2014/08/01 繁盛の黄金律

「誰」に「いつ」売るかでテイクアウトの中身は全く変わる

品揃え、ポーション、値付けでだいたい失敗する‐外食店は何とかテイクアウトで売上を伸ばそうとして商品開発をしますが、たいてい失敗します。今回はその失敗の理由を掘り下げます。

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Vol.34

品揃え、ポーション、値付けでだいたい失敗する

テイクアウトの商品は、「どこに持ち帰るか」を考えることが重要ですね。ランチならば、「職場に」「学校に」「公園に」となります。「自宅に」ももちろんありますが、比率としては小さいです。立地によっても変わります。オフィス街ならば、「職場に」の比率が圧倒的に高くなります。その需要を狙って、特に都市部では移動ランチボックス屋さんがズラッと車を並べる光景にしばしば出合います。“普通の店”も、ここが稼ぎどころとばかりに、ランチ弁当を店前に並べて、お客の争奪にこれ努めます。

自宅からの最寄りの駅前(あるいはエキナカ)であれば、当然「自宅へ」のテイクアウトが主流になります。また、夕方からお客が増えます。駅近くのとんかつ屋、天ぷら屋などで、夕食のおかずにテイクアウトをする光景がよく見られますね。寿司のパックや弁当なども、テイク・ホ-ムのメイン商品のひとつです。

テイクアウトは、あらかじめ作り置きしておくものが原則ですから、売れる時間にメチャクチャ売れます(人気があればの話ですが)。店内でサービスする必要もありませんし、買ったらお客はすぐに立ち去ってくれますし、こんなにありがたいことはありません。

ですから、外食店はこぞって、何とかテイクアウトで売上を伸ばそうとして商品開発をしますが、たいてい失敗します。失敗の理由は、以下の4つです。

  1. 立地と時間が合っていない商品を置いている。
  2. 価格が高すぎる。
  3. 経時劣化についての認識がない。
  4. イートインとバッティングして大混乱する

このひとつひとつについて、もう少し深く吟味してみることにしましょう。

有名料理店よりも仕出し屋や弁当店のほうがテイクアウトのプロ

①は冒頭でお話ししたことですね。どこに持ち帰るかで中身がまったく変わります。例えば、とんかつと天ぷら。ランチならば、カツ丼や天丼が中心になるでしょう。でも、夕食のおかずに買うのだとしたら? たいてい、とんかつならば「何枚」、天ぷらならば「セット」という形になります。夕食のおかずです。立地と時間で、テイクアウトの中身はガラリと変わってしまうのです。テイク・ホウェア(どこに)、ホェン(いつ)を意識しておかないと、とんでもなく的外れな商品を並べてしまうことにあります。時間帯、曜日によってポーションが変わる(何人で食べるか)ことも、注意が必要です。

②の「価格が高い」。これも外食チェーンがよく失敗するケースです。もともと粗利が高い(65~75%)のが外食産業の特徴ですが、テイクアウトに同じ数字を当てはめて値付けをすると、競争力がまったくない商品ができてしまいます。

私の知っている寿司屋さんで、小さいながら、ランチタイムは大繁盛している店があったのですが、テイクアウト専門店にしたところ大失敗。結局、閉店してしまいました。人気の1,000円のちらし寿司を800円のテイクアウト商品にしたのですが、ちっとも売れません。イートインならば、1,000円でも「価値アリ」だったのですが、テイクアウトとしては800円に下げても、「価値ナシ」だったのです。こわいですね。「モチはモチ屋」と言いますが、食品小売りのプロから見たら、とんだ勘違いの値付けをしてしまったのです。

③の経時劣化はどうでしょうか。外食のプロは、その場で作ってすぐに提供します。これに慣れきってしまっているため、「時間が経つとまずくなる」ということが、素直に頭に入っていかない。仕出し屋、弁当屋は、その点ではプロですね。何時間後に食べられるのかを想定して、食材選びや商品作りや味付けをしています。京都でも、有名な日本料理店が軒を競い合う中で、仕出し屋さん、弁当屋さんがしっかり根付いています。彼らこそ経時劣化に対するプロなのです。

④はよく目にする光景ですね。店にお客さんは入ってくるわ、テイクアウトのお客さんが列を作るわ、でオペレーションはメチャクチャ。主人は目が血走って、冷静に判断する能力がすっ飛んでしまっている。結局、イートインのお客は去って、テイクアウトコーナーも閑古鳥が鳴くということになります。

ピークはしばしば重なるものですから、それに合わせた準備をしなければ、対応できるはずがありません。できないのならば、安易にテイクアウトなど考えないことです。ただし、この準備というのがまたくせ者で、準備をし過ぎると、店売りも、テイクアウトも、商品劣化を引き起こします。イートインだけの店でもよくあります。突き出しとサラダは開店前に全部作っておく、刺身も肉もすべてカットしておく。営業中の作業はずいぶんラクになりますが、劣化は確実に進みます。そうなると、閑古鳥が鳴く日はそう先のことではなさそうです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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