2013/12/04 繁盛の法則

ワインと料理を気軽に楽しめる立ち飲み式のワインバーとは

コストパフォーマンスの高い「富士屋本店 ワインバー」(東京・渋谷) に学ぶ‐立ち飲みのワインバーとしては先駆者的な存在。ワインは約150種をそろえるほか、ワインに合う料理を強化して繁盛している。

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富士屋本店 ワインバー

渋谷駅から徒歩3分ほどのビルの1階という立地。13坪の店内で約50人、店前のスペースで約10人が利用できる

Key Point

  1. 約150種のワインを手頃な価格で提供
  2. ワインに合うフード約60品目を開発
  3. ワインと料理のマリアージュを気軽に体験

酒類の小売り店を立ち飲みワインバーに転換

東京・渋谷駅から徒歩3分ほどの渋谷区桜丘町に2004年にオープンした「富士屋本店 ワインバー」は、立ち飲みのワインバーとしては先駆者的な存在である。店舗規模は13坪で、店内では約50人、店前スペースを合わせると最大60人ほどが利用できる。

ワインは国産も含め、世界の産地から約150種をそろえている。ボトル価格は1900円~1万円で、マニアックな高級ワインは扱っていない。逆にグラスワイン(500円~)は豊富にそろえ、赤10種、白10種、スパークリング2種を日替わりで用意している。しかも、約60品目のフードメニューは、1品の量は少ないものの、150円~と手頃な価格とし、気軽にワインと料理のマリアージュを楽しめる。また立ち飲みではあるが、10種以上そろえたワイングラスを、ワインの個性に応じて使い分けており、正統派の姿勢を貫いている。

経営元は創業120年の老舗酒販店である株式会社富士屋本店で、ワインバーの店舗は以前、同社の酒類小売店だった。酒販業を取り巻く環境の変化に伴い、ワインバーへの転換を図ったもので、店内のワインセラーは、小売店の頃の名残りでもある。また、同ビルの地下には、創業60年の立ち飲み店「富士屋本店」があり、昔ながらのスタイルの大衆居酒屋で、周辺の常連客で連日賑わっている。同社では、立ち飲み店の富士屋本店で築いてきた基盤をもとに、ワインバーに続いて、2009年に同じく桜丘町に「富士屋本店 ダイニングバー」、2010年に三軒茶屋に「富士屋本店 グリルバー」を出店した。同社としては、渋谷近辺の料飲店への酒類の業務用卸は続けながら、酒販業の強さを活かした飲食事業を着実に拡大している。

フードメニューはフレンチやイタリアン、スパニッシュをベースに、ワインとの相性を考えて開発。手前が「牛バラ肉の赤ワイン煮」(400円)、左が「ロシア風ポテトサラダ」(150円)、右が「鶏レバーのムース」(300円)。グラスワインは日替わりで22種をそろえ、気軽にワインと料理のマリアージュを楽しめる

ワインに合う料理の開発で客数の増加に転じる

しかしながら、ワインバーのオープン当初は、ワインを立ち飲みするというスタイルが珍しく、同時にフードは簡単に出せるものがほとんどだったため、客数の少ない状態が続いた。3年目からフレンチやイタリアンの料理経験者が入り、ワインに合う料理を工夫してフードメニューを強化したところ、徐々に客数が増えはじめた。今ではほとんどの客が注文する「ロシア風ポテトサラダ」(150円)や、赤ワインをたっぷり使い、牛バラ肉を柔らかく煮込んだ「牛バラ肉の赤ワイン煮」(400円)などが人気商品となっている。

さらにここ1~2年は、女性の一人客や女性だけのグループの来店も目立って増えてきた。以前は7~8割が男性客だったが、現在は女性客が4割ほどを占めるようになっている。また、まず地下の富士屋本店にサッと立ち寄り、その後、ワインバーでゆっくりワインを楽しむというように、両店を使い分ける常連客も多い。ワインバーは、立ち飲み店としては比較的滞在時間が長く、平均で1時間半~2時間ほど、なかには3~4時間過ごしていく客もいる。

客単価は2300円で、ドリンクとフードの売上比は7対3。ワイン以外の飲みものはビールとソフトドリンクしか置いていないという戦略もあり、ドリンク類の中ではワインの売上がじつに8割を占めている。現在はオープン時間前からお客が訪れる日も多くなり、日商25~30万円を上げる繁盛店となっている。

同店が立ち飲みスタイルのワインバーのパイオニアとして、常連客も新規客も幅広く誘引している要因は、以下のようになるだろう。

1業務用酒販店の基盤を活かし、約150種と豊富なワインを手頃な価格で提供している。
2フレンチやイタリアンの料理人を擁し、ワインに合うフードメニューを約60品目そろえている。
3日替わりで22種そろえているグラスワインと、少量・低価格のフードで、ワインと料理のマリアージュを気軽に楽しめる。

現在、同店の店長を務める新井康哲氏は、以前からワイン関係の仕事をしていたが、同店を訪れた際、「ワインをこんなに楽しそうな感覚でいろいろなお客様が飲んでいるお店は他にないな」と驚き、2008年に入店した。同店に勤務しながらソムリエの資格を取得し、2011年に店長に昇進。今はワインの仕入れも任されている。ワインはあまり飲んだことがないという初心者には、フルーティで飲みやすいタイプを勧め、銘柄を指定してくるワイン通には、在庫がなければ似たタイプを提案するなど、自身の知識を活かして接客に当たっている。

「立ち飲みでワインを楽しむお客様も増えてきているので、気軽にいろいろなワインを楽しめる雰囲気を大切にしていきたいです。うんちくを語るわけではないですけれど、お客様それぞれが、私はシラーが好きとか、私はカベルネが好きといった、自分好みのワインを当店で見つけてくれるようになるとうれしいですね」と新井氏は笑顔を見せる。

住所
東京都渋谷区桜丘町2-3 第二富士商事ビル1F
営業時間
17:00~22:30(L.O. 土曜~21:00L.O. )
定休日
日曜・祝日・第4土曜