2016/07/21 繁盛の法則

質のいい野菜を使った料理とオムライスで人気の店とは

夫妻で営む「アイノワール」(東京・東高円寺) に学ぶ-ピラフの上に泡立てた玉子をのせた「ふわふわオムライス」が人気で、客の約半数が注文。日本全国、ときには海外からもこれを目当てに人が訪れる。

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アイノワール

Key Point

  1. 生産者から直接仕入れる野菜を駆使
  2. 幼稚園の近くで主婦を誘引
  3. 独特の「ふわふわオムライス」を開発

交通事故により人生が一転。リハビリを兼ねた店で再出発

東京・東高円寺の「アイノワール」は、ていねいに育てられた野菜を使った独自の料理でファンを増やしている洋食店である。12坪18席というこぢんまりした店舗でありながら、最多で1日約170人を集客した日もあるほどだ。特に主婦の支持率が高く、女性が95%近くを占めている。

店主の原 賢一氏は高校卒業後、ホテルの料飲部のシェフとなり、都内のプリンスホテルのフレンチレストランに15年、ヒルトン東京ベイの洋食部門に13年勤務した経験をもつ。ところが、2009年に交通事故に遭い、脊髄損傷により両腕が動かなくなってしまった。もう調理の世界には戻れないとホテルを退職し、1年ほどの自宅療養中に、秋田・玉川温泉での湯治を勧められ、3週間ほど行ってみることにした。脊髄損傷、脳梗塞、がんなどの患者が、それぞれの病気ごとのコミュニティに分かれ、情報交換をしながら湯治している中で、共通で食べているのが、伝承製法で熱処理された黒ニンニクだった。原氏は次第に、「自分は死と直面しているわけではなく、今は両手が動かないだけだ」と考えるようになり、東京に戻って一からリハビリに励む決意を固めた。同時に、黒ニンニクの作り方を教えてもらい、食べ続けているうちに次第に元気が出て、なんとか鍋を振ることもできるようになった。

そんな原氏の回復ぶりを見て、調理の仕事に戻ったほうがリハビリにもなると考えた妻のちえさんが、「私がサポートするから、自分たちでできることから始めていきましょう」と、2012年に調理師免許を取得してくれた。リハビリのために始める店なので、1人前ずつていねいに作った料理を出していこうと考えた。そのためには、繁華街から外れた立地で、家賃も手ごろな物件がいいと、探した中で見つけたのが現物件。また、近くに私立の幼稚園がある場所で、子供の送り迎えの際にママ友たちに利用してもらえるように、野菜を使ったヘルシー料理を提供することにした。現物件の近くには、幼稚園から高校まである私立の女子校があることも決め手だった。

ベジブロスで炊いたチキンライスに、全卵1個分をきめ細かく泡立ててかけた、「ふわふわオムライス」(800円)と、スムージー「ニンジン・マンゴージュース」(600円)

全国各地の生産者を訪ね、野菜の仕入れルートを確保

玉川温泉で出会った人から、「今までさんざん高いお金を払っていろいろな料理を食べてきたが、しっかり育てた野菜に塩だけ振って食べるのがいちばんうまい」と言われたときに、原氏は目からウロコが落ちたような気がした。「ホテルのシェフとして、技を加えて一皿を仕上げるという世界で30年近く働いてきましたが、本当のおいしさは全然違うのだと気づかされたのです」と原氏は振り返る。そこで、ていねいに野菜を育てているという全国各地の生産者を訪ね、「開店したらぜひ野菜を使わせてほしい」と頼み、年間通しての仕入れの目途をつけ、2013年10月に「アイノワール」をオープン。店名は、フランス語で黒ニンニクを表す「Ai-Noir」と、「愛のある」という日本語をかけ合わせて名づけた。

有機栽培や特別栽培で生産された野菜なので、皮、種、ヘタ、軸など抗酸化作用が強い部分を煮出してベジブロス(野菜出汁)を取り、そのベジブロスと鶏肉を加えて、北海道・東川町産の良質な米「おぼろづき」を炊くと、やさしい味のチキンピラフができる。このピラフをよりおいしく食べてもらうために、以前研修で訪ねたフランス・モンサンミッシェルのフワフワのオムレツを思い出し、ピラフの上に泡立てた玉子をのせたオムライスを考えた。普通に皿盛りにすると、玉子が生のままになるので、熱した鉄板にピラフをのせ、泡立てた玉子をかけてみた。すると食べ進むうちに玉子やピラフにお焦げができるため、食感の変化を楽しめる「ふわふわオムライス」(800円)として提供することにした。今では来店客の約半数がオムライスを注文するほどで、日本全国、ときには海外からもオムライス目当ての人が訪れる。客単価は、昼は1000円前後で、スムージーがよく出る日は1500円ほどになる。夜も料理とスムージーという利用が多く、客単価は約1500円となっている。

同店が住宅街の外れで、来店動機を持った人を集客できている要因は、以下のようになるだろう。

  1. 生産者から直接仕入れる野菜を使った手作り料理を提供している。
  2. 幼稚園の近くで、子供の送り迎えの際に立ち寄る主婦を誘引している。
  3. 「ふわふわオムライス」というオリジナルの人気商品を開発している。

また、店内の壁面をギャラリーとして無料で貸し出しており、3週間ごとに内装が一新する。絵やアクセサリーなどの作家が知人を呼んでくれるため、集客にも大きく貢献している。

「この立地でこれだけお客様が来てくれるのは、周りの人に奇跡だと言われています。その秘訣は、とことんこだわり抜き、手抜きをせず、すべて手作りでやっているところではないでしょうか」と、原氏は自負を込めて語っている。

アイノワール
住所

東京都杉並区高円寺南2-37-13 ハイム山川 1F
TEL 03-5929-7210
営業時間
11:30~L.O.14:30、17:00~L.O.20:30
(土・日・祝 11:30~LO.20:30)
定休日
水曜日