2014/05/30 繁盛の黄金律

「ストコン」(店舗視察)を怠ると、店の進化が止まってしまう【後編】

興味がわいた店、学ぶべきものがたくさんある店には、何度でも足を運ばなければなりません。支店があったりチェーン店であれば、別の店にも行くべきです。ある経営方針・理念で貫かれています。

URLコピー

Vol.33

ベンチマークする店は、時間を変えて、曜日を変えて、繰り返し訪店しよう

今回は、前回からのテーマ「ストア・コンパリゾン(store comparison)」(店舗視察)の後編です。

訪れる店は、一度行っただけで全部わかったような気になってはいけません。「群盲象をなでる」ではありませんが、その店のある一面を知ったというだけのことです。興味がわいた店、学ぶべきものがたくさんある店には、何度でも足を運ばなければなりません。訪門するたびに新しい発見をするはずです。また、その店が支店を持っていたり、チェーン店であったりしたら、別の店にも行くべきです。支店やチェーン店は、ある経営方針・理念で貫かれています。また、「クセ」があります。それらを体感(経験)することが大事なのです。

昼と夜、あるいは21時以降と、異なる時間帯に行く。また、平日、休日と、曜日を変えて行く。これも大事です。その店のゴールデンタイムに行くのは当然のことですが、それ以外の時間にどのような営業をしているのか。メニュー内容は? 人員配置は? なぜ繁盛しているのか、そこから見えてくるものがたくさんあります。例えば、夜が営業の主流の店のランチメニュー。夜の主食材をうまく利用したメニューを作っていたり、仕込みのきくメニューにより最少人員で店をまわしていたり、提供スピードを早めていたり、学ぶべきことが満載です。

ストア・コンパリゾンというと、メニューの中身ばかりに関心が向かいがちですが、メニューは飲食店経営のほんの一部です。いくらすばらしいメニューであっても、立地、店づくり、サービスの内容、提供方法、他のメニューとの組み合わせ、価格がジャストフィットしていなければ、その価値は十分に発揮されません。そのトータルの要素を、ストア・コンパリゾンでつかまなければなりません。

店の周辺を歩くことも、絶対に必要です。立地こそが業態のカナメだからです。その店が成立している(繁盛している)理由が、立地を精査することで見えてきます。昼と夜とで、あるいは平日と土・日で、雰囲気は驚くほど変わります。周辺エリアを歩き抜くことで、飲食業でもっとも大切な土地勘というものが養われます。つまり、商売をやっていい場所と、やってはいけない場所との分別がつくようになります。

飲食店の立ち上げで失敗する最大の要因は、立地の選定の失敗です。やってはいけない場所に店を出しているのです。

チェーンから学ぶことは、メニュー構成、価格、客単価、立地のスタンダード

チェーンから学ぶことはない、と考えていませんか。それは大いなる誤りです。学ぶことは山ほどあります。そもそも、チェーンになれたということは、何か特別なものを持っていたからなのです。

ひとつひとつの商品は、大したレベルでないかもしれません。しかし、商品構成と価格の設定、そして目指す客単価にどうたどり着くか、その手腕はやはりチェーングループが優れています。そのまま真似する必要はありません。しかし、すべてのスタンダードがチェーンにはあります。そして、マジョリティ(多数派)の市場を、そのスタンダード設定によって捉えているのです。

そのスタンダードからどのような距離で、自分の店を位置づけるのか。ここが個性、独自性の見せどころとなります。どんなオリジナリティを持っている店でも、このスタンダードとの距離を見極める客観性がなければ、オリジナリティは光りません。狂的なお笑い芸人も、常識の原点がしっかりしていない芸人、ちっともおもしろくないですよね。それと同じです。

立地戦略からも、学ぶところはたくさんあります。チェーンは、立地がすべてとすら考えています。それだけに、立地選定には、最大のエネルギーを注ぎます。そもそも、立地眼のない人が、チェーンを築けるはずがありません。チェーンは立地をはずしません。しかし、チェーンがおさえる立地だけが、商売に向く立地ではありません。客単価を含めた店の個性によって、立地特性は変わります。それでもオーソドックスな立地とは何かを知っておく必要はあります。チェーンは、そのオーソドックスなものを持っているのです。

トレンドも、チェーンは上手に導入します。最先端を突っ走るようなことはしません。マジョリティに受け容れられる程度のトレンド。時代にあらがわず、先走らず。その“程(ほど)”というものを十分にわきまえています。「俺の店は関係ない」と思うような店が、案外しっかり「関係がある」ことが少なくないのです。

関心の幅を広げましょう。そして、スタンダードをしっかりと身に付けることです。定期的な広範囲のストア・コンパリゾンは、お店の寿命を延ばすために絶対に必要です。間違っても店に引きこもってはいけません。旺盛な好奇心こそが、店を進化させる原動力です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

ぐるなび通信をフォローする