2014/01/08 繁盛の法則

不人気なご当地うどんを人気商品に育てあげた手法とは

三重県から進出した「二代目 甚八」(東京・本郷)に学ぶ‐三重県鈴鹿でうどん店を展開するヱビス.カンパニー.の東京進出1号店。知名度もなく人通りも少ない立地ながらランチタイムには行列ができる。

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二代目 甚八

間口の広さを活かして老舗風の趣を漂わせる外観。人通りこそ多くはないが、道路からの視認性は高い。『本気のうどん』としたためた墨痕鮮やかなのれんも印象的

Key Point

  1. 地元の食材や食文化にこだわった商品開発
  2. 当地の味を独自の工夫で価値アップ
  3. 多様な需要に対応できる店作り

三重県の味を活かしたうどんで東京進出に成功

三重県鈴鹿市を本拠に、県内に3店舗のうどん店を展開するヱビス.カンパニー.の東京進出1号店が「二代目 甚八」である。住居や中小事業所が多い本郷3丁目の裏通りに2010年12月に開業。知名度もなく、本郷通りや春日通りほどの人通りもない立地への出店ながら着実に客を集め、ランチタイムには店前に行列ができるほど、人気のうどん店となっている。

看板のうどんには鈴鹿産小麦あやひかりと北海道産小麦きたほなみをブレンドして使用。三重県内ではセントラルキッチンである麺工房で製造して店舗に配送しているが、同店の場合は毎日粉から製麺。讃岐うどんと同じく、打ちたて・茹でたてで提供している。

レギュラーメニューは「謹製伊勢うどん」(400円。玉子のせ+50円、肉のせ+260円)、「釜玉」(460円)、「野菜天かけうどん」(680円)など9種類。さらに、ディナーメニューとして「肉のせ釜玉」(720円)、「豚汁つけめん」(780円)、「お野菜天カレーうどん」(880円)などがある。サイドメニューとしては天ぷら4品、伊賀米のおにぎりとご飯5品のほか、2012年12月からは「お野菜ブッフェ」を導入。三重や国内の産地から直送された野菜や、野菜料理を日替わりでラインナップしたもので、うどんだけでは不足しがちな野菜を摂取してもらうのが狙い。ブッフェ単品の注文だと450円だが、うどんを注文すると180円という破格の価格になる。

1人前の麺の量は茹で上げで400gとかなりのボリューム。人気の「野菜天かけうどん」の場合はこれに130g分の野菜を使ったかき揚げがつき、「お野菜ブッフェ」と組み合わせれば男性の食事としても十分なボリュームだ。もっと食べたいという場合は+120円で大盛(500g)に、これでは多いという場合は50円引きで小盛(300g)、100円引きでハーフ(200g)にすることもできる。

手前から時計回りに、オリジナルのたまり醤油をかけた「謹製伊勢うどん玉子のせ」(450円)、伊賀米の炊き込みごはんを使った「味ご飯のおにぎり」(150円)、「お野菜ブッフェ」(180円。うどん注文時)。うどんは並盛りで400gあり、食事として十分なボリュームがある

うどん本来のおいしさをギリギリ残した伊勢うどん開発

一番人気は先述した「野菜天かけうどん」だが、今やそれに迫る勢いなのが「謹製伊勢うどん」だ。伊勢神宮の参拝客に提供されたことから定着したご当地うどんで、長時間茹でてくたくたになった麺にたまり醤油をかけて食べる。まったくコシを感じさせない独特の歯ごたえのため、好き嫌いがはっきり出てしまううどんだ。同店の責任者である販売企画部コンセプトマネージャーの森下愛吾氏によれば、「数あるご当地うどんのなかで一番人気のないうどん」だという。

これを人気メニューのひとつにまで育てたのが同店ならではのアレンジ。森下氏はこう説明する。「伊勢うどんの茹で時間は1時間程度と言われていますが、これではうどん本来のおいしさを失ってしまいます。うちでは茹で時間をコントロールしてうどんとしてのおいしさを感じるギリギリの柔らかさに仕上げています。タレも鈴鹿の味噌蔵で醸造されるたまり醤油に、独自のアレンジを施したオリジナル。伊勢うどんは観光客の食べるものというのが地元の考え方で、県内でも食べる人はほとんどいないのですが、地域の食文化のひとつとしていろいろな方に食べていただきたいと工夫しました」。

こうした努力に加え、2013年は伊勢神宮の式年遷宮ということで伊勢への注目が集まったことから、同店の伊勢うどんに対する人気も急騰。すでに看板メニューとも言うべき位置付けの商品へと成長した。

同店が知名度の低い東京に定着できた要因は、以下のようになるだろう。

1三重県の食材や食文化にこだわった商品作り。
2ご当地うどんをそのまま提供するのではなく、独自の工夫で価値をアップしている。
3グループでの利用にも対応できるゆったりとした店作り。

店舗はおよそ45坪で客席数50席とゆったりした空間になっており、テーブルもいろいろな形に配置できるのでグループ客にも対応可能。常連客のなかには20人近い人数で訪れるケースもあるという。都内でこれだけの規模を有するフルサービスうどん店でありながら、客単価は約700円と手頃な設定。だからこそ1日約300食分を販売する安定した売上を上げているのだ。

ただし、その7割は昼に集中しており、夜の需要はまだ開発の余地はありそうだ。同店もこれを意識しており、先に挙げたディナー向けメニューに加えて、2012年夏には三重県を代表する名産品である松阪牛を使った「牛しゃぶ肉うどん(お野菜ブッフェ付き)」(920円)というごちそう感の高い商品を投入。さらに、鈴鹿の地酒のラインナップの強化も進めており、夜の需要開拓を進めれば、さらなる売上アップも期待できる。

同社では2018年までにニューヨークにうどん店を出店したいと計画しており、東京進出はそのための足がかり。2014年には都内での展開にも着手し、次のステージを目指すという。

住所
東京都文京区本郷3-22-9
営業時間
11:00~21:00(オーダーストップ)
定休日
大型連休