2015/04/30 繁盛の黄金律

店を学校・サークル活動の場にすれば、PAは辞めない

採用を店長まかせにするから、人手不足が慢性化する-「人が足りない」「採用してもすぐ辞める」という悩みの原因の1つは、外食産業に適性を持った人を雇っていないことにあります。

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Vol.44

採用を店長まかせにするから、人手不足が慢性化する

「人が足りない」。「採用してもすぐ辞める」。景気が少し上向きになると、外食産業はとたんに人手不足に苦しみはじめます。この業界はまだまだ、不況時の雇用の受け皿という側面を残しているのです。

「辞めてしまう」のは、もともと外食産業に適性を持った人を雇っていないことが、ひとつの理由として挙げられます。そもそも、採用してはいけない人を雇っているのです。複数店舗を経営している経営者の場合、「採用は店長にまかせている」と公言してはばからない人がいます。まさか正社員の採用を店長にまかせているということはないでしょうが、PA(パート・アルバイト)は「店長に一任」というケースが非常に多い。これはとんでもない間違いです。外食産業は粗利益率の高いビジネス(普通の場合、売上の3分の2は粗利)ですが、それは店舗で(調理とサービスによって)最終価値を生み出すビジネスだからです。店舗段階の人件費がかかるのです。

これは別言すれば、外食産業はヒューマンビジネスだ、ということです。店で働く人たちが、その働きによって価値を創出する。その人たちの“価値づくり力”によって、店の人気が高くもなり、低くもなるビジネスです。だから、普通の小売業以上に、PAの採用に細心の注意を払わなければなりません。まずは、細心の注意を払って、応募者の中から適性と潜在能力高い人材を見つけ出さなければなりません。

店長は、目先の人手不足を解消したいというところに気持ちがいってしまいますから、来る人を拒まず、誰でも採用してしまいがちです。そんな状態ですから、すぐ辞めてしまい、また募集費を使って採用して、また辞める。この連続です。店長は、「これが普通」と思っているのでしょうが、まずは採用担当者を代えて、この悪い循環を断ち切らなければなりません。

PAであっても、採用は店主(社長)自らがやらなければなりません。店舗数が増えても、エリアが広がらないのであれば、10店舗までの採用は店主(社長)ができるはずです。店が4~5店舗に増えたあたりでこの仕事を放棄してしまうのは、とんでもない考え違いというものです。止むを得ず採用に立ち会えない場合でも、社長業を代行できる“ナンバー2”の人間(たいていは営業部長)が店に出向いて行って、面接官とならなければなりません。

興味と向上心を刺激すれば、定着率は一気に上がる

頭がよくても、学校の成績がよくても、外食産業にまったく向かない人はいるものです。逆に勉強は苦手でも、この子は外食産業のために生まれてきたのか、という適性保持者も多くいます。ハキハキしていて明るくて、外交的で、物おじしない。(いい意味で)叱れてもケロッとしている。こういう人を採用すべきなのに、店長は「俺のコントロールにあまるかも…」と考え、不採用にしてしまったりします。自分の立場や都合で考えがちなのが店長、ということをまず認識しておいたほうがいいでしょう。

いちばん大事なのは、協調性です。スッと溶け込めるということですね。これは厨房のスタッフも同様で、素直で上司の無理難題にも耐えるタフさも持っている人物が、外食産業では長続きします。また、調理・料理に関心があることも協調性と同様に重要です。たとえ関心がなくても、ちょっと刺激すると、関心が引き出されるものですが、まったく関心がないという人も、なかにはいるものです。こういう人は、やはり採用してはいけません。

大事なことは“刺激”です。そのひとつの例として、PAの関心の扉を開けるためにはキッチンの開放が不可欠です。キッチンを聖域化しないで、自由に出入りできる状況を作る。そして、初歩的な調理の手ほどきもすることです。「足でまといになるだけだ」と思われるでしょう。確かに、最初は足手まといになりますが、辛抱強く教え込んでいくと、ある段階から戦力になっていきます。しかし、単なる雑用係として扱ってはなりません。

まだるっこしいようですが、店内で料理教室を定期的に開くのが、定着率をいちばん高めます。この場合、友だちを連れてきてもよいことにします(人数は制限する)。そうすると、その友だちも店で働きたがることも多いのです。急がば回れ、です。人に教えることで既存のメンバーが調理技術を上げねば、という気持ちになりますし、よどんでいたり、時にはいがみ合っている厨房の空気が一変します。この作戦での成否は、身もフタもない言い方ですが、教える人(調理長)の人格ひとつですが。

結論は、店を学校、あるいはサークル活動の場にすることです。単なる自給稼ぎの場にしないことにより、店で働くことが苦痛ではなく、楽しみに変わります。人間には向上心があります。また、何か特別なスキルを修得したい、という強い欲望があります。この2つをまったく刺激されない仕事は、長く続けられません。

ある日本料理店では、お茶、着付け、花の教室を月に1回、店で開いています。PAは自由参加です。もちろん無料。先生を呼ばなければならないのでコストがかかりますが、“人不足”で悩んだことは一度もない、とご主人が仰っていました。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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