・立地、開業資金・運営費までを見ていく。
どんなお店で勝負するのか。まずはコンセプト設計が大切
「毎年多くの飲食店がオープンしますが、そのうち3年後まで生き残れるのは約3割。10年後も営業しているお店はわずか1割と言われています。しかも、本当の意味で繁盛店と呼べるのはそのまた10分の1程度。そう考えると、飲食業界で個人が成功できる確率は、せいぜい1%ほどしかありません。開業を考えている方は、まずこの現実を真摯に受け止めていただきたい」。
冒頭から釘を刺すのは、現場を熟知した飲食プロデューサーの河野祐治氏。中小企業診断士の資格を持ち、実践的ノウハウと戦略的思考の両面で定評のある、開業サポートの達人だ。河野氏によると、飲食業における起業成功率は「ITなど他業種と比較しても著しく低い」とのこと。ただし、然るべき準備と心構えさえあれば、その勝率を高めることは十分可能だという。
「飲食店というのは、誰にとっても身近な日常的存在。だからこそ起業への心理的ハードルが低く、安易に開業してしまうパターンが多いんですね。なまじ飲食業経験者ほど、この傾向は強まります。現場のオペレーションと経営は、求められるものがまるで違いますし、資金繰りの大変さなどは経しないとわかりません。『飲食店なら自分にもやれそうだ』という安易な考えでは、遅かれ早かれ行き詰まります。大切なのは“とりあえず開業する”ことではなく、『自分はこういう店で勝負する』という、確固としたプランを持つこと。そして、そこへ向けて準備を怠らないことです。確かに競争の厳しい世界ではありますが、そういうごく当たり前のビジネス的ステップを踏んで起業した人の成功率は、飲食業も他の業界もは変わりません」。
下に掲載したのは、河野氏が実際、コンサルティング時に使っている開業までのフローチャート。物件探し、店舗デザインからメニュー開発、人材の確保、資金繰りまで――。これを見れば独立開業に必要な項目を、大まかな流れの中で捉えられるはずだ。
「この図は、固定的なフォーマットではありません。例えば、いい条件の物件とたまたま出会えた場合には、そこから『どんなお店をやったらいいか』と、コンセプトを考える場合も実際にはよくあります。そのようなケースでは、2~3カ月で一気に開店にこぎ着けることもあるでしょう。大切なのは、事前にかっちりスケジュールを決め込んでしまうのではなく、むしろ細かい調整を重ねながら、致命的な〈抜け〉がないようチェックすること。そのうえで、『資金をいくら注ぎ込み、いつ頃までに回収する』という、自分なりの計画を立てておくことです」。
今回の特集では、①店舗コンセプト、②物件・立地、③開業資金・運営費という3つのカテゴリーにおいて、それぞれ絶対に外してはいけないポイントを解説する。これらの要点をしっかり押さえておけば、フローの順番自体はフレキシブルに考えて構わない。前述したように、作りたい店のコンセプトから必然的に立地や必要な資金が導き出されるケースもあるし、逆に物件の内容や用意できる資金によって、当初のコンセプトを修正しなければいけないこともあるだろう。最近はWeb上にこの種のフローチャートが多数アップされているので、自分に合ったものを見つけてアレンジしてほしい。
「開店準備にどのくらい時間をかけるべきかを、気にする方もいますが、特に目安のようなものはありません。これについても『条件がそろったときがタイミング』と柔軟に考えた方がいいと思います。ただし、忘年会に間に合わせたい場合は、慣らし運転の期間も含め、遅くとも10月中にはオープンさせておきたいですね。開店が12月ギリギリにずれ込みそうなら、私としては、思い切って翌年1月に持ち越すことをアドバイスします」。では、次ページからは具体的な要素を見ていこう。
店舗コンセプト ①業態・業種を決める
どんな店を作りたいか、自分の土俵は何かを考えよう
ここで再度、開店までのフローチャートを確認してみよう。物件探し、メニュー開発、人材確保など、独立までになすべきことは多い。それらすべての起点となるのが「どんな店を作るのか」というコンセプト設計の作業だ。
