2015/07/28 特集

飲食店が知っておきたい2015年上半期トピックス

今回は上半期を振り返り、話題になった様々な食のトピックスに着目し、飲食店が知っておきたい6つのトピックスをピックアップ。その背景や下半期に向けた課題を、飲食のコンサルタントに聞いた。

URLコピー

2015年も半年が過ぎ、早くも下半期に突入した。そこで今回は、上半期を振り返り、話題になった様々な食のトピックスに着目。その中から、「ちょい呑み」「訪日外国人の増加」「食品表示法の施行」など、飲食店が知っておきたい6つのトピックスをピックアップ。その背景や下半期に向けた課題を、株式会社船井総合研究所の二杉明宏氏に解説していただいた。

今回お話をうかがったのは

株式会社船井総合研究所 フードビジネス支援部 グループマネージャー 二杉明宏氏
飲食業専門コンサルタント。焼肉業界、居酒屋業界を中心に、多くの業種でコンサルティング活動に従事。顧問先には多店舗展開などを目標に設定している企業が多く、企業成長のエンジンとなる業態開発や、マーケティング施策を軸としたコンサルティングを得意とする。

船井総研飲食店経営.com
船井総研フードビジネス経営研究会

TOPICS ちょい呑み・豚肉の生食禁止・日本初上陸店・食材原価高騰

TOPIC1 「ちょい呑み」が好調!

利便性と低価格が特長。居酒屋は差別化で勝負を

仕事帰りに気軽に立ち寄り、1~2杯をサクッと飲んで帰るという「ちょい呑み」が男女問わず人気だ。もともと食事がメインの「野家」「天丼てんや」「日高屋」などが「ちょい呑み」需要の獲得に乗り出し、ファミリーレストランやハンバーガーショップ、さらにコーヒーチェーンにまでこの流れが波及している。

「日本の外食市場は、ファミリーレストランのような総合型から専門業態への転換が進んでいました。しかし、専門店のマーケットが伸び悩み、メニュー数を増やすなど再び総合型へ振れているのが最近の流れ」と二杉氏。「その流れのなかで、各業態がアルコール需要にも触手を伸ばしている」と「ちょい呑み」の拡大を分析する。

消費者にとっては、「飲みたいときに短時間で楽しめる利便性と、価格の安さが人気の理由」(二杉氏)。近年のバルの隆盛、一人飲みや昼飲みニーズの顕在化も背景にあり、今後も居酒屋との競合は避けられない見通しだ。

「既存の居酒屋が『ちょい呑み』と同じ土俵で勝負するのは難しい。利便性と価格の安さではかなわないからです」と二杉氏。しかし、「依然として、居酒屋業態は外食市場の中でもっとも大きいマーケット。そこには多様な利用動機があります。宴会に特化する、食材で差別化し、新業態を追求することなどは、まだまだ有効」とも語る。

上記データは、ぐるなびが全国のぐるなびアンケート会員(20歳~69歳の男女)に聞いた、「ちょい呑み」に関するアンケート結果の上位9項目。消費者が「ちょい呑み」をする際に、「手頃な値段」と「気軽さ」を重視(ともに約60%)していることがわかる

TOPIC2 生食用豚肉の提供・販売が禁止

十分な加熱調理はもちろん、来店客への注意喚起も必要

厚生労働省は、今年6月12日から豚肉を生食用に提供・販売することを全面的に禁止した。これによって、飲食店においても、2012年7月の牛肉の生レバーの提供禁止に引き続き、豚刺し、豚レバ刺しなどの提供ができなくなった。同時に、焼肉業態など、客が自分で食肉を調理して食べる店では、生食が危険であること、食べる際には肉の中心部まで十分に加熱する必要があることをメニューなどに記載し、客が守らない場合は注意喚起することも求められる。違反は行政指導の対象となり、2年以下の懲役または200万円以下の罰金もあり得る。

「2012年にユッケの食中毒で死亡事故が起こったとき、焼肉業界は大変な打撃を受けました。そうしたリスクを考えると、今回の全面禁止は妥当で必要な措置」と二杉氏。残念がる声や生食文化を擁護する意見もあるが、「ビジネスとしては冷静に受け止めるべき」と二杉氏は釘を刺す。

また、背景には消費者の変化もある。二杉氏も「以前は消費者の側に、免疫力が低い子供や高齢者は生食を控えるといった知識がありました。今はそれが失われている」と指摘。提供する側の責任を問う流れは、今後も続くことが予想される。飲食店としては、食の安心・安全を守るためのルールとして、規範意識を強化して対応する必要がある。

TOPIC3 日本初上陸店が続々! 大行列も

事前のイメージ戦略が奏功。ヒットの要因を分析すべし

今年2月、アメリカの人気コーヒーショップ「ブルーボトルコーヒー」日本1号店が東京・清澄白河にオープン。数時間待ちの大行列ができたことは記憶に新しい。ほかにも台湾かき氷の「アイスモンスター」、ハイブリッドスイーツ「クロナッツ®」で有名なニューヨークの「DOMINIQUE ANSEL BAKERY TOKYO」などが初上陸。下半期にも日本初出店を控える注目店舗があり、この流れはしばらく続きそうだ。

この要因について二杉氏は、「基本的には円安の影響。設備投資が7割ほどの経費で済むため」と解説。さらに行列ができる背景を「東京の表参道など流行感度の高い人が集まる場所に1号店を出すことでおしゃれな印象につなげる戦略が当たっています。事前にメディアを通じて告知し、オープン前から話題を振りまく手法も奏功している」と分析する。ニューヨークなどの都市が持つブランドイメージも人気を後押ししている。

飲食店としては、「商品を真似るのではなく、世間が何に魅力を感じているかに目を向け、ヒットの要因を考える」(二杉氏)という姿勢が大切だ。

一方で、二杉氏は台湾かき氷に注目し、「日本人にとってかき氷はなじみが深いので、クオリティの高い台湾かき氷は、居酒屋でもヒットメニューになる可能性はあります」と予測する。

6月、東京・表参道にオープンした「DOMINIQUE ANSEL BAKERY TOKYO」(上)。クロナッツ®(下)などを求めて大行列ができた

TOPIC4 食材原価の高騰と食品の値上がり

値上げによるリスクを緻密な作戦で乗り越える

昨年来、食材原価の高騰と、食品の値上げが続いている。今年上半期には小麦や乳製品、酒類の値上げが相次ぎ、7月以降も値上げが予定されている品目は少なくない。

ここでも最大の要因は円安。「なかでも、原価の上昇幅がもっとも大きいのが牛肉です。肉業態の集客は好調で、肉バルやステーキを提供する店も増えているのに、牛肉原価の高騰で利幅が圧縮されている」と二杉氏。背景には、中国やアジアでの牛肉消費の増加による品薄状況も絡む。一方、天候不順による野菜の高騰も無視できない。

「いずれにしろ、飲食店としては価格に転嫁せざるを得ない状況」(二杉氏)。だが、値上げをすれば、客数が減少するリスクはある。それを最小化するために「素材の調達力、メニューの開発力、魅力の伝達力が重要」と二杉氏。売価を上げても高いと感じさせない工夫、安価な食材でも満足感につながる料理、魅力のある打ち出し方を工夫する、などの取り組みを緻密に重ねることが大切だ。

さらに2017年には消費税の増税も予定されているため、「今のうちに食材高騰に負けない力を養うべき」(二杉氏)という。

全3ページ