2014/11/28 繁盛の黄金律

「店で調理人がつくる」という“やっかいさ”が最大の武器

チェーングループでも調理人の技能を見直しはじめた-単独ブランド店を複数経営するグループや個店がチェーンのように“コックレス”になるのは由々しき事態。自店の立ち位置を今一度確認すべきです。

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Vol.39

チェーングループでも調理人の技能を見直しはじめた

チェーングループは、店から調理人を追い出すことによって大きくなりました。チェーンは、「チェーン」というぐらいですから、店が増えなければチェーンにはなりません。調理人を育てながら店数を増やしていくのは難しいし、調理人の技能の差という問題がありますから、チェーン店において調理人がいることは、均質な商品を出すためのネックになります。ですからチェーンは、工販分離(「作る」と「売る」を分ける)と料理人不用の道を採らざるを得なかったのです。

しかし、最近はちょっと風向きが変わってきました。コンビニがレベルの高いPB(プライベートブランド)食品群を矢継ぎ早に打ち出し、その数も増やし、さらには総菜や弁当の配送回数を増やし、鮮度が飛躍的に高まりました。これらの商品群が、ファストフードやレストランチェーンのお客を奪い始めたのです。わざわざ外食チェーンに行かなくても、同じレベルか、時にはそれ以上のレベルの商品が手に入るのですから、コンビニに足が向かうのは当然のことです。外食チェーンの工販分離のシステムが、機能不全を起こし始めた、と言っていいでしょう。

そこで、志の高い外食チェーンでは、調理人の社内育成に取り組み始めました。調理人の技能が生み出す価値の高い料理が、質の面でコンビニの商品群と決定的な差を生むという認識を持ったのです。もちろん、古い徒弟制度に戻って、昔ながらの調理人を育成しようということではありません。限定された技能領域を短期間で修得できるように、社内プログラムにしたがって育成することを開始しました。一部のチェーンですが、方向転換を始めたのです。

ただ、こういう動きがあるのに、単独ブランドの店を複数経営するグループや個店までが、チェーンの真似をして“コックレス”の方向に向かっているのは由々しき事態です。確かに、従来型の料理人を育成するのは時間がかかるし、修業の苦しさに負けて店を離れていく若者も後を絶ちません。「こんなかったるいこと(調理人を育てること)をやっていられるか」と、店の主人が堪忍袋の緒を切らせて、できあいの一時加工食品を使って簡便に料理を作ってしまう傾向が生まれています。今、飲食業界は、未曽有の人手不足の波をかぶっていますから、止むを得ずコックレスの方向に向かっている経営者も少なくありません。

利益も効率も追い過ぎると逃げていく

しかし、単独ブランドグループや個人店が、チェーンとは別のファンを得ているのは、店にプロの料理人がいて、いい素材を使って手の込んだ上質の料理を作り、できたてのアツアツ(冷たいものは冷たい温度で)をお客に提供できているからです。これにキメの細かいサービスを付け加えてもいいでしょう。要するに、面倒くさいことを手抜きすることなく、しっかりやっているから、チェーンと“対決”できているのです。これこそが、単独ブランドグループや個人店の武器であるのに、それを放棄してしまったら、強さと独自性が失われてしまいます。また、この武器をしっかり守って、その土俵から離れなければ、コンビニの攻勢に負けることもありません。

チェーンが調理人の調理力を見直しつつあると先述しましたが、それは限定的にならざるを得ません。単独店グループ・個店が優位に立つためには、より高度な調理技能を内包させて、その能力を日々の営業で全開させるより道はありません。困難を伴いますが、そこが存在理由なのですから、間違っても簡便で安易な道に進んではいけないのです。この点を、よくよく肝に銘じてください。チェーンというのは、ごく一部の例外を除いて、客単価2,000円以上の市場に足を踏み入れることはできません。それに、夜の時間帯の集客力はますます弱くなっています。昼はチェーンの安価なランチですませ、夜もまた、というふうにはならないのです。夜は、コンビニやスーパーの総菜売場の商品ですますか、ちょっとフンパツして良質な単独ブランドグループ・個店で豊かな食事を楽しむか、その二極化が進んで、チェーン店の出る幕がますます少なくなっています。

飲食業界において、単独ブランドグループ・個店がどのような立ち位置か、おわかりいただけたと思います。確かに、店に調理技能をキープし、それを絶えず磨いていくということは大変で、簡単には収益力は上がりません。しかし、ここがチェーンにはできない部分なのですから、踏ん張らないわけにはいきません。

安易な道に進んで、利益を追い過ぎないことです。追い過ぎる利益は逃げていきます。効率を求め過ぎないことです。求め過ぎると、非効率のドツボにはまります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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