2015/07/16 繁盛の法則

“立ち食い”スタイルで新たな需要を捉えた焼肉店とは

4坪で健闘する「立喰い焼肉 治郎丸」(東京・新宿) に学ぶ-立ち食いスタイルの焼肉店で、赤身類は1枚ずつオーダーできる同店は、少人数では利用しづらかった焼肉業態に新たな旋風を巻き起こしている。

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立喰い焼肉 治郎丸

西武新宿駅の向かい側にある、わずか4坪の店舗。カウンター上の冷蔵ケースには、寿司店のネタのように肉類が並べられている

Key Point

  1. 4坪の店舗を立ち食い式で最大限に利用
  2. 高品質な国産和牛を1切れずつ提供
  3. ていねいな接客で1人客にも配慮

立ち食いの寿司店をヒントに焼肉の新業態を開発

立ち食いスタイルの焼肉店で、しかも赤身類は1枚ずつオーダーできる「立喰い焼肉治郎丸」は、これまで少人数では利用しづらかった焼肉業態に、新たな旋風を巻き起こしている。2014年7月22日に西武新宿駅前にオープンした1号店は、バックヤードまで含めてわずか4坪という小規模店でありながら、月商1300万円以上を上げる繁盛ぶりを見せている。

経営元は、「炭火焼干物食堂越後屋」19店舗や、低価格そば店「嵯峨谷(さがたに)」7店舗など、都内を中心に計36店舗を展開する株式会社越後屋である。同社の江波戸千洋(えばとかずひろ)社長が、立ち食いの寿司店をヒントに、好みの部位を1枚ずつ注文できる立ち食いの焼肉店を発想した。

西武新宿駅の向かいのビル1、2階の物件に新店を出店することになった際、2階は焼鳥の「須田商店」とし、1階は干物定食の「しんぱち食堂」と、立ち食い焼肉の実験用に4坪を用意した。もしうまくいかなければ、すぐに壁を取り壊して「しんぱち食堂」と一体化すればいい、というくらいの心づもりだった。また、当初は夜集中型で、ランチや午後の時間帯は集客力が弱かった。徐々に認知度が上がり、夜はウエイティングが続くようになると、早めの時間帯に来店するお客が増え、最近は11時30分の開店と同時に入店してくる人もいるほどだ。

この1号店で確かな手応えを得て、今年2月に横浜・野毛店(FC)、4月に東京・大井町店(FC)、6月に東京・大森店(直営)を出店しており、今年中に10店舗体制を築きたいと意欲を見せている。

手前左が「肩三角」(長崎和牛、A5、260円)、右が「ササミ」(とちぎ和牛、A5、290円)、奥右が「ソトモモ」(伊万里牛、A5、270円)で、産地、ランク、価格はその日の仕入れによって変わる。奥左の皿が人気商品のホルモン3種各30円で、手前左が「ガツ芯」、右が「ノドブエ」、奥が「テッポウ」(価格は税別)

様々な客層や嗜好、多様な利用動機に対応

赤身類は、A5・A4ランクの国産銘柄牛が9~10割。1枚20gにスライスし、約15品目を170~300円前後で提供する。ホルモン類は約8割が豚で、1つ15gの2個づけとし、約15品目を30~190円ほどで販売する。東京・芝浦の仲買人から新鮮な精肉や国産ホルモンをチルドで仕入れるほか、中村隼人店長の知人を通して長崎和牛を一頭買いに近い形で調達している。真空パックになったブロックで届き、毎朝ていねいに掃除して柵取りし、ショーケースに並べる。ホルモンも、臭みが出ないように時間をかけて念入りに下処理する。注文を受けてからカットし、バラの一部の「カイノミ」と「バラ山」はタレで、それ以外は塩で下味をつけて提供する。お客は焼いてそのまま、あるいは卓上の塩、タレ(甘口、辛口)、ポン酢をつけて食べてもいい。大別すると、赤身類を主体にホルモン数種という客と、その逆とに分かれるが、リピーターの約6割はホルモンを中心に注文している。

焼肉類のほか、「白センマイ刺」(400円)、「キムチ」(380円)、「ライス」(280円)などのサイドメニュー19品目150~400円と、ドリンク類約15品目250円~を揃えている。食材原価率は、オープン当初は50%を超えていたが、その後、若干調整して現在は42%ほどに抑えている。夜はアルコール類が売上の約4割を占めるが、昼間はドリンク類をオーダーしないお客もいるため、終日トータルでのアルコール比率は約3割になる。

カウンターには卓上ガスロースター6台を設置し、スタンディングで最大12人ほどが入れる。4人くらいまでのグループであれば、1台のロースターを使ってもらうことがあるが、1人客同士が隣り合っても、ロースターの共用はしない。また、行列ができていても、1組ずつ店内に案内し、商品説明やオーダーの仕方のアドバイスなどをていねいに行う。そのため、女性同士のグループや、特に平日の昼間は男女ともに1人客の来店が多く、全体では女性客が約4割を占めている。

お客の利用方法も多様で、「30円のホルモン3皿とお冷で90円という方から、赤身肉600g相当とホルモン数種、酒類で1万7000円という方もいました。客単価にしても、その日によって2500円だったり、3500円だったりという具合です」と、同店で研修を担当している松本龍吉氏は話す。松本氏は、繁盛焼肉店での勤務、ホルモン店での研修を受けた経験があり、治郎丸業態の立ち上げから関わってきた。現在は1号店で朝6時から仕込みに携わりながら、FC出店希望者への研修を行っている。

同店が幅広い客層に新たな焼肉の楽しみ方を提供できている要因は、以下のようになるだろう。

14坪の店舗スペースを立ち食いスタイルで最大限に利用している。
2高品質な国産和牛を1切れずつ、国産ホルモンは2つずつ、リーズナブルな価格で提供している。
31人客にも配慮したていねいな接客、商品説明を行っている。

「FC展開も始まっていますから、治郎丸というブランドに傷がつかないよう、慎重に立地を選び、きちんとした商品を提供していきたいです」と松本氏は語っている。

住所
東京都新宿区歌舞伎町1-26-3 TC第29かぶきビル 1F
TEL 03-6380-3292
営業時間
11:30~翌5:00(日曜日~22:00)
定休日
無休