2014/01/31 繁盛の黄金律

メニュー半分、キッチン半分を目指そう

メニューの多さは「弱い店」の証拠‐経営者が常に考るべきこととして「メニューを半分に減らせないか」があります。そこそこ売れているから減らせないというのは、明確な売れ筋がないということです。

URLコピー

Vol.29

メニューの多さは「弱い店」の証拠

「放っておくとメニューはどんどん増えていく」という話は前にもしましたね。経営者として常に考えておくべきことのひとつは、「メニューを半分に減らせないか」ということです。

「そうはいきませんよ。どのメニューもそこそこ売れていますから」と反論する人もいますが、それは、ほとんどのメニューがさほど売れていないと言っているようなものです。明確な売れ筋がないということです。

メニューが多すぎる店の弱点を挙げてみると、

  • 食材が多すぎて全体の鮮度が落ちる。廃棄も多く、原価率が上がる。
  • 仕込みがしづらく、営業時間内での作業が増え、提供時間が遅くなる。
  • 調理の練度が上がらず、安定した品質の商品が出せない。
  • 多種の厨房機器を必要とし、投資・維持のコストがかかる。
  • 広いキッチンスペースを必要とし、厨房の人件費が下がらない。水道光熱費も高止まりする。
  • 専門性がないので、お客は来店動機を絞りきれず、競争力が上がらない。

と、悪いことだらけです。

メニューが多すぎるということは、「売り物がない店です」と世の中に公言しているようなものです。とはいえ、メニューが多すぎるといっても、よい多さと悪い多さがあります。品種が多いのが悪い多さで、品目数が多いのがよい多さです。

「品種の多さ」をわかりやすい例で言いますと、和食・洋食・中華を全部カバーしている店を想像してみてください。そんな店があったら、厨房は大混乱ですよね。でもひと昔前は、こういう店がありました。デパートの総合食堂がそうでしたし、地方都市の駅前には“大型お好み食堂”というものがありました。何でもアリの店でした。時代がそういうものを求めていたのです。これは極端な例ですが、まったく異質の品種が紛れ込んでいる店が多くあります。その異物メニューは、メニューから取り除かなければなりません。数品でも売れているとなかなか除去できないものですが、蛮勇を持ってカットしましょう。

カットの基準は、特別な食材、特別な調理機器、特別な場所、特別な仕込み、特別な調理能力を要するメニューかどうかです。特に、そのメニューが存在することで、他のメニューの調理から提供までの流れを止めてしまうものです。実際に調理を担当するシェフにとっては、大きなストレスになっているメニューがあるもの。「これさえなければ、どんなにラクになるか」と思われているメニューは、原則としてカットしなければなりません。

キッチンが大きいから、人件費も水道光熱費も下がらない

メニューに関して、よい多さは「品目が多いこと」です。スパゲティ専門店で、スパゲティのメニューが増大することは、全然構わないということです。それが品目増です。この専門店でラーメンを入れたらとんでもないことになりますね。これが品種増です。ジャンル(メニューの守備範囲)が固定していて、その中でメニューを増やしても、新しい厨房機器や別の調理能力を必要とするわけではありませんから、これはよいのです。そこに例えば中華風、和風のスパゲティを入れても、基本調理は変わらないのですから問題ありません。専門店としてのメニュー幅が広がっただけなのですから。ここまでの持論をまとめると、「品種は絞り込め。品目は増やせ」です。

「メニューは半分を目指せ」といいましたが、同時にキッチンも半分を目指さなければなりません。キッチンの圧縮が、これからの競争力アップの肝となるのです。キッチンが大きいと、余計なメニューが増えていくものです。自店舗のキッチンが、最初からコックピットのようだったら…と想像してみてください。配置できる人員は最小限になりますし、作れるメニューの幅も当然限られます。

また、営業時間中に仕込み作業をするわけにはいきませんから、時間帯別の厳密な作業チャートが作られなければならず、場合によっては一次加工場を別に作ることも考えなければなりません。調理担当者も、複数の調理を同時に行わなければなりませんし、そうなれば、それを可能にするような機器の配置がなされていなければなりません。

手足を縛られた状態に見えますが、これは経営の観点から見たら、理想のキッチンではありませんか。これを極限まで追求したビジネスがファストフードです。ファストフードとは、ひとつの強力な商品が堅牢でコンパクトな仕組みの中で高速回転するビジネスを言うのです。これにより、従来の飲食業では考えられない高次の坪売上と生産性(収益力)を獲得したのです。

何もファストフードを目指す必要はありませんが、今よりも高い収益力は目指さなければなりません。結局、競争力は売上ではなくて収益力(儲ける力)ですからね。その大前提が、メニューの絞り込みとキッチンのコンパクト化です。そして、絞り込みをしなければ、けっして強い商品は生まれません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

ぐるなび通信をフォローする