「店舗コンセプトは、いわば事業の核となる部分です。誰に向けて、どんなサービスを提供するのか。そもそも自分は何で勝負するのか。動き出してから計画がブレないようにするためにも、そういったビジネスの根幹をしっかりと考える必要があります。特に飲食業の経験者は、なまじ見知った世界だけに、『始めてしまえばどうにかなる』と見切り発車をしてしまいがち。しかし昨今、コンセプトが曖昧なお店は、ほぼ長続きしません」。
店舗コンセプトは、まず「業種」と「業態」という2つを、どう組み合わせるかが基本となってくる。業種とはフランス料理、中華、焼肉など、「何を売るか」ということ。一方、業態とはそれを「どう売るか」ということを指す。例えば、同じ寿司という業種でも、高級店から回転寿司、立ち食い、デリバリーなど、その業態は様々だ。
「業種と業態を決める際には、自分の得意分野は何かということをもう一度考えてみてください。開業というのは、いわば人生を賭けた勝負。勝負ごとの鉄則は、決して人の土俵に引き込まれず、あくまで自分のテリトリーで勝負することです。例えば、ずっと和食メインの居酒屋で働いてきた人が、さほど興味や知識もないのに、『最近はバル業態が受けているから』と店を開いても、経験上、まず成功しません。好きでない分野では、やはり店の魅力作りに欠かせない探究心や向上心が生まれないからです。反対に、知識は少なくてもワインへの好奇心は人一倍という場合なら、得意な和食と組み合わせて、その人ならではの業態を創り出せるかもしれません。大切なのは、自分がもっとも一生懸命打ち込める業種・業態を見つけること。それがそのままコンセプトにもつながります」。
では「コンセプト=作りたい店のイメージ」を絞り込んでいく際、具体的に役立つ方法はあるだろうか。まずは、「ひたすら他店を見て歩くこと」だと河野氏はアドバイスする。
「自分のやりたい業種・業態中心でかまいませんが、ジャンルを問わず、繁盛店に足を運んでみることです。流行っているお店には、必ず理由があるもの。メニュー内容、接客、立地から看板の出し方まで。その店が繁盛している理由を徹底的に観察すれば、自分が出したい店のあるべき姿が、きっと見えてくるはずです」。
繁盛店視察のポイント
まずファサードを見る!
正面デザインに出る繁盛店のオーラを敏感に察知して、その理由を考えよう
河野氏曰く、「繁盛店には特有のオーラが存在する」もの。それがもっともストレートに反映されるのが、ファサード(店の正面)の作りだ。デザインはもちろん、看板の内容や置き方など、流行っているお店の“顔”から学べることは少なくない。「お客様は、店名よりもその横にある『ショルダーネーム』(店の売りを一言で表現するキャッチコピー)に反応します。私自身、これはと思うファサードやショルダーネームのついた看板などを目にした際は、必ず写真を撮るようにしています。そうやってアンテナの感度を高く保つことが、店舗コンセプトのブラッシュアップにつながるのです」(河野氏)。
いい点だけを見る!
どんな繁盛店にも長所と短所がある あら探しはせず人気の理由だけを分析
客が何を求め、どんな料理やサービスに反応しているのかを肌で知るためには、実際に流行っている店を見ることがいちばんの近道だ。「私が知るかぎり、繁盛店のオーナーは1 人の例外もなく、いろいろな店をよく見ています」(河野氏)。その際のポイントは、短所は無視して、ひたすらいい点だけを見ること。よくあることだが、「これなら自分の方がうまく作れる」「ここができていない」など、自分の優位性を確認することには、何の意味もない。繁盛しているという事実を受け入れたうえで、「この店のどこがお客様に受けているんだろう」と、人気の理由を分析する習慣をつけておきたい。
業種・業態を決める際の注意点
業態のトレンドは追わない!
業態には、やはり流行りすたりがある。近年であれば、ワイン人気も手伝って、気軽に飲めるバルスタイルの店が全国的にちょっとしたブームになっている。ただし、安易にそういったトレンドに飛びついて店を潰す人が多いことも、心に留めておこう。「絶対に儲かる業態など存在しません。業態によって儲かる、儲からないがあるのではなく、儲けられる人と儲けられない人の違いです。商売において、儲けられる人は、どんな業態でも確実に利益を出すものです」(河野氏)。
都会と地方の違いを知る!
