2016/01/29 繁盛の黄金律

マニュアルは「バラつき」を極小化させる必須の道具だ

バラつきこそが飲食業の最大の敵 -飲食店での最大の罪は「バラつき」です。それは、商品、サービス、クレンリネスのすべての面に現れます。飲食業の本質は製造業。「バラつき」は致命的な欠陥です

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Vol.53

バラつきこそが飲食業の最大の敵

飲食店での最大の罪は、「バラつき」です。バラつきは、商品、サービス、クレンリネスのすべての面に現れます。メニューのバラつきは、味が違う、量が違う、盛り付けが違う、付け合せが違う、などのほかにも、器が違う、器の温度が違う、提供時間が違う、といったことも含まれます。また、サービスと連動して、提供の仕方が違う、もあるでしょう。

飲食業の本質は製造業なのですから、提供商品がいつもバラバラというのは、致命的な欠陥です。また、飲食業はサービス業でもありますから、提供の仕方も「いつも同じ」でなければなりません。

とはいえ、基本的に店の調理場で“商品”を作り、作ったものをそのまま提供する商売が飲食業ですから、作る人や提供する人が違えば、どうしてもバラつきが出てしまいます。料理長がいるときにはすばらしい料理が出るけれど、休みの日はメチャクチャ。これはあってはならないことですが、しばしば目にするケースです。そのバラつきを極小化することが、飲食業の基本姿勢でなければなりません。

まず、商品のバラつきについて。それぞれの商品のスタンダード(あるべき形)が、全調理者に徹底されていなければなりません。それは主力商品に限ったことではなく、全メニューのスタンダードの徹底がなされていなければなりません。さらに、このスタンダードは、調理者のみならず、フロア担当者にも徹底されている必要があります。なぜならば、スタンダードからはずれた商品が出されたとき、フロアの人間は調理場に返すことができなくなるからです。来店客からクレームが出る前に、フロアのスタッフが欠陥品を調理場に戻す習慣が確立されていなければならないのです。

バラつきの発生を防止するためには、正確な調理マニュアルが一品一品にあり、それが忠実に実行されていなければなりません。しかし、そもそも調理マニュアルが存在している店は少ないのが実情です。ベテランの調理人のやり方を、下位の弟子が見よう見真似で覚えて、似たような商品を作っているのが現実です。こんなことでは均質な商品を提供できるはずがありません。

調理マニュアルはレシピとは違います。レシピは分量を示したものですが、調理マニュアルは工程表です。調理時間内にどういう動作で商品を作っていくか、そのプロセスを表したものです。そんな面倒なものを作れるか、とおっしゃるかもしれませんが、自動車工場でも工程表がなければ、どんなベテランだって自動車を完成させられません。調理マニュアルこそは、均質の基盤となるものですから、まずは主力メニューから作ってみることを心がけたらどうでしょうか。

調理マニュアルは厳守するものサービスマニュアルは乗り越えるもの

調理マニュアルがあっても、調理場の中でどんどん改変され、簡略化されていきます。これが均質化の最大の敵と言ってもいいでしょう。A→B→C→Dという順番でやらなければならないのに、A→C→B→Dが一般化されてしまったり、Cが抜かれてしまったり、放っておくとどんどん骨抜きになっていくのです。

しかし、場合によっては、本来の調理マニュアルよりも、改変されたり簡略化された手順のほうが合理的であったり、商品の質が上がったりするケースもあります。ですから、調理マニュアルは改変されることが前提になります。それは調理場で勝手に変えるのではなく、常にマニュアルそのものが書き換えられ、それが周知徹底されていなければならないのです。

つまり、店主はすべての料理の調理工程に精通していなければなりません。そして、実際の調理場でどのような不具合が生じているか、観察し続けなければなりません。料理長の力量があればあるほど、バラつきの振り幅は大きくなります。料理長とその弟子たちの力量の差を、できるだけ小さくする道具が、調理マニュアルなのです。

サービスマニュアルも同じものです。新人がベテラン従業員のレベルにできるだけ近づくための手引書であり、入門書です。調理マニュアルとサービスマニュアルの違いは、前者が厳守するものであるのに対し、後者は乗り越えるものである点です。サービスマニュアルは、基礎の中の基礎に過ぎません。初心者の目標です。

飲食店に対する顧客の失望の最たるものは、「バラつき」であることを、肝に銘じておくべきです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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