Vol.30
値段を勝手に決められるのが、飲食店の特徴なのだが…
飲食業の特徴のひとつに、「値段を勝手に決められる」ということがあります。このようなビジネスは、あるようで結構ないものです。それができる理由はただ1点、飲食業が製造小売業だからです。自分で作って自分で売る。そして、そこにサービス業の要素が加わるのですから、極端な話、原価1円のものを100円で売ってもかまわないのです。その結果、一つひとつの商品の値幅が非常に広くなります。
260円のもりそばがあれば、1,500円のもりそばもある。一杯100円のコーヒーがあるかと思えば、1,000円のコーヒーもある。1貫150円の中トロの寿司があるかと思えば、2,000円の中トロもある。880円のステーキがある一方で、2万円のステーキもある。驚くべき値幅の広さですね。そしてそれぞれの価格帯にそれぞれの顧客(市場)が存在するのですから、実におもしろい商売です。価格は店主が独断で決められる。その価格に見合う価値があれば、顧客が生まれる。なければ、見向きもされない。自由でもあり、シビアでもあるわけです。
もっとも、顧客の数(市場規模)は、価格が低いほうが多く(大きく)なります。簡単な話です。100円コーヒーを求めるお客は無限に近くいますが、一杯のコーヒーに1,000円払う人は限られているということです。当然ですね。
そして、ここからが本題です。商品には標準価格というものがあります。その標準価格についての明確な意識を持たないと、自由勝手に決めた価格が大ハズレに帰するということになります。この標準価格というものがクセ者で、時代によって大きく変動します。そして、1990年代のバブル崩壊以来、標準価格は下落の一途をたどっています。
現在の標準価格を決めるリーダーは、大手チェーングループだと言ってもよいでしょう。「チェーン店と俺の店を一緒にするな」とお怒りの店主さんもおられましょうが、標準価格との「差の説明」が十全に受容されたときにはじめて、顧客というものが生まれるのです。
標準価格はまだ底に貼りついている
まず、標準価格というものを、列挙してみます。
- コーヒー 100円(マクドナルドとセブン-イレブン[が作った。以下同])
- ハンバーグ 480円(低価格ファミリーレストラン)
- スパゲティ 399円(サイゼリヤ)
- ラーメン 409円(幸楽苑)
- ステーキ 890円(低価格ファミリーレストラン)
というように、どのメニューも信じられない安さです。ここに挙げたものは、大手チェーングループによって標準価格が安くなった代表的なものです。ただ、何もこの価格で提供しなさいと言っているのではありません。コーヒーを1,000円で出してもいいのです。繰り返しになりますが、900円の価格差を、商品力・店舗力・サービス力などを総合した「価値」として納得してもらうことができるかどうかです。
それには、値付けが店主の独りよがりであってはなりません。あくまでも来店客が認める「差」でなければなりません。何よりも、日本人に刷り込まれている標準価格が、驚くべき低価格であることを認識すべきです。それだけ「差の説明」が難しい時代になったのです。
20年前は、客単価3万円以上のフランス料理店やイタリア料理店はざらにありましたが、そんな強気の商売をしている店は、ほとんどなくなってしまいましたね。これも今は、フレンチならば5,000円前後、イタリアンならば3,000円前後というのが標準価格になってしまったからなのです。価格が底割れして、ようやく反騰の兆しが見えはじめているのが現状です。
「業種」と「業態」という言葉がありますが、業種というのは商品の中身です。うどん店とか、スパゲティ店とか、うなぎ店とか、焼鳥店とかですね。それに対して業態とは、商売のやり方を指します。100円のコーヒー店と1,000円のコーヒー店とでは、業種は同じでも業態はまったく違います。また、宅配専門というのも、業態的発想ということになります。
商売のやり方(業態)は千差万別でありますが、どんなやり方をするにも、標準価格が大前提になることを忘れてはいけません。