粗挽き蕎麦 トキ
Key Point
- 物件に合うそば業態を発想
- 独特の粗挽き十割そばを開発
- そば前としての酒肴と日本酒を提供
カウンター主体の物件から「そば屋で一杯」を発想
ある種のそば通には、「そばは喉越し、噛むなど邪道」と言われそうだが、東京・代々木の「粗挽き蕎麦 トキ」は、ザクザクと噛みしめて味わう太打ちの十割そば1種で勝負している。山形産の「でわかおり」という品種を、鬼殻ごと超粗挽きにした独特のそば粉を使い、つなぎも打ち粉も使わずに、平たい太麺に製麺する。しっかりと噛むことで、そば自体の香りがフワーッと鼻腔に戻って来る、どことなく懐かしい味わいが特徴である。
最寄りの新宿駅南口から徒歩5分ほどの場所に2013年9月12日にオープンした同店は、16坪のスペースに、カウンター12席、テーブル6席の計18席を設けている。「この物件が空くと紹介されたとき、カウンターをメインに、1人でも気軽に飲める場所にしたいと考え、そこから業態を発想していきました」と、経営者である有限会社一滴八銭屋の大薮由一郎(おおやぶよしいちろう)代表取締役は語る。同社は、同店から徒歩2分ほどの西新宿で、創作うどん居酒屋「一滴八銭屋」と、その向かいで串天ぷら「段々屋」を経営している。大藪氏は1968年愛媛・川之江市(現・四国中央市)生まれで、実家は、香川・高松出身の父親が創業したうどん店である。大学進学時に上京し、卒業後30歳までは建築会社に勤めていた大藪氏だが、1998年に、独立志向の強かった7歳年下の弟から「一緒に事業をやりたい」と持ちかけられた。
そこで、妹の夫である義弟を含めた3人で、実家のうどん店で修業を開始し、1999年1月に「一滴八銭屋」を出店した。まだ全国展開するようなさぬきうどんチェーンが登場する前で、都内ではそばを置かないうどん専門店というだけでも珍しかった。麺は茹でたてを徹底し、ほかでは食べられない独特の創作うどんが好評で、幅広い客層に支持されている。
独自の粗挽き十割そばが女性客にも好評
うどん文化圏で生まれ育ち、自らもうどん店の経営者となった大藪氏は、東京で生活する中でそばを食べる機会も増えてはいたものの、そばのおいしさを実感したのは、「トキ」の出店に向けて動き始めてからだった。「トキ」の周辺は、今やうどんの激戦区といった様相を呈してきているが、そば店は少ない。また、カウンターでの1人飲みであれば、昔ながらの「そば屋で一杯」がいいのではないか、と考えた。加えて、手づくりにこだわる「一滴八銭屋」では、人材育成や多店舗化に難しさがあるため、新業態のそば店では、職人に頼らずに稼働できる仕組みを構築したいという思いもあった。
「職人を必要としないけれど、クオリティの高い、風味豊かなそばを提供するにはどのような方法があるだろうかと考え、以前紹介されたことのある山形の押し出し式製麺機のメーカーを思い出し、山形に飛んで行ったのです」と大藪氏は説明する。そば店出店の構想を伝えると、試しに数種のそば粉を集めて製麺してくれた。その中に、得意先の料亭のために少量製粉している「でわかおり」の超粗挽き粉があり、それを十割で製麺したそばを試食したとき、大藪氏はそのジャリジャリした食感と、そば粉本来の強い香りにまさに衝撃を受けた。「これしかない!このそばの香りを伝えたい!」と決意した大藪氏は、野趣味あふれる十割そばを核に、酒肴と日本酒をそろえるという、同店のコンセプトを固めていった。
この粗挽きそば本来の風味を味わうために、ひと口目は塩で食べてほしいと、卓上に塩を用意し、提供時にひと声かけている。当初は、関西風の甘口のつゆでの提供を考えたが、このそばとは合わなかったため、カツオ節を利かせた出汁に、関東の濃口しょう油を使った、やや辛口のつゆに変えた。
メニュー構成は昼、夜共通とし、冷たいそば10品目700~1200円、温かいそば7品目750~1250円、酒肴22品目390~980円をそろえている。日本酒は、3カ所の酒販店と相談しながら選び、毎日約12種、月間では約30種を、90ml450円均一、160ml800円均一で販売する。1杯目から日本酒というお客も多く、酒類の中では日本酒が半分以上を占めている。客単価は昼1000円、夜2700円で、メインの客層は40~50代の男性客だが、女性客が2~3割を占め、女性の1人客も珍しくない。
同店が粗挽き十割そばを核に、1人飲み需要を取り込んでいる要因は、以下のようになるだろう。
1周辺環境とカウンター主体の物件から「そば屋で一杯」の業態を発想。
2メイン商品としてインパクトの強い粗挽き十割そばを開発。
3そば前としてのオーソドックスな酒肴と吟味した日本酒を提供。
「当社はもともと、同じ業態を大量に出店するというコンセプトではないので、ここでしか食べられない商品、サプライズのある商品を追求しながら、1店舗ずつ大事に作っていきたいです」と、大藪氏は話す。
東京都渋谷区代々木2-14-3 北斗第一ビル 中2F
TEL 03-6304-2566
営業時間
11:00~15:00、17:30~22:00
定休日
日曜日・祝日