2015/09/25 繁盛の黄金律

年を取ると「卒業」されてしまう商売は危険がいっぱい

なかなか「卒業」されない商売に目をつけよう-息の長い商売をしたいと誰もが思いますが、至難のワザです。店に問題がなくとも、お客がどんどん「卒業」していってしまうということがあります。

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Vol.49

なかなか「卒業」されない商売に目をつけよう

息の長い商売をしたいとは、飲食業に携わった人ならば誰もが思うことですが、これが至難のワザであります。100店の飲食店があったら、5年で90店が消えている、という統計があるくらいです。だから、チェーングループを見ても、商売替えをコロコロと繰り返して、あるいは同じ店名でも中身を絶えず変えて、企業として長生きをしようと努めます。はやり商売も「ピークはせいぜい2年」と言われますしね。

消えてしまう理由は様々ですが、店の営業に特別の問題がなくても、お客が年とともにどんどん「卒業」していってしまう、ということがあります。ある年齢に達すると、“卒業生”として出て行ってしまう。商売を始めるにあたって、この「卒業」をいつも念頭に置かなければなりません。

例えば、牛丼は、15歳で「入学」して、45歳で「卒業」です。それ以後も利用することはあっても、極端に頻度は落ちます。また牛丼チェーンでは、女性の入学者はきわめて少数です。はじめから人口の半分を棄てている商売なのです。

マクドナルドのハンバーガーはどうでしょうか。やはり卒業年齢は40歳です。だから新入生の獲得には必死です。子供の勧誘、子どもの心をくすぐる販促にはことのほか熱心ですね。絶えず小さな入学者を入れないと、総客数はどんどん先細りしてしまうからです。ピザなんかもそうですね。基本的に若者の食べ物です。年を取ると、喫食頻度が急速に落ちる食べ物です。

逆に、なかなか卒業しない食べ物といったらなんでしょうか。寿司はその最右翼です。高齢者にとって最大のごちそうは寿司で、これは不動です。うどんもそばも卒業しません。高カロリーのものだってありますよ。とんかつ、カツ丼、天ぷら、天丼がそれです。カロリー的には若者の食べ物ですが、どっこい年を取っても卒業しません。和食のジャンルに組み込まれている強さもあるでしょう。

「何屋をやるのか」「どこでやるのか」「いくらでやるのか」

繰り返しになりますが、商売をはじめるとき、この「卒業」を常に念頭に入れておかなければなりません。

フレンチの修業をしたからフランス料理屋を始める。このことを疑わない人がいますが、フランス料理の総客数は、外食全体の割合からすると小さなものです。それに年を取ると、利用回数は激減します。フランス料理に突き進まないで、洋食屋という考えをなぜ持たないのでしょう。技術はほぼ重なりますし、客層の幅は広いし、高齢化にも強い。むしろ、これからブームになります。

日本料理を修業した人も同じです。親方と同じ高級日本料理店をやるんだ、と意気込みますが、そもそも高級日本料理店を自分で持つ人が何人いるでしょうか。親方の店は、立地の強さで接待客をしっかりつかんでいるから成り立っているのではないですか。日本料理の技術を身につけているのであれば、カウンター割烹ができます。居酒屋はお手のものです。とんかつ店、天ぷら店もできます。守備範囲は広いのです。

「そんな大衆的な店をやるために、苦しい修業を積んだんじゃない」と怒る人がいたら、その人は考え違いをしています。修業の分野にこだわらず、より多くのお客がいる、そしてそのお客の数が減らない領域に身を置くのが賢明な選択です。そのほうが成功する確率がより高い。つまり、お金の入りようが違います。

初志を貫徹したいのであれば、まずは周辺領域で成功してから挑戦しても、遅くはないのではないでしょうか。いちばん愚かなのは、先述の日本料理でいえば、親方と同じ商売を、同じ価格で、まったく別の立地でやることです。親方は、銀座で、あるいは青山でやったから、接待族をつかめて成功したのかもしれません。同じ商売を、世田谷でやっても、練馬でやっても成功する確率は低いでしょう。いや、渋谷、目黒でも難しいでしょう。そこには狙うお客はほとんどないからです。

いつも、「何屋をやるか」「どこでやるか」「いくらでやるか」を考えていなければなりません。そして基本的に、同じ商売でも価格の低いところに厚い市場が横たわっています。下の方がお客の数が絶対的に多いのです。そして、下に行くほど自腹客になります。

何もお客の少ないところで商売をする必要はないではありませんか。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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