2015/12/25 繁盛の黄金律

のれん分けした店主のアイデアを活かそう!

必死の努力が創意工夫を生み出す -日々の営業を必死に続けている人間から発せられるアイデアや提案が、無用なはずがありません。共通の財産としてさらに磨き上げればいいのです

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Vol.52

必死の努力が創意工夫を生み出す

前回の「社員のれん分け」の続きです。「社員のれん分け」で独立した従業員は、もはや社員ではありません。一国一城の主(あるじ)です。

自分の店で死にもの狂いで働いて、利益を出さなければ、生きていけません。ですから、前回も書いたように、社員のれん分け対象者には利益が出ている店を渡さなければなりません。間違っても赤字店を渡してはいけません。出ている利益を、自分の努力によっていかに増大させるか。独立した従業員は、この一点に全エネルギーを注ぎます。人件費を抑えるために、自分の労働時間を増やします。また、無駄なコストを徹底的に省きます。従業員の育成にも力を注ぎ、少数精鋭部隊で店をまわすようにします。売上、利益が増大しないはずがありません。

独立して初めて、外食業の商売の面白味を知るのです。そして、社員時代以上に創意工夫が生み出されるようになります。「こういうメニューを入れたら、もっと売れるのではないか」。「このメニューは売れないし、手間もかかるから省いたほうがいいのではないか」。「この食材は別の食材に変えたほうが、おいしくなるのではないか」。「調理工程は、こう変えたほうが、時間も短縮されるし、手間も省けるのではないか」。次から次へとアイデアが浮かんできます。人間は立場が変わると、こうも変わるものなのですね。

メニューや調理工程ばかりではありません。フロアサービスの面でも、営業時間でも、採用方法でも、人材育成でも、「こうしたほうがいい」というものが、次々に生まれてきます。

しかしこれが、崩壊の始まりとなります。創意工夫やアイデアは、当然実行されます。これが親店と意思疎通を図りながらの実行であれば、問題はありません。しかし、のれん分け店主が単独行動を敢行すれば、それがどれほどよい内容のものであっても、それは“暴走”となります。

提案はお客の立場に立って吟味する

つまり、親店の営業内容からどんどん離れていって、「別の店」に変質してしまいます。同一性が失われていくのです。そうなると、親店の主人も面白くありません。「あれだけ面倒を見てやったのに、勝手なことばかりやりやがって」と、両者の関係は日に日に悪化していきます。そして、ついには「あいつは破門だ。看板を取り上げろ」ということになり、裁判沙汰にまで突き進みます。

どちらも悪いのですが、どっちがより悪いかといえば、これはもう親店の店主です。のれん分けの店主にとっては、元の社長です。意思疎通をしっかりしていて、お互いによいものはどんどん吸収していく、という共通地盤さえあれば、共存共栄の立場が保たれます。子分から学ぶなんて、親分の沽券にかかわると親店の店主が思っていたら、両者の距離は広がっていくばかりです。 お互いの利益になることならば、子分の創意工夫、提案はどんどん取り入れればいいのです。

フランチャイズビジネスでも、親分に当たるフランチャイザーが、加盟店のフランチャイジー(子分)から、提案をよく受け入れているチェーンが、持続的な成長を遂げているものです。日々の営業を必死に続けている人間から発せられるアイデアや提案が、無用なはずがありません。積極的に取り入れて、よい結果が出たものは、共通の財産としてさらに磨き上げていけばいいのです。

大事なことは、コミュニケーションの場を定期的に持ち続けることです。その場で「子分の話に耳を傾ける」ということですね。そういう場がない限り、子分も必死ですから、“暴走”は避けられません。ただし、商品の価値、店のトータルバリューを下落させるような提案は、断固ハネつけなければなりません。食材の品質を下落させること、調理の手間を省くこと、サービスの面倒くさい部分を切り捨てること、理にかなっていない価格の改定。これらは、一瞬の利益を生むことがあります。しかし、価値を落としているのですから、お客は確実に店から去っていきます。評判はガタ落ちとなり、親分の店も子分の店も共倒れとなります。

やっていいこと、悪いことの基準は、あくまでもお客目線です。お客が享受していた利益、価値、楽しさ(つまり店の本来の魅力ですね)を少しでも減殺するような提案は、断固ハネつけなければなりません。この基準がはっきりしていれば、どんな提案に対しても公平な判断を下せます。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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