儲かる店作りに不可欠な要素は、前述のように「経営者自身がその料理(ジャンル)を好きであること」。加えて「店の商圏にニーズがあること」だ。さらに、選択肢が多く、客側の好みも細分化されている都会と、1つの店でいろんなニーズに対応すべき地方とでは、エリアの性質がまったく異なることも意識して、店舗コンセプトを考える必要がある。一般的に、都会ではいかにターゲットを絞り込めるか、逆に地方ではいかに幅広い層を取り込めるかが鍵となる。業態には、やはり流行りすたりがある。近年であれば、ワイン人気も手伝って、気軽に飲めるバルスタイルの店が全国的にちょっとしたブームになっている。ただし、安易にそういったトレンドに飛びついて店を潰す人が多いことも、心に留めておこう。「絶対に儲かる業態など存在しません。業態によって儲かる、儲からないがあるのではなく、儲けられる人と儲けられない人の違いです。商売において、儲けられる人は、どんな業態でも確実に利益を出すものです」(河野氏)。
店舗コンセプト ②メニューを作る
まずメニューの主役となる看板料理を決めることが大事
店のイメージが固まったら、いよいよ飲食店の要であるメニュー作りだ。ここで意識したいのは、店のコンセプトをなるべく端的に反映した内容にすること。あれもこれもと欲張るのではなく、初めて来店した人がメニューを目にしたときに、店の売りがパッと理解できる構成を心がけたい。
このように店舗コンセプトと看板メニューは密接な関係にある。飲食店にとってメニューのリニューアルは永遠に続く課題だが、少なくともメインとなる料理についてはコンセプト立案の段階から同時に考えておくべきだろう。そうして軸が定まったら、あとはターゲットに合わせて、適宜膨らませていく。その際、いたずらに品数を増やし過ぎないことも重要だ。
「お客様は、メニュー数が多ければ喜ぶとはかぎりません。バリエーションを増やしすぎると食材のロスも多くなりますし、何より、店のコンセプトが見えにくくなりがちです。大切なのは、あくまでその店の売りは何なのかということ。メニューを検討する際には、常にこの基本に立ち返りながら考えることが大切です」。
具体的なメニュー構成を詰める際は、大まかなカテゴリーのほかに、お客様の食事の流れを想定してみるのも一手。居酒屋であれば「前菜、サラダ、メイン料理、シメの一品」というように、流れを追って組み立ててみる。そうすれば、比較的絞り込んだメニュー数でも、客に不足している印象を与えず、満足してもらえる可能性が高い。
「最近は二次会、三次会が減っていることもあって、1つのお店で麺類やご飯ものなどのシメまで楽しみたいという人は少なくありません。ところが、シメに看板メニューがあるという店舗は意外に少ないんですね。あくまで一例ですが、これは1つの強みになるはずです。実際、メニューのカテゴリーが食事の流れに沿って組み立てられているお店は、一つひとつの料理は手頃なのに、流れで注文が入るので客単価が高いというケースが多い。私自身、開店をサポートする際には、このような構成を強く意識します」。
最後に、自分のこだわりとターゲットのニーズがきちんと合っているか、再度冷静に確認してみよう。
「リスクを背負って出店するわけですから、最終的には自分が出したい料理で勝負すべきです。ただ、それが単なる腕自慢になってしまうと、店は長く続きません。開業を成功させるためには、職人的なこだわりの部分と、ビジネス的なバランス感覚との両方を働かせなければいけません」。
価格設定の際もFLを意識する
店舗コンセプト ③デザイン・内装を決める
予算オーバーしないためにも最初に使える予算を決める
店のイメージを大きく左右するのが、デザインと内装。コンセプトを明確に伝え、全体に統一感を与えるためにも、必要な箇所にはきちんとお金をかけるべきだろう。業務に不可欠な厨房設備も、後で買い足さなくて済むよう、最初の段階でまとめて投入すべき。とはいえ、無計画に希望を積み上げると、予算はすぐオーバーしてしまう。
「開業資金のうち、デザインや内装に使える額は最初に決めることが肝心です。金額の目安は、どういう事業計画かによってケース・バイ・ケース。後述しますが、一定期間に回収できる自信や根拠があればドンとかければばいいし、資金に余裕がなければ、居抜き物件で看板だけ替えて始める手もある。要は、予算全体の中で使える額を意識することです」。
さらに、限られた資金を有効活用するために、河野氏は「施工と設計は分け、設計は飲食店の実績があるデザイナーに依頼する」ことを勧める。
「デザイン料はかかりますが、施工業者のコーディネートや金額交渉まで引き受けてくれる人なら、結果的に安くあがるケースも多い。逆に一番マズイのは、飲食店の経験の乏しい業者に、設計を含めて依頼すること。『厨房の床に勾配を付け忘れたため水が流れず、工事をやり直した』という事例もしばしば耳にします。経験のあるデザイナーに入ってもらえば、この種のリスクは避けられるでしょう」。
