2014/12/26 繁盛の黄金律

小型店を増やすよりも1店を大型化したほうが強くなる

小型店をいくつ出しても、力は弱まる一方-店の規模を少しずつ大きくして、「1店巨艦主義」を目指すと、繁盛を維持しやすのです。いちばん悪いのはこの逆で、小型店の数を増やすやり方です。

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Vol.40

小型店をいくつ出しても、力は弱まる一方

佐賀県佐賀市の郊外の街道沿いに、1日2,000杯のラーメンを売る超繁盛店があるのをテレビで観ました。もちろん大型店です。その名声は東南アジアまで広がっていて、中国人や韓国人のお客さんも連日バスを連ねて来店します。インバウンドというやつですね。もちろん地元の支持もしっかりと得ています。厨房はちょっとしたスープ工場の様相を見せていて、スープを作るための大型のケトルが10基近く並んでいました。初めはちっぽけな店だったのですが、近所に引っ越しして店を大きくしていったとのことです。

私は番組を見ながら、「飲食業の原点がここにある!」とヒザを打ちました。店を大型化させていき、強くなる。これが生き残るための最良の法則です。いちばん悪いのはこの逆で、小型店の数を増やすやり方です。

たまたま1店が繁盛したとします。それじゃ、近くにもう1店。誰しもが考えることです。同じ店を出しても、お客を分け合うだけだから、別の業種でやってみよう、とこれまた誰もが考えます。この店もそこそこ当たって、じゃあもう1店、別の業種で…。こうして近隣に5店舗ほどを持つと、いっぱしの経営者に成り上がりますが、時流の変化とともにいつの間にか消えてしまいます。こういう例は、あなたの近くにも結構あるのではないでしょうか。

同じ業種の店を少し離れた場所に出すのはいいのか。これも基本的にダメです。遠くに点在する小型店を管理するくらい厄介なことはありません。店主は日々キリキリ舞いしながら駆け回り、店主のパワーが落ちるにしたがって、店のパワーも落っこっていきます。

それよりも、近くで移動しながら、少しずつ店の規模を大きくして、「1店巨艦主義」を目指したほうが、繁盛を維持しやすいのです。もちろんこの時に大事なことは、めっぽう強い看板商品を持つことです。その看板商品を目指してお客が殺到していること、お客があふれ返っていること、こういう状況があることが前提になります。

先の佐賀のラーメン店などは、まさにこのパターンです。店が大きくなるにつれて、商圏を拡大できる立地に店が存在していることも、必要になります。

追求すべきは、創造する厨房と進化する商品

大型店の強さは、技術を店にキープできることです。別の言い方をしますと、教える人間と教えられる人間が常に一緒に存在するということです。例えば、都市部ホテルのレストランが強い理由もそこにあります。一定の組織体があって、技術の継承と向上が行われる条件がそろっているのです。すそ野が広がらない限り、頂上は高くなりません。“技術者を内包した工場”が隣接していて、お客からの注文によって組織が有機的に稼働して、できたての製品が最短の動線を経て、“工場”から提供される。これほど最適な流れはありません。

小型店ではそういったシステムを持つことが難しいです。たとえ店に技術者がいても、必ずしも技術を受け継ぐ人間を抱えることができないからです。受け継ぐ人間がいないと進化しないというのは、飲食業に限ったことではありません。あらゆるビジネスに共通します。また、飲食業はいつも“生産工場(厨房)”を持っていなければならない、という宿命を抱えています。業種によって比率は異なりますが、総面積の40%は厨房です。そして、一般的に小型店ほど厨房比率が高まります。

つまり、店数を増やしても、総面積に占める厨房比率は高いまま、ということになります。非効率な状況を引きずり続けるのです。これが大型店になると比率が下がり、より小さな厨房でより多くのお客をさばくことができるようになるのです。とりわけ強力な商品を持ち、限定メニューなども提供して繁盛している店は、超高効率の商売ができるようになります。

ここまで読んでくださった読者は、「チェーンの店はどうなんだ。あんな小さな店で店数を増やして、成功しているじゃないか」と思われるかもしれません。私はチェーンレストランの指南役でもありますが、今はチェーンの話をしているのではありません。個店のオーナーが店をどう生き残らせ、どう成功させるかの話をしているのです。

チェーンを40年以上にわたって見てきましたが、チェーンはチェーンなりの弱さを抱えています。それは、技術者を店に置けないこと。そして、それと連動していることですが、店舗調理の大半を外に出さざるを得ないこと(自社でセントラルキッチンを持つか、他社に委託するか)です。これによって小さな厨房でも稼働できる仕組みを持ち、商品の均質化を保ち、髙い生産性を確保することが可能になってはいるのですが、ある一定のレベル以上の商品を作る力はありません。厨房から創造性の高い、次世代型の強力な商品を生み出すこともできません。

チェーンと戦うためには、このチェーンの弱点をよく見抜き、徹底的に「チェーンでやれないこと」を追求するしか道はありません。それは、創造する厨房と、技術を保持しつつ向上させる組織体の実現しかありません。そして、その母体となるのが大型店なのです。

店の数を増やすことが、会社の規模を大きくする唯一の道と考えてはいませんか。なにも店数を増やすことを止めようとは思いませんが、まずは強力な母体(基地)を作ることを勧めます。それと、店数が増えていくと自然にチェーンになる、と思っていたら大間違いです。チェーンはまったく別の経営ノウハウで成り立っているのです。

小型店を増やすことより、1店の大型店化を目指す。店数が増えてもチェーンにはならない。これを肝に銘じておいてください。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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