2014/09/08 繁盛の法則

少人数客にも使い勝手のいい地元密着の鮮魚居酒屋とは

魚串などで差別化する「魚屋きいもん」(東京・恵比寿) に学ぶ‐店頭では魚屋のような賑わいを演出し、魚介類を使った刺身や魚の串焼などを提供し、週1~2回訪れる常連客を増やしている。

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魚屋きいもん

恵比寿駅東口から徒歩5分ほど、木造2階建ての建物を利用した20坪37席の店舗。店頭では魚屋のような賑わいを演出

Key Point

  1. 鮮魚居酒屋で20年の修業後に独立
  2. 外食への感度の高い恵比寿に出店
  3. 多種の魚を楽しめる魚の串焼を提供

学生アルバイトから飲食業界へ。繁盛居酒屋で多彩な経験を積む

「実際に営業してみると、周辺のサラリーマンより、地元に住んでいる方たちや、女性の1人客が多いですね」と、東京・恵比寿の鮮魚居酒屋「魚屋きいもん」店主の木原誠氏は語る。恵比寿駅から徒歩5分ほどの場所にある木造2階建てを使った同店は、2012年8月9日のオープン以来、週1~2回訪れる常連客を増やしている。

店頭では魚屋のような賑わいを演出し、メインの商品は新鮮な魚介類を使った刺身や魚の串焼など。店舗規模は1、2階計20坪37席で、木を多用した落ち着いた雰囲気にまとめている。1階の入口近くに禁煙のカウンター9席、2階にもカウンター8席を設け、お客との会話にも力を入れている。1、2階の一体感が出るようにという木原氏の希望で一部を吹き抜けにし、その分、2階のテーブル席は段差をつけて高くした。これにより、1階の入口付近の天井高が高くなり、空間の広がりを感じさせている。

木原氏は1970年富山生まれで、駒沢大学進学を機に上京した。大学への通学路に、当時、鮮魚店が手がける居酒屋のパイオニア的存在である「魚真駒沢店」があり、ある日、「アルバイト募集、食事2食つき」という張り紙が出ていた。食事2食つきに惹かれてアルバイトとして働き始めた木原さんだったが、若いスタッフたちが元気よく働く雰囲気もよく、仕事としてもやりがいがあったため、大学卒業後もそのまま同店に就職した。グループ店内での異動も多く、すし業態や、アメリカ・カリフォルニア店での勤務、吉祥寺店や渋谷店での店長も務めた。さらには、同グループ店に勤めていた奥さんの裕子さんと出会うなど、計20年ほどの勤務中に豊富な経験を積んだ。

手前が「刺盛り」(2人前1,600円)、奥左が食べやすくむいた「毛がに」(1ぱい3,300円)、奥右が「魚串焼盛おまかせ5本」(1,400円)で、左から「つぶ貝バター正油串」(単品300円)、「カジキゆずこしょう串」(同400円)、「マグロねぎ間串」(同500円)、「サケ柚庵串」(同400円)、「うなぎ白焼串」(同500円)

信頼できる仕入れルートを確保。富山の食材の紹介にも注力

もともと「魚真」では、従業員たちには勤務しながら様々なことを学び、どんどん独立してほしいという方針で、木原氏の先輩たちも次々と巣立っていった。気がつくと最年長の年齢に差しかかってきた木原氏は、そろそろ店長職を後進に譲ろうと考え、2011年12月までで退社し、開業に向けて動き出した。業態は、これまでの経験を活かした鮮魚居酒屋に決め、魚介類は魚真グループの目利きや購買力を信頼し、同社経由で仕入れるものと、出身地の富山から直送してもらうものとの2本立てとすることにした。「魚真」の本社が世田谷・経堂にあるため、出店場所は小田急線、東急東横線、田園都市線の3路線を中心に考えた。また、「魚真恵比寿店」に勤務した経験から、恵比寿には外食に対する感度の高い客層が多いと感じていた。そこで、「魚真恵比寿店」がある恵比寿南は避け、駅の反対側で物件を探してみたが、特に駅周辺は家賃の高さがネックだった。2012年4月に見つけた現物件は、夜は薄暗くなる通りにあるクリーニング店の跡地で、スケルトンの状態になっていた。1、2階合わせて借りてほしいという家主の意向があり、その代わり坪単価では周辺に比べて低めに設定されていた。木原氏はこの物件を契約することに決め、使い勝手を工夫した。厨房は1階のみで、料理などを上げ下げするリフトを新設した。また、飲食店として利用する際の加重に耐えられるように、柱の増設などの補強工事も行った。

商品面では、裕子さんのアイデアで、魚の串焼を採り入れることにした。焼鳥のように、ひと口大に切った魚を串に刺して焼き、気軽に多種類を食べてもらえる商品である。串ものを焼く際はやはり炭火を使いたいと、入口近くに焼き台を備えた。この串焼は少人数のお客や、1尾だと数千円の売価になる高級魚を少量だけ食べたいというニーズに合い、好評を得ている。

オープンすると、その日に仕入れた魚介類を活かした料理のおいしさと、木原さん夫妻をはじめとする気さくで温かい接客により、普段使いに立ち寄る常連客を着実に増やしている。客単価は4000円で、フードとドリンクの売上比はほぼ半々。平均月商500万円と健闘している。

同店が鮮魚居酒屋として周辺の住民に支持されている要因は、以下のようになるだろう。

1鮮魚居酒屋の繁盛店での20年の修業をベースに独立開業。
2外食の楽しみ方をよく知っているお客が多い恵比寿に出店。
3多種の魚を楽しめる魚の串焼きを主力商品のひとつとして提供。

また、もともと料理に強い関心があったわけではないという木原氏だが、居酒屋で働くうちに、富山湾の魚介類や、地酒、実家でつくっているコシヒカリなど、富山の食材のすばらしさを再認識し、東京で積極的に紹介していきたいと思うようになった。

「まずはこの店をしっかり軌道にのせることですが、自分が学んできたことを若い世代に伝え、将来的には2店目、3店目の展開も考えていきたいです」と木原氏は語っている。

住所
東京都渋谷区恵比寿1-26-15
TEL 03-5420-1232
営業時間
17:00~翌0:30(LO.23:30)
定休日
不定休