2つの動線に注意
店舗コンセプト ④人材を集める
初出店では料理人は雇わず、まずはスモールビジネスから
接客サービスの面で、店のコンセプトを直接表現するスタッフも、とても大事な要素であることは言うまでもない。では、開店スタッフはどのような考えのもと、集めればいいのだろうか。事業の規模によって様々なケースが考えられるが、「基本的に1店舗目は、まず小さな商売からスタートするのが得策」だと河合氏は強調する。
「人を雇うことのリスクは、想像以上に大きいもの。開業・出店はしたけど想像以上に暇だったというような場合でも、簡単に辞めてもらうわけにもいかず、ずっと経営を圧迫します。あくまでも一般論ですが、最初からアルバイトを何人も雇うようなビジネスはお勧めできません。店が軌道に乗るまでは、例えば『自分と家族+パート1~2名』などという風に、いかなる状況にも対応できるバッファ(余白)を作っておくことが大切です。身内なら無理もききますし、いろいろな局面で保険になってくれるはず」。
「その料理人が急に病気になったり、辞めてしまったときのことを想像してみてください。あるいは『僕がいなくなったらどうしますか?』と条件アップを迫ってくるかもしれない。道楽ならともかく、生活がかかった仕事で、自分以外の誰かに経営の主導権を握られる商売にしてしまっては絶対にいけません。もし、厨房の経験が乏しい場合でも、最初は、頑張ればなんとか自分で調理ができる業種・業態での出店を考えるべきでしょう」。接客サービスの面で、店のコンセプトを直接表現するスタッフも、とても大事な要素であることは言うまでもない。では、開店スタッフはどのような考えのもと、集めればいいのだろうか。事業の規模によって様々なケースが考えられるが、「基本的に1店舗目は、まず小さな商売からスタートするのが得策」だと河合氏は強調する。
物件・立地
①物件を探す
出合いの要素が強い物件選び。腰を据えて探すことが大切
「独立開業を目指す人がまず考えなくてはいけないのが、業態と立地です。どういう店を、どこでやるか。この2つを決めることで店舗のコンセプトが固まり、すべてが具体的に動きだします。ただ物件は、やはり出合いの要素も大きい。地元の不動産業者を地道に回っても、希望している物件が見つかる保証はありません。掘り出し物に出合った際には、希望のエリアと多少違っても、検討する柔軟さを持っておく必要があるでしょう」。
これを前提に、まずは物件について考えてみよう。情報の入手方法は、①出店したいエリアの不動産業者を回ってみる、②Webで探す、③実際にその地域を歩いてみる、などが一般的だ。最近では、開業希望者向けのメールマガジンなども充実している。
「よい物件にはいつ巡り合えるかわかりません。開業を決めたらすぐ情報を集め始めて、コンセプト設計など他の作業もしながら気長に探すのが得策。そうやって多くの物件に当たりつつ、あとは前述したように、いろいろな繁盛店を訪れることです。この2つを並行して続ければ、自分なりのイメージや相場観ができてくるはず」。
居酒屋やバーを開くなら、先にビールメーカーを決めて、そこから優良物件を紹介してもらう手もある。立地条件のいい物件情報は、まずはじめにビール会社や大手の外食チェーンに流れることが多いからだ。街の不動産業者やWebで見つかるのは、彼らのフィルタを一度通った情報と思っていい。「ビールメーカーとつながりがなければ、付き合いのある酒屋に仲介を頼んでみるのも一つの方法。ただし、大手がチェックするような一等地の物件は、家賃もそれなりに高い。初めて出店する人は、まず安い物件からスタートし、二等・三等立地で顧客を開拓する方がいいでしょう」。
月々の家賃の目安は、売上の10%以内。都会と地方で若干差はあるが、この比率は基本、変わらない。言い換えれば、家賃の10倍売り上げる自信がなければ、その物件は借りられないということ。例えば、家賃が20万であれば「この立地条件で毎月200万以上の売上が立つか?」と、シミュレーションしてみるとわかりやすい。背伸びは命取りになるので、要注意だ。
「周辺環境の良し悪しから建物の状態、階数、店舗面積やフロア形状、電気・ガス・水道の容量、厨房はどの程度の工事が必要か、など――。居抜きにしろ、スケルトンにしろ、物件を見るポイントは多岐に渡ります。もちろん業態によっても変わってくる。ただし、どんな店舗を出店する場合にも気を付けたいのは視認性、お客様目線からの見通しです。人の目に留まらなければ、商売は何も始まりません。店の内側はもちろん、店や看板が通りからどのくらい、どんな風に見えるのか、必ずチェックしてください」。
物件はココを見る
居抜きとスケルトン それぞれの特長は?
