2013/11/29 繁盛の黄金律

店長には売上責任も利益責任もない

店長の責任は、「客数」と「客単価」だけ‐それぞれの店には、運営の責任者である店長がいるわけですが、経営者が店長たちに要求してはいけないことがあります。それは、売上や利益アップの責任です。

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Vol.27

店長の責任は、「客数」と「客単価」だけ

今回は、複数の店舗を経営するオーナーに向けてのメッセージです。私から見ると、やってはいけないことをやり過ぎています。もともと優れたものを持っていたのに、経営力のなさから転落していくケースがあまりに多いのです。それぞれの店には、運営の責任者である店長がいるわけですが、この店長たちに要求してはいけないことを要求しているのです。

まずは、各店長に売上をアップする責任を負わせること。これはやってはいけません。また、店長には利益を出す責任も負わせてはいけないのです。店長が負わなければならないのは、客数を増やす責任だけです。確実に来店客数を伸ばしている店長、これがいい店長です。店長の評価は、客数を伸ばすこと、そして客単価を守ること、この2つだけです。

売上の責任を負わせると、無理に客単価を上げる行動にでます。また、あまりお金を落とさない客を粗略に扱ったりします。常連客というのは、店の使い方の上手な客です。つまり無駄な金は使いません。一番大事なお客様を、店長は大事にしなくなります。平均客単価よりもはるかに高い金額を使うお客様というのは、店のフォーマットを壊すエイリアンのような存在ですから、危険なのです。売上責任を課せられた店長は、こういうエイリアンを大事に扱ってしまい、店を破滅の道に向かわせます。だから、店長には売上責任を課してはなりません。

利益責任を課すのはもっと危険です。飲食業というのは、店側で利益調整ができてしまう、極めて危険なビジネスです。材料の質を落としたり、量目を減らしたりすることで原価率は劇的に下がります。また、従業員の数を減らすことで、人件費率もあっという間に下落します。これで短期的な利益は確保できてしまいます。

これらが地獄への第一歩であることは、誰が見ても明らかですね。商品の中身と、調理サービスのレベルがダウンするのですから、店の提供する価値が下がり、当然客数が落ちていきます。こんなバカなことを許す経営者がいるはずがないと思うでしょうが、結構いるんですね。

原価率、人件費率が急落したら要警戒

やがて客数は徐々に下がります。一度にドーンとは落ちないものです。人気が下落している事実には目が向かわずに、利益が上がっているという目先の変化に目を奪われて、経営者は前述の戦術を使った店長を評価してしまうのです。商品力が落ち、サービスの質が低下している。こんなことは店を注視していれば一目瞭然なのに、利益増の魅力には抗しきれず目が曇ってしまうのですね。

もっと巧妙な手を使う店長もいます。巧妙な店長は、原価率の低いメニューを強調したり、推奨したりして注文数を増やし、全体の原価率を下げます。このやり方は、利益を適正に上げる技術として大事なことなのですが、店長がただ原価率を下げるためだけにやってはいけません。売れ筋が変わってしまい、店のフォーマットそのものが崩れます。

また、キッチンの(やってはいけない)合理化を進める店長も出てきます。開店前の仕込み、作り置きなどに調理時間を割(さ)けば、営業時間中の人件費は下がり、あまつさえ提供時間も早まり、客席回転率が上がります。有能な店長は、ここに手をつけます。これ自体は、店長として追求しなければならないテーマなのですが、合理化によって商品価値が下落するのであれば「NO」です。

鮮度が落ちたサラダ、電子レンジで再加熱したメニュー群、開店前にまとめて淹れたコーヒー。出してはいけないメニューで評判を落とす店はゴロゴロしています。それを回避するためには、営業前にやっておく仕込み、作り置きの作業と、注文を受けてから動き出す作業の、“腑分(ふわ)け”(分別)が必要です。これは、経営者の仕事です。店長任せにしてはいけません。

その腑分けの基準は、商品のスタンダード(標準)です。どういう状態で提供しなければならないか、個々のメニューにスタンダードが明確に記され、それが店長以下の全従業員に徹底されていなければなりません。商品のスタンダードを毀損する合理化は厳罰ものです。

客数は、お店の支持率を表す唯一のバロメーターです。客数を伸ばしている店長だけが、商品の質、サービスのレベルを落とさずに、つまり真っ当な営業活動をマネジメントして、支持率を高めているのです。

原価率が急落したり、人件費が急に少なくなったら、要警戒です。目先の利益確保のために店長が禁じ手を使っている可能性が大です。間違っても評価をしてはいけません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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