2015/05/11 繁盛の法則

自家製麺と野菜の天ぷらで独自性を出したうどん店とは

5代続く青果卸が手がける「太常うどん」(東京・銀座)に学ぶ-「青果店が始めたうどん店」として、口コミで顧客を増やしている「太常うどん」。セルフサービス式で奥には製麺室を設け、自家製麺を行う。

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太常うどん

店頭では野菜や果物の販売もしているが、店内はセルフサービス式のうどん店

Key Point

  1. 良質な素材で自家製麺したうどんを提供
  2. 新鮮で多彩な野菜の天ぷらで差別化
  3. 気さくさから幅広い客層の支持を獲得

青果卸業の代替わりを機に、新規事業のうどん店を出店

「青果店が始めたうどん店」として、口コミで顧客を増やしているのが、東京・銀座の「太常(だいつね)うどん」である。店頭では野菜や果物の販売もしているが、店内はセルフサービス式のうどん店で、奥には製麺室を設け、自家製麺を行っている。お客はレーンに並んでまずうどんを注文し、約20種並ぶ野菜の天ぷらを好みで取っていき、会計を済ませて席に着く。さぬき風のコシの強いうどんと、旬の野菜の天ぷらが手ごろな価格で楽しめるとあって、周辺のビジネスマンやOLのほか、遠方からの客も増えている。

青果卸としての「大常」の創業は、江戸時代末期の文久元年(1861年)にさかのぼる。神田多町の青果市場の中卸から始まり、その後、築地市場に拠点を移し、現在も都内の飲食店やホテルなど約130店に野菜類を納入している。2000年に本社を現在の銀座7丁目のビルに移転し、1階はしばらく野菜用の冷蔵庫と配達車両の車庫として使用していた。5代目社長の川北晃右氏は、2009年に野菜卸の事業を息子に継承させたのを機に、自身はもともと好きなうどん店を始めようと決意した。その際、うどん事業のために新たに株式会社太常を設立した。

このような経緯から、うどん店の創業メンバーは、全員が飲食業の未経験者だった。まずは川北氏自らが、香川県の製麺機メーカー、さぬき麺機株式会社の都内の直営店に出向いて、製麺や出汁の取り方などを一から学び、開業後も指導を受けた。

また、古民家風の雰囲気にしたいと、川北氏が仙台で蔵戸や古民具を購入してきた。蔵戸は4枚組で、うち1枚は戸として使っているが、3枚は上にガラス板をのせてテーブルトップとして使用している。店舗規模は30坪45席で、一見すると、「江戸時代から現在地で営業している八百屋さん」といった、素朴な風情を醸し出している。

一番人気の「九条ねぎうどん」(500円、写真は冷)は、年間契約で京都から取り寄せる九条ネギをたっぷりのせており、お値打ち感が高い。野菜天ぷらの中でもファンが多い「かきあげ」(100円)は、大きめに切ったタマネギ、ニンジン、サツマイモを揚げたもの

1日200食の販売から始め、徐々に営業時間を延長

開業に当たって最新の製麺機を導入した同店では、香川県から取り寄せる小麦粉と国産の塩を使って製麺し、1日寝かせてから提供する。出汁は、利尻産の昆布、瀬戸内産のイリコ、熊本産のウルメイワシ、サバ節、鹿児島産のカツオ節、土佐清水産のソウダガツオ節などで取り、兵庫・たつの市産の無添加の醤油を使用している。

「出汁の材料はすべて京都から取り寄せていますし、出汁自体は関西風です。ただ、少し東京風にアレンジされていて、つゆの色もやや濃いですから、さぬきうどんではなく、さぬき風です」と、同社広報担当の松本美千子氏は説明する。

天ぷらは、ちくわ以外はほとんどが国産野菜で、セロリやバジルなどの洋野菜、新顔野菜、果物なども登場する。「当店のお客様は、珍しい野菜を楽しみに来店するチャレンジャーが多いですね。特徴や食べ方の説明をしていますし、おいしかったからと帰りに買って行かれる方もいます」(松本氏)。

うどん単品は約15品目450円~800円で、麺1人前は茹で上がりで200g、50円増しの大盛りは280gを提供する。大盛りを注文する客は1割強で、大盛りよりも1品50円~の天ぷらを数品楽しむ客が多い。

オープンは2010年2月15日で、当初は昼だけの営業とし、1日200食の販売を目標に置いた。11時に開店し、用意した200食分が売り切れたら閉店する。半年ほどはその体制だったが、うどんや天ぷらのおいしさが好評を得て、13時ごろには200食を完売する日が増えていった。従業員も慣れてきたため、半年後くらいから製麺量を増やして昼は15時まで営業を続け、夜の営業も開始した。夜も、その後の半年ほどは20時までとし、うどんが中心だったが、徐々に一品料理や酒類を充実させてうどん居酒屋風に変え、営業時間も伸ばしていった。現在は、昼は客単価730~740円で、1日250~300人を集客している。夜は、うどんだけの利用も可能だが、居酒屋的に酒類や酒肴も楽しんだ場合の客単価は3500円ほどになり、夜だけで1日約100人が来店している。客層は幅広く、気さくな雰囲気から、女性客が約4割を占めている。

同店がさぬき風のうどんと多彩な野菜の天ぷらで人気を得ている要因は、以下のようになるだろう。

1厳選した素材を使った自家製麺により、質の高いうどんを提供している。
2江戸時代から続く青果卸業を基盤に、新鮮で多彩な野菜の天ぷらで差別化している。
3気さくな内外装や接客で幅広い客層に支持され、女性客の比率も高い。

最近は、3時間の飲み放題つきで1人4320円(税込)の宴会が好評で、毎日のように予約が入り、60~70人の貸切りにも対応している。また、金曜あるいは月曜に、月5~6回開催するジャズナイト(チャージなし)も定着し、集客増に貢献している。

住所
東京都中央区銀座7-15-17 だいつねビル1F
TEL 03-3541-2227
営業時間
11:00~15:00、17:30~23:00
定休日
土日祝