居抜き
メリット
前のテナントが残した内装や設備などを、そのまま使用できる。初期投資を安く抑えられるうえに、開店までの施工期間も短い。前テナントの顧客を引き継げる場合も。
デメリット
内装やレイアウト、調理機器などが自分のイメージ通りではなく、中古なので故障のリスクも高くなる。最悪の場合、オープン当初から営業に支障が出てしまうケースも。
スケルトン
メリット
床・壁・天井・内装など何も施工されていないスケルトンは、内部をある程度自由にレイアウトできる。厨房も含め、より自分のイメージに近い店を作れるのが利点。
デメリット
内装・外装から水回りの工事まで、基本ゼロから行わないといけないため、初期投資額が高くなりがち。施工期間も長い。退店の際には、元の状態に戻して返すのが一般的。
②エリアを把握する
エリアの特性を見極めて需給ギャップを読む目を養う
店の運営を考えるうえで、立地という要素も非常に重要だ。例えば、開店後に思ったほど売上が上がらなかった場合、メニューや内装を一新することはできても、場所は簡単には変えられない。出店エリアはどのように選ぶべきなのか。河野氏は「まず土地勘があり、家賃相場も高くないエリアを優先すべき」とアドバイスする。
「初めて店を持つ場合、多くの人はまず大まかにエリアを定め、1つずつ物件に当たっていくはずです。その際、土地勘の有無は非常に大きい。物件は街全体の中でどのあたりに位置するのか。周囲にはどんな人が住んでいて、人の流れはどうなのか。もちろんリサーチすればわかりますが、商売はあくまで確率論。少しでも率を上げるという意味では、よく知ったエリアを狙うのが合理的です。また、前述したように家賃は売上の10%以下に抑えるのが基本。そういう意味では、競争が激しい都心部より、比較的家賃の安い郊外や地方で新しいニーズを探した方が成功確率は上がるかもしれません」。
エリアの特徴をより詳しく把握するには実際に足を運び、その地域にある繁盛店に入ってみるといい。「なぜこの場所でこの店が流行るのか」「どんな客層が来店しているのか」などに注意しながら観察してみると、いろいろな発見があるはずだ。と同時に、駅からの人の流れ、平日と土・日曜日の違いなども最低限チェックしておく。そのうえで「需給のギャップに注目することも大切」だと、河野氏は言う。
「立地に合わせて業態を考える場合、『そこにないもの』を探すと成功率が上がります。パン屋さんのない商店街においしいベーカリーを開けば、大きな成果が期待できますよね。このように地域の潜在ニーズを探りつつ、自分のやりたい業態との接点を見つけるのも、1つの考え方です」。
河野氏によると、狙い目は「都心への長距離通勤者が多い郊外」。多様な店があり、飽和状態の都心部に比べて、比較的安いコストでビジネスが展開できる可能性が高いという。
「そういうエリアでは、収入も食への関心もある程度高い人が多く住んでいるわりに、飲食店の選択肢がまだ少ない。最近は会社帰りに気軽に立ち寄れるワインバーなど、需給ギャップを突いて繁盛している店も少なくありません。そういった店では、週末はファミレス代わりに使ってもらえるように子供用のメニューも用意するなど、都心とは違う工夫もしています。そうやって立地と業態のマッチングを図ることも、成功への近道です」。
主な立地の特徴を知る
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駅前
サラリーマンから学生、シニアまで、幅広い層の人が集まり、帰宅前に利用する人も多い。賃料は比較的高め。 -
繁華街
平日・週末ともに人が集まりやすく、アルコール需要も高い。夜間の売上も期待できる反面、競合店も多い。 -
商店街
買い物に来る主婦など、中高年層も多く、地元住民がメインターゲットのため、地域に溶け込む努力が必要。 -
オフィス街
ビジネスマンやOL などビジネス層がメイン、ランチや飲み会需要などが期待できる。土・日、祝日は客足が鈍る。 -
住宅街
落ち着いた環境で静かに営業できる半面、地域によっては看板などが出せないケースもある。口コミが重要。 -
郊外
