2016/06/01 繁盛の法則

生産者から直接仕入れる素材を活かしたワインバルとは

地元素材で魅了する「横濱頂食堂」(横浜・西区) に学ぶ-昼の主力商品は、三浦地魚のカルパッチョ、地野菜のサラダなど、8種類ほどのおかずに、スープ、ご飯がつく「日替り『頂バル』プレート」だ。(

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横濱頂食堂

Key Point

  1. 地元素材の仕入れルートを確立
  2. 素材の持ち味をストレートに訴求
  3. 生産者と顧客との関係づくりに尽力

充実のプレートランチが女性に好評

神奈川県三浦市の三崎漁港から直送される魚介類や、地元の契約農家から仕入れる野菜をふんだんに使う「横濱頂食堂(よこはまいただきしょくどう)」が、女性を中心に人気を集めている。ビルの地階の飲食店街にある19坪34席の店舗が、ランチタイムだけで連日3回転するほどだ。ランチの主力商品は、三浦地魚のカルパッチョ、地野菜のサラダ、そうざい、ピクルスなど、8種類ほどのおかずを彩り鮮やかに盛りつけ、スープ、ご飯がつく「日替り『頂バル』プレート」(950円)や、野菜料理に特化した「地野菜たっぷりVEGEプレート」(900円)などで、素材の新鮮さやボリューム感が際立っている。夜は、お通しの地野菜バーニャカウダから始まり、地野菜のグリルやサラダ、肉料理、魚料理などを、樽生ワインなどとともに楽しむ、ワインバルとして営業している。

オープンは2015年6月24日で、横浜駅西口に広がる地下街に直結したビル内にある。経営元は株式会社守正。同社は1990年オープンの「海彦金沢文庫店」から始まり、1996年に「海彦杉田店」、1999年に「漁師家杉田店」、2010年に「三浦頂食堂上大岡店」を、いずれも横浜市内に出店してきた。創業当初から三崎漁港から直接仕入れる魚介類をメインにしており、さらに「三浦頂食堂」からは地野菜も本格的に取り入れている。各店とも昼は900~950円、夜は3200~3500円ほどの客単価の居酒屋業態である。

「横濱頂食堂」の出店にあたっては、ビル側からは同フロア内の既存店との競合を避けるため、和風居酒屋、串焼き店、そば店以外の業態という条件が出された。そこで、同社初の洋風業態にチャレンジすることにし、得意とする地魚や地野菜を洋風の料理に仕上げ、トレンドを意識したワインバルというスタイルをとっている。

夜の人気メニューより、手前が「三浦地魚と地野菜のカルパッチョ」(980円)、奥が「地野菜グリル」(880円)。カラフルニンジン、釜利谷シイタケ、うずまきビーツ、紅しぐれダイコンなど、個性的な地野菜を楽しめる

「おいしい」を原点に生産者との連携を強化

同社の正木裕久代表取締役は、1960年横浜生まれ。急成長期にあった大手居酒屋チェーンに5年ほど勤務した後、30歳で独立開業を果たした。在職中には、アルバイト中心で稼働できるシステムや、急拡大して上場を目指す企業戦略を経験しながら、自分自身が目指す居酒屋のイメージを固めていった。海に近い金沢八景在住で、漁師の娘と結婚した正木氏は、金沢八景名産のアナゴや地魚などのおいしさを熟知している。独立に際し、「飲食店の原点として、本当においしいと思えるものをお客様に提案したい。特に、その土地の素材のおいしさを届けたい」と基本方針を定めた。このような店舗の特徴を端的に表わせるようにと、長年温めてきた店名が「海彦」だった。

そして、三崎漁港の市場から三崎マグロ、湘南シラスなどの地魚を仕入れ、その日の夜には店舗で提供できる体制を整えた。今では、同社から独立した仕入れ部隊が市場の入札権を持ち、同社の各店や仲間の店舗に配送している。地野菜は、都内でも注目され始めた鎌倉野菜をきっかけに、横須賀、横浜などの農家とのつながりを深め、直接仕入れて「鎌倉湘南野菜」として提供している。現在は、正木氏を含めて2台の車両に分かれ、毎朝契約農家を回って仕入れている。各農家を訪ねる曜日を決めておき、多少の天候不順があっても安定して調達できるように協力してもらっている。農家側としても、一定の販売量が確保できるため、計画的な生産ができるほか、多少外観の悪い野菜も廃棄せず、料理に活かしてもらえるメリットがある。

「横浜で生産された野菜は、あまり流通にのっていないですから、横浜の方たちが食べる機会が実は少ないのです。地元の素材は、われわれのような零細企業が細かく動きながら、毎日のように仕入れに行くことが肝要です。システムになり切れないようなおいしさの追求なのですね。そう考えながらずっと続けているので、徐々に、漁師さんや農家さんから地元素材が集まるようになってきています」と正木氏は真摯に語る。店内の壁面やメニュー表、パンフレットなどでも生産者や生産物の紹介に努めている。

同店が地魚、地野菜をメインとするワインバルとして、女性を中心に支持されている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 新鮮な地元素材を仕入れる独自のルートを確立している。
  2. 素材の持ち味を活かし、ストレートに訴求している。
  3. 生産者と顧客との「顔が見える関係」づくりに尽力している。

カフェの居抜きを利用した同店では、キッチンが手狭なこともあり、4月からは「海彦金沢文庫店」が同店のセントラルキッチンを兼ね、ドレッシングやそうざいをつくって同店に配送するようにした。

「『横濱頂食堂』は、まだまだ伸びしろがあると考えています」と語る正木氏。地野菜とドレッシングの詰め合せの販売など、様々な可能性に挑戦していく考えだ。

横濱頂食堂
住所

神奈川県横浜市西区北幸1-4-1 横浜天理ビル B1F
TEL 045-595-9681
営業時間
11:30~15:00、17:00~23:00
定休日
無休(ビル休館による休業日あり)