近郊都市まで長距離通勤する人が多く、ファミリーがメイン。車での来店も多いため、必然的に商圏も広まる。 -
観光地
幅広い年齢層の旅行客がターゲット。観光スポットがあれば集客が期待できる反面、繁忙期が限定される傾向も。
商売分析のポイント
【繁盛店を見る!】
その立地の客層、ニーズを知るには、近所の繁盛店を見るのが近道。競合店の数も要確認。
【駅からの人の流れを見る!】
人の流れから外れていては、集客は期待できない。平日と休日の両方をチェックすること。
【何がないかを見る!】
ニーズはあるのに存在していない業種・業態を見つけられれば、成功率はぐっと高くなる。
開業資金・運営費
①資金を調達する
初出店だからこそ余裕が大切。出店エリアの公的制度も確認
開業にあたり、すべて自己資金でまかなえる人はそう多くない。貯金や親族からの出資をベースに、借り入れを依頼するケースがほとんどだろう。その際、まず利用すべきは日本政策金融公庫などの公的融資機関だ。窓口を訪れれば、事業計画書の書き方なども含めて、いろいろ教えてくれる。また自治体によっては、独自の起業支援制度を設けているところもある。補助金や助成金など、出店する地域の公的制度をきちんと調べておくことが大切だ。
「金融機関が貸してくれるのは、どんなに多くても自己資金の倍。最低でも開業費用の半分は自分で用意しておかないと店は始められません。必要となるのは①家賃、契約金、仲介手数料などの店舗取得費用と、②内外装費、③調理器具や備品などの設備費、そして④当面の運転資金。業態や立地によって額は異なりますが、融資も含めて最低でも500万くらいは用意したいところですね。初めての出店だからこそ、余裕を持った運営に専念できる環境が重要。そのためにも、確実な計画を立てる必要があります」。
開業時の「運転資金」に注意
運転資金 + ①店舗取得費用 ②内外装費用 ③設備費用 = 開業資金
②運営費を想定する
投資額と利益の関係に注目。計画段階で儲けを見据えよう
「開業前の準備段階でもっとも大切なのは、月々の利益や運営費を冷静に見積もり、確信できるプランを立てること。言い換えれば、計画段階からしっかり儲けを見据える厳しい姿勢です。もちろん、そうなるかどうかは、やってみなければわかりません。ただ計画があればこそ、予想外のことが起きても軌道修正が可能になる。冒頭で『毎年たくさんの店がオープンするが本当の意味で成功するのは1%程度』と述べましたが、勘と度胸だけでは到底その1%には入れません」。
計画段階で儲けを見据えるとは、一体どういうことだろうか。大きな指標となるのが「利回り」だ。これは投資に対するリターンの割合。利益率、回収率と言い換えてもよい。
「まず予想客数と客単価をもとに、毎月の利益を想定します。この利益とは、売上から経費を引いたもの。売上が大きくてもFLRコストがかかりすぎて手元に資金が残らなければ、儲けは出ません。こうして予想した年間利益を開業費用(投資)で割ったものが利回り。目安である利回り20%なら5年、30%であれば約3年で投資を回収できます。逆に、計画段階で利回り20%が難しそうであれば、出店は諦めた方がいいかもしれません。失敗しないためにも、運営コストと利益をきっちり見積もることが重要です」。
「利回り」を管理する
利回り = 利益 / 投資
年間利益を開店にかかった投資で割ったのが利回り。回収の目安は、3~5年。この数字を意識しているかどうかで運営は大きく変わる。
回転率 = 売上 / 投資
利益率 = 利益 / 売上
飲食店経営で難しいのは、一見、忙しそうな店が必ずしも儲かっている店とは限らないこと。売上は多くても経費がかかりすぎていたり、最初の投資額が大きすぎると儲けは残らない。店を継続するために必要なのは利益。売上だけに囚われず利回り、利益率(売上に対する利益の割合)、回転率(投資に対する売上の割合)など、多様な視点で考えたい。
飲食店開業に関する疑問や不安、具体的な相談事があれば、ぐるなびにお気軽にご相談